持続可能な原材料調達
セミナー「資源開発とCSR〜環境社会影響とその対策〜」開催報告
■資源開発における環境社会影響の事例〜フィリピン・ニッケル製錬事業
(波多江秀枝/国際環境NGO FoE Japan 委託研究員) |
リオツバはフィリピンのパラワン島の南端にあります。島の州都からは飛行機で30分ほど、車だと6時間。パラワン島は生物多様性の豊かな島です。とくに北部はエコツーリズムが盛んで、欧米人はよく訪れている所です。
リオツバではHPAL法(High Pressure Acid Leach:高圧酸浸出法)によりニッケル製錬の中間品の生産を行い、これを愛媛県新居浜にある住友金属鉱山の工場に運びニッケルを作っています。
リオツバは1970年代から開発されており、フィリピンの会社が高品位のラテライト鉱を使い中間品の生産を行っていました。低品位のラテライト鉱は捨てていましたが、今ではHPAL法で質を上げ、輸出用の中間品を作っているのではないかと思います。
事業者はコーラル・ベイ・ニッケル株式会社といい、株主は住友金属鉱山54%、三井物産18%、双日18%、リオツバ・ニッケル鉱山10%です。国際協力銀行が融資し、日本貿易保険が付保を決定しています。2005年4月に工場が完成しています。1号機がすでにできていますが、同じサイトに2号機を作るということを2006年3月に住友金属鉱山が発表しており、現在、拡張工事が進んでいます。
●地元の懸念
リオツバ製錬事業に伴う社会環境影響ですが、現時点で次のような懸念が地元からあがっています。
まず、石炭火力発電所の石炭が、イスラム社会の方たちの集落から非常に近い所にあるストックヤードに貯蔵されています。ここでは屋根のない平地に放置されています。子供や年配者の咳が増加するなど、肺への健康被害が懸念されています。ストックヤードの移転の話が事業者からされていたそうですが、未措置のまま放置されているようです。
次に、道路の粉じんの問題があります。埠頭近くから工場までの主要道路はコンクリート化されましたが、依然として粉じんがひどい状況の場所が多くあります。とくに、製錬過程で中和剤として使われている石灰石の採石場から製錬工場までの道路はひどいものがあります。
皮膚病の増加も懸念材料です。2005年5月頃から、海沿いの集落で皮膚病の子供が突発的に増加していると言われています。事業者は集落にトイレがないため衛生上の問題からくる水質汚染だろうと言っているようですが、トイレがないのは以前からで今に始まったことではなく、その原因は依然として明らかではありません。
それから、工場周辺での異臭。操業が始まった2005年8月ごろから、風向きによって硫黄系の異臭がするようになったと言われていますが、これもまた因果関係ははっきりしていません。
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開かれた信頼できる調査を
事業者と住民たち、それから現地のNGOの間での不信感は非常に大きくなっています。とくにリオツバでは、この精錬所ができるまでフィリピンの会社が30年鉱山活動を続けており、彼らは地元住民にプログラムの提供だとか雇用の優先権などいろいろな約束をしながら、何も守ってきませんでした。こうしたことが積み重なり、不信感は募っています。製錬所建設の際も住民から大きな反対がありました。
フィリピンの環境法のもとで、Multi-pertite Monitoring Team (MMT)という、地元のNGOや首長、役人などさまざまな人が参加するモニタリングの体制は整っています。しかし、報告は出ていてもやはり不信感は強い。皮膚病や異臭などは因果関係を証明するのが非常に難しい。お金も技術もないなかでどうやって開かれた独立した調査が行えるのかがポイントだと思います。
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守られるべき先住民族の権利
一番大きな懸念は先住民族への影響です。この事業に限らず、鉱山開発、他の大型のインフラ開発によって、先住民族の権利が侵害されるケースが非常に多い。
この事業では石灰石を中和剤として使うのですが、その採石場は先住民族が使ってきた場所です。今でこそ真っ裸ですが、以前は木で覆われていました。
以前は木で覆われていた石灰石の採石場 |
この丘を使っていたのがパラワンという先住民族約30家族で、薬草をとったり、病人が出たときに儀式を行ったり、足しげく通っていたそうです。彼らの文化的な場所だったわけですが、合意がどのようにして得られたのかを非常に懸念しています。
例えば、2002年に環境影響評価が行われたときにどのようなことがあったか。地域社会の協議の場の出席シートに書いた住民のサインが、その後環境影響評価シートにとして添付されていて、あたかも合意しているかのように使われていたという報告があります。
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必要なのは基準ではなく現地の声を聴くこと
もう一つは、「自由で事前の情報提供を行った上での合意(Free and Prior Informed Consent :FPIC))の問題です。
先住民族パラワンには伝統的な意思決定の方法があります。それはフィリピン法に則らない意思決定のシステムで、パンリマと呼ばれる族長のもとにある評議会で意思決定される。ところがこの事業においては、2003年に政府側から「Chieftain(首長の意の英語)」と銘打たれた人が指名され、その人のサインにより合意がされたことになっています。
こうしたケースはここに限らずマレーシアのダム開発などでも聞いています。
FPICというのは国際的なスタンダードです。先住民族のエリアで開発事業があるときに、彼らの権利が無視されていたり、彼らが先祖代々受け継いできている土地に権利書のようなものがなかったりする。そうした当該国の法律でカバーされないような土地の権利や、集団権を無視しない形で開発を行う必要性が、今国際的なスタンダードとして認識されている状況があります。
その中で、事業者側、政府側も巧妙になっていて、FPICが国際的なスタンダードゆえに取らなければならないので同意を偽造したりということが出てきています。実質的に地元に行って話を聞いてくると浮き上がってくる問題なのですが、国際協力銀行や地元にあまり行かない人たちにはそういったところが見えずに、「全員が合意した(All Agreed)」という形で進められていると理解しています。
私たちはそこが非常に問題だと思っています。融資機関としての国際協力銀行の環境パフォーマンスを見ています。そうしたことが起きないように、また、これからリオツバ事業の拡張工事が行われるわけですが、先住民族や専門家の意見を聞くべきではないか、銀行の環境審査の中にそうした意見を取り入れるべきではないかという話をしています。
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