持続可能な原材料調達
セミナー「資源開発とCSR〜環境社会影響とその対策〜」開催報告
■資源開発と先住民族の権利 (谷口正次さん/資源・環境ジャーナリスト、国連ゼロエミッションフォーラム理事) |
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一次資源に依存する工業化社会
今、世界の鉱物資源はごく少数の国際資源メジャーによって寡占支配が進んでいます。その一方で経済成長が著しい中国がメタル争奪戦に参戦してきています。
資源開発の現場で何が起こっているのかということを考えてみましょう。エコロジカル・フットプリントという指標がありますが、まさに、現場では工業化社会を支える為に自然破壊が進み、先住民の権利が奪われ、社会的、文明的崩壊が進んでいます。ところが工業化社会の住人たち、私たち日本人はここで何が起こっているか知らされていない。工業化社会の中でいくら循環型社会と唱えてみても、それを支える資源開発の現場にまで思考がいきつかない。アウト・オブ・マインドになっている。「日本だけが美しい国になれば良いのですか?」ということになるのです。
自然破壊、先住民の文化破壊、人権抑圧などが生じている発展途上国に、いま先進工業国がどれだけ依存しているか。1850年代、産業革命の終わり頃、ヨーロッパ域内で60%以上の資源が採掘されていたのですが、第一次、第二次大戦頃になると急激に減り、10%を切っています。アメリカもやはり現在は10%以下です。ロシアは20%程度です。それに対して発展途上国6カ国、コンゴ民主共和国、ザンビア、南アフリカ、南米のペルー、チリ、ブラジル、その他にもインドネシア、パプアニューギニアという資源大国を加えれば既に30%、将来は40%を占めることになるでしょう。
●増加する金属消費量と資源メジャーの動き
金属消費量の1955年から2005年まで50年間の伸びですが、ニッケルは17倍、鉄は4倍、銅が7倍、と膨大な量になっています。その膨大な消費量増加の主な原因はやはり中国です。世界の金属消費量のうち平均すると25%は中国が消費しています。資源大国と思われていた中国があまりにも経済成長が早い為に国内の供給が消費に追いつかず大量に輸入をしているのです。
一方、国際資源メジャーの間では、すさまじい買収合戦が起こっており、ますます寡占化が進んでいます。カナダの世界第二位のニッケル鉱山会社インコが争奪戦の結果、最終的にブラジルの鉄鉱石鉱山会社に買収されました。ごく最近、世界最大の鉱山会社BHPビリトンが約16兆円で第二位リオ・ティントに買収提案をしたところ、そうはさせじと中国の国有アルミニウム会社とアルミニウム世界一のアルコアが組んでリオ・ティントの株式12%を取得して、BHPビリトンにブロックをして対抗しています。
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祖先から受け継いだ遺産を守る闘い
そうした中、開発の現場では何が起こっているのでしょうか。ニューカレドニアのゴロ・ニッケル鉱山の例をご紹介します。ここは現在開発中で、今年度末に完成を目指して進めていますが、ここでは先住民の人たちが太古の祖先から受け継いだ森林、生態系を何とか守りたいといって、反対運動をしているところです。ラテライト系のニッケル鉱ですが、森林をなぎ倒しどんどん破壊しながらニッケルを採掘しています(本誌○号に報告を掲載)。金や銅の鉱脈と違って、ニッケルは表面から10〜20mの場所に広く分布し、植生や表土を広範囲にわたってはぎとるような方法で採掘しています。
フィリピンでも昔から金と銅がよく採れるところで、やはり先住民の住んでいる豊かな森の中にしか、もう資源がなくなってきた。そういうところに手をつけようとすると、その森を利用してきた先住民族の人たちが反対運動をします。反対運動のリーダーが殺害されるというような事件も起こっているのです。
インドネシアのグラスバーグ鉱山は、世界最大の有名な金鉱山、アメリカのフリーポート・マクモラン社がずっと以前から開発していた、標高4400mの赤道直下、氷河がまだ残っているようなところを掘り進んでいます。これも先住民が強制移住させられ、拉致や暗殺などが生じている模様です。会社は直接インドネシアの軍隊を雇って、反対者を抑圧しているのです。年間1億6000万トンの岩石が採掘され、毎日数十万トンの廃石が発生します。鉱石の部分は細かく砕いて金と銅を取り出すわけですが、ここではその廃棄物(テーリング)を川に流しています。
このためテーリングが
周辺の熱帯雨林の中にあふれ出し、有害物質を含んだまま海に流れ込みます。
写真はブーゲンビル島といって、パプアニューギニアの第二次大戦中の激戦地ですが、そこで私がヘリコプターの上からとったものです。これも銅鉱石のテーリングが森に流れ込んでいる光景で、このようなところが随所にあります。
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「お金はいらない。スーパーマーケットもいらない」
オーストラリアは豊富なウラニウムを有し、3つほど鉱山があります。オーストラリアで最も生産量の高いレンジャー鉱山というところに昨年行ってきたのですが、国立公園、世界自然遺産の中に鉱区があります。埋蔵量が少なくなってきたので、隣接する新たなジャビルカ鉱区を開発したいのですが、先住民との合意がなかなかとれません。アボリジニの人々は、お金は要らないと言っています。「鉱山会社がつくってあげるというコンビニやスーパーマーケットに相当するものは、自分たちの土地の湿地帯に行けば、魚もワニも鳥もいるし、野菜もあるのだからそんなものはつくってくれなくてよい」と言っているのです。
以上、世界における鉱山開発の環境インパクトについてお話しました。世界各地の鉱山開発は、ほぼ共通した形で人権、労働、環境、腐敗の問題、先住民の文化の破壊、資源収奪といった諸問題が生じています。このようなことを、日本企業が、資源を買い付ける際に視野の外におくことは、国益を損ねるばかりか地球益も損ねます。皆様もサプライチェーンの川上で現実におきていることを知るようにしていただきたいというのを私の最後の締めくくりといたします。
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