持続可能な原材料調達
セミナー「資源開発とCSR〜環境社会影響とその対策〜」開催報告
国際的な資源の争奪競争が繰り広げられる中、資源開発における環境社会リスクに対する国際的な関心も高まってきています。開発の現場においては、大規模な生態系の破壊や地元社会へのさまざまな影響が生じています。エネルギー・金属資源はほぼすべてを輸入に頼っている日本にとってこれらの影響は他人事ではすまされません。
当フォーラムは、国際環境NGO FoE Japanと共催で、2008年3月12日、「資源開発とCSR〜 環境社会影響とその対策 〜」と題するセミナーを開催しました。セミナーでは、資源をめぐる国際的な動向、ナイジェリアの石油開発やフィリピンの鉱山開発などの事例、紛争を回避するための取り組みが紹介されました。以下その概要を紹介します。
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■ 資源開発と先住民族の権利 (谷口正次さん/資源・環境ジャーナリスト、国連ゼロエミッションフォーラム理事) |
●一次資源に依存する工業化社会
今、世界の鉱物資源はごく少数の国際資源メジャーによって寡占支配が進んでいます。その一方で経済成長が著しい中国がメタル争奪戦に参戦してきています。
資源開発の現場で何が起こっているのかということを考えてみましょう。エコロジカル・フットプリントという指標がありますが、まさに、現場では工業化社会を支える為に自然破壊が進み、先住民の権利が奪われ、社会的、文明的崩壊が進んでいます。ところが工業化社会の住人たち、私たち日本人はここで何が起こっているか知らされていない。工業化社会の中でいくら循環型社会と唱えてみても、それを支える資源開発の現場にまで思考がいきつかない。アウト・オブ・マインドになっている。「日本だけが美しい国になれば良いのですか?」ということになるのです。
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調査と交渉でコミュニティの権利を守る (シャンタ・マーティン/オックスファム・オーストラリア, マイニング・オンブズマン) |
●開発に対する選択の自由
オックスファム・オーストラリアは、鉱山をめぐる諸問題の監視とその解決をめざして「マイニング・オンブズマン」というプログラムを設けています。
昨年は、スリナムのオーストラリアの鉱山企業、アフリカ、マラウィにおけるオーストラリアのウラン採掘企業の調査要請をうけました。調査は、鉱山そのものを訪問し、コミュニティの人々と会い、彼らの話しをききます。また彼らに、国際的な人権擁護のシステムや環境保全のためのメカニズムの説明をし、アドバイスをします。また、企業の従業員、政府、教会などの様々なステークホルダーとも話し合います。調査を行った後、情報をオーストラリアに持ち帰り、企業本社とコンタクトをはかり、その情報を提示し、きちんと対応するよう求めます。
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■ 資源の開発とコミュニティの苦難 (ニモ・アドルフ・バシー/FoE ナイジェリア) |
私は15年にもわたり、環境や社会問題に関する活動を行っていますが、以前は人権運動に力をいれていました。ナイジェリアでは、逮捕、拉致、拷問を受けたりと様々なことが政治的な理由で生じ、計画的に住民の運動を押さえつけようという動きがあります。これが最も顕著に現れたのが1995年です。ケン=サロ・ウィワという環境活動家が処刑されたのです。ナイジェリアは、1億4千万の人口をもつ大きな国であり、250の民族が存在し、それらが異なる言語を話す、美しい国です。こうした美しい国が維持されるべきというのが我々の考え方です。
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日本企業に求められる環境社会配慮とは〜国際協力銀行の経験より (岡崎 克彦さん/国際協力銀行環境審査室室長) |
●資源に依存する日本と国際協力銀行の使命
日本は世界に資源を大きく依存しています。石油に関しては国内の自給率がわずか0.1%。日本に入って来る総輸入量の内、国際協力銀行が関与している割合が17%。それから天然ガスの国内の自給率が4.1%。日本に入って来るものの90%以上を国際協力銀行が融資しています。鉱物、鉱山資源、石炭、銅、鉄に至っては日本では一切獲得することができません。すべて海外の輸入に依存しているということです。こうしたものを海外で開発するプロジェクトから、日本に実際に入って来る量、JBICが融資した山から出てきたものが全体の輸入にどのくらい占めているかというと石炭で40%、銅鉱石で20%、鉄鉱石で63%です。
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資源開発における環境社会影響の事例〜フィリピン・ニッケル製錬事業 (波多江秀枝/国際環境NGO FoE Japan 委託研究員 ) |
リオツバはフィリピンのパラワン島の南端にあります。島の州都からは飛行機で30分ほど、車だと6時間。パラワン島は生物多様性の豊かな島です。とくに北部はエコツーリズムが盛んで、欧米人はよく訪れている所です。
リオツバではHPAL法(High Pressure Acid Leach:高圧酸浸出法)によりニッケル製錬の中間品の生産を行い、これを愛媛県新居浜にある住友金属鉱山の工場に運びニッケルを作っています。
リオツバは1970年代から開発されており、フィリピンの会社が高品位のラテライト鉱を使い中間品の生産を行っていました。低品位のラテライト鉱は捨てていましたが、今ではHPAL法で質を上げ、輸出用の中間品を作っているのではないかと思います。
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■パネルディスカッション 「現場での被害〜知らないではすまされない日本社会」 ファシリテーター:樋口博子/地球・人間環境フォーラム客員研究員 |
続いて行われたパネルディスカッションでは、世界中から資源を輸入する日本社会がとりうる取り組みについて議論が行われました。事例として、日本のODAによる開発支援が行われたブラジルのカラジャス鉱山、パプア・ニューギニアのオクテディ鉱山などが紹介された。前者は大規模なアマゾンの破壊と1万人を超えるインディオの生活が犠牲になったことにより国連の査察団が派遣された事業であり、後者は、河川の汚染により5万人もの被害が生じました。両者とも日本に関連の深い鉱山です。
参加者およびパネリストからは、「環境社会配慮を重視した投融資の重要性」、「ノルウェー年金基金のように、破壊的な鉱山からは投資を引き上げることも」、「積極的に経営に参加することも一つの選択」「「とにかく、企業は商社まかせにせず、現場に足を運ぶことが重要」などの意見が出されました。最後に、ファシリテーターの樋口博子が「日本社会として、資源開発の現場を直視することこそ必要」と議論をしめくくりました。
●日 時 | 2008年3月12日(水) 14:00〜17:30 |
●場 所 | JICA地球ひろば 3階講堂 (住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾4-2-24) |
●主 催 | 地球・人間環境フォーラム、国際環境NGO FoE Japan |
●後 援 | WWFジャパン、国際協力機構(JICA) |
●協 力 | 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、環境を考える経済人の会21(B- Life21)、サステナビリティ・コミュニケーション・ネットワーク(NSC)、サステナビリティ日本フォーラム、社会的責任投資フォーラム(SIF Japan)、日本環境ジャーナリストの会、日本国際ボランティアセンター(JVC) |