持続可能な原材料調達
セミナー「資源開発とCSR〜環境社会影響とその対策〜」開催報告
■調査と交渉でコミュニティの権利を守る (シャンタ・マーティン/オックスファム・オーストラリア, マイニング・オンブズマン) |
●開発に対する選択の自由
オックスファム・オーストラリアは、鉱山をめぐる諸問題の監視とその解決をめざして「マイニング・オンブズマン」というプログラムを設けています。
昨年は、スリナムのオーストラリアの鉱山企業、アフリカ、マラウィにおけるオーストラリアのウラン採掘企業の調査要請をうけました。調査は、鉱山そのものを訪問し、コミュニティの人々と会い、彼らの話しをききます。また彼らに、国際的な人権擁護のシステムや環境保全のためのメカニズムの説明をし、アドバイスをします。また、企業の従業員、政府、教会などの様々なステークホルダーとも話し合います。調査を行った後、情報をオーストラリアに持ち帰り、企業本社とコンタクトをはかり、その情報を提示し、きちんと対応するよう求めます。
よく直面する問題としては、先住民族の人々が土地や生計を失うケース、住民移転にあたっての補償が適切ではないケース、また、自由意思による事前の十分な同意がないという問題もあります。現地の人が理解可能な形での情報提供、同意をする、しないの選択ができるようにすることが必要です。先住民族は企業の行う開発を求めてはいません。彼らは彼らなりの豊かさがあるのです。
●ティンタヤ銅山(ペルー)〜オンブズマンと企業が共同調査で紛争を解決へ
1980年代に、ペルー政府が5つのコミュニティの土地を接収し、そこをBHPビリトンが取得し、鉱山も拡張しようとしました。居住者を強制退去させたので、多くの衝突が生じました。また、開発によりコミュニティの持続可能な生活が失われていました。人々はオックスファムにやってきて助けを求めました。オックスファムはまずBHPビリトンを訪問しましたが、彼らの認識は「そんな問題は起きていない」というものでした。
その後、マイニング・オンブズマンとBHPビリトンが一緒に、現地調査を行うことになりました。それにより、BHPビリトンは、開発がコミュニティの同意を得ていないこと、環境影響評価がきちんと行われていなかったこと、土地の消失がコミュニティに甚大な影響を与えていることを認識し、対話が必要であることを理解しました。
私たちは、コミュニティが直接会社と交渉する席を設けました。話合いにより、コミュニティと会社の間で合意が成立ました。すなわち、女性の意思決定への参画、コミュニティの理解できる形での情報の提供、情報を理解する際に必要に応じてNGOの支援をえることです。また、企業は、少なくとも失われた土地と同じ面積の土地をコミュニティに与えるべきであることを認めました。人権についての調査も行われました。さらに、鉱山からの収益の1.5%分の基金を設け、コミュニティと企業が共同でそれを何に使うかを決定することとしました。企業にとっては、このような対立の解決が、安定した操業につながり、騒乱を未然に回避することができるというメリットにつながります。
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トルクマ金鉱山(パプアニューギニア)〜地域をむしばむ汚染
トルクマ金鉱山には大きな川があり、鉱山はそこに年25万トンも廃棄物を流していました。地域の人達は、川から飲料水を得て、調理、洗濯、レクリエーションや文化・精神的儀式をこの川で行ってきました。川は生活の場でもあり、文化の源でもあったのです。ところが、川の汚染が様々な病気を引き起こし、死亡する人もいました。特に、女性への影響が深刻でした。地域の人達は、川を憎むようになりました。川は痛みと恐れをもたらすからです。
オックスファム・オーストラリアはこのコミュニティから要請を受け、現状を調査しました。2001から2004年にかけて、何度か現地を訪れ、証拠を採取し、それをもとにレポートを作成しました。しかし、会社側は何の反応も示しませんでした。
2005年には、専門家に委託し、科学的調査を実施した結果、WHOの基準をはるかに上回る高濃度の鉛、水銀、青酸や砒素が検出されたのです。川だけでなく、企業が作った井戸も汚染していることがわかりました。私たちはそれを地域の人々に伝え、地域の人々がどうするかを考える場を設定しました。
“今私たちはこの川が好きではありません。むしろ嫌いです。私たちが、この川に対して持っていた敬意は、今はなくなってしまいました。今や川は私たちに苦痛や恐れを与えるものになってしまいました 。” |
● 企業を交渉の場に引き出すまで
こうした対話だけでなく、国や州政府、投資家にも働きかけました。これを受けて、ノルウェーの世界最大の年金基金はこの企業の親会社の投資を引き上げることを決定しました。また、同時平行して、私たちは政策変更のためのロビー活動も行いました。そもそも川や海に鉱山廃棄物を廃棄することを禁止しなければなりません。こうしたことは、オーストラリアでもカナダでもアメリカでも禁止されているのです。しかし、そうした国の企業が、パプアニューギニアやフィリピンとなると、自分の国で禁止されているのにもかかわらず、こうした廃棄がなされているのです。
こうした活動を通じて、ようやく企業と共同で水の調査ときれいな水を提供することへの合意を得ました。大切なことは調査が、オックスファムの技術者や科学者、企業だけでなく、コミュニティも参加して、彼らが主導して行われたということです。コミュニティが主体となり参加し、自分達の権利を守り、開発について自分達で決定している。こうした権利をベースとしたアプローチは、関係者全員にメリットをもたらします。地域にとっては、自分達のことは自分達でできること、企業にとっては、彼らの評判を向上させることができます。
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