持続可能な原材料調達
「パーム(椰子)油とCSR」開催報告
「ボルネオの森と日本〜企業には何が求められるのか」(1)
坪内 俊憲/ボルネオ保全トラスト事業責任者
ただいま紹介に預かりました坪内です。私はほぼ20年あまり、途上国における生物多様性の調査や保全に携わってきました。先ほど紹介にもありましたが、2003年から4年間、ボルネオのサバ州で生物多様性、生態系保存プログラムに携わりました。これはサバ州の野生生物局の野生生物の管理に関わるものです。色々な国や文化・社会に接することで、保全というものが社会に新しい機軸をつくり上げるもので、どのようにすれば、生物多様性や野生動物と共存できるものか、少しは理解できるようになりました。経験してきたこと、学んできたものを少しでも伝えられればと思い、この4月から星槎大学で、生物多様性保存論、地球環境共生論、国際環境協力実践論を教えております。同時に、生物多様性という指標で測る持続可能な開発を可能にするためにサバ州で設立したボルネオ保存トラストの運営に関わっています。
●サバ州のアブラヤシプランテーション
サバ州は熱帯降雨林気候に恵まれ、風も吹かず、温度もかわらず、湿度も85%と安定しているため「Land Below Wind(風の下の大地)」と呼ばれています。面積は北海道とほぼ同じで7.37万平方キロメートル、人口は250万人、多民族多宗教の社会です。安定した気候に恵まれた高い生物生産性、種のインキュベーター、メガダイバーシテイといわれています。1880年に始まる英国の支配からサトウキビ、タバコ、ゴム、ココナッツ、アブラヤシのプランテーション開発が始まりました。
サバ州における丸太の伐採、輸出は1937年には、最大生産量25万立方メートルを記録していますが、この頃の伐採は100年を1サイクルとした持続可能なものでした。1963年の独立後、日本の経済発展とともに木材の輸出が増え、1978年に丸太生産量1,329万立方メートルを記録しています。この量は戦前60年間に切った総量よりも多く、その年の生産量の60%は日本に向けたものです。
伐採のあと、まずココナッツプランテーション開発が始まりましたが、ココヤシの価格の低迷をうけ、アブラヤシプランテーションの開発の波が起きます。73年のデータによると、森林率は86%。73年の時期でもほとんどまだ原生林ですが、現在は60%以下になりつつあるといわれています。
アブラヤシプランテーション開発の作付面積は、とくに河川周辺の肥沃な土地は、猛烈な勢いで開発が進んでいます。1984年にたった2.2%、約16万ヘクタールだったアブラヤシプランテーションが、84年から94年までで、年率10%、年間増加約3万ヘクタールにのぼります。94年から2004年までの増加も、年率ほぼ10%、7万1,000ヘクタールです。東京都23区が6万haですので、それに匹敵する面積が毎年アブラヤシプランテーションに変わっています。2004年から2006年までの統計によると3.1%と、かなりスピードが落ちています。もう開発する余地がかなり少なくなった証拠だと思います。それでもまだ年間3万7,000ヘクタールの森が切られ、アブラヤシプランテーションに変わっています。現在はトータルで州の17%、124万ヘクタールがアブラヤシプランテーションとなっています。
急速な開発の中でもサバ州政府は、多様性保全を達成するために保護区ネットワークの確立に懸命に努力しています。州面積の15%が保護区として設立され、開発圧力から守っています。この地図で見ていただいたらわかるように、保護区は全部隔離され、生態系が繋がっていないのが現状です。生態系の連続性、生物多様性保全のなかでも生態系の多様性をもっとも重要視していますが、それが確立できているとはいえない状況です。
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●関連情報
- シンポジウム「生物多様性と企業の役割〜パーム油の現場から〜」(2009年2月)開催案内
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