持続可能な原材料調達
「パーム(椰子)油とCSR」開催報告
「ボルネオの森と日本〜企業には何が求められるのか」(4)
坪内 俊憲/ボルネオ保全トラスト事業責任者
●ボルネオ保全トラストがすべての関係者の架け橋に
国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会の中で、よく議論する話があります。持続可能な取引と持続可能な産業とは何かということです。合法であること、消費から生産のところまで検証性があること、トレーサビリティーがあること、取引に透明性があること、それから生態学的に持続的であることを持続可能な産業の定義として議論しています。これに私はもうひとつ加えて、市場経済というのは常に過剰資源利用の方に傾きやすいので、それに対して資源利用に関するネガティブフィードバックをかけるシステムが必要なのではないかと考えるようになりました。そのためには、基盤(プラットフォーム)が必要です。サバ州での4年間の活動から、私が明確に理解できたことは、私自身の日本における生活で、便利だと思い使っているもの、安くて大量に供給され、廃棄される商品を作るために生物多様性が減少しているということです。私の生活を支えるために、生物多様性が減少している、すなわち、人間社会の持続性が減少していることです。国際協力の名の下に、私はサバに行って、生物多様性保全の指導をしていくという、自己矛盾を抱えた存在になりました。自分自身の手で、自分自身の生活でボルネオの森に火をつけながら、小さな経験と能力を使って、ボルネオについた火を消しに行っています。この状況はポンプの方がずっと少ない、マッチポンプということになります。ボルネオの火には消費者の数だけ、地球の人口の数だけのマッチが盛んに火をつけている状況であると思います。そして、こういう風に拡大再生産が続いていく中で、どこかで歯止めをかける、どこかでバランスをとる、持続性をとるためには人間の数だけ、また消費者の数だけポンプを増やすしかありません。
関係者全員で持続可能な発展のために役割を果たすプラットフォームが必要になります。無数のポンプがなければ、無数のマッチの火を消すことはできません。ポンプとマッチのバランスをとれば、ボルネオ島での再生産可能なパーム油や木材は、持続可能な開発であることが証明できます。そのためには、プラットフォームとして土地をバランスよく開発していくメカニズムが必要になります。市場開発にしても技術開発にしても資源利用は常にポジティブフィードバックがかかり、過剰な利用にいく方向になってしまいます。ところが、適切な商品を世界の消費者に供給することによって、プラットフォームである土地をこちらに戻してきます。そのため、2年間野生生物局、局長、副局長、それから今日発表されるイザベル博士、顧問弁護士などと協議して、ボルネオ保全トラスト(BCT)を立ち上げました。資源を利用して利益をあげる企業、便利な生活を営む消費者、すべての皆さんが、ポンプとなって、森についた火を消しに行く必要があります。
生産者から消費者にわたる資源を利用する企業などに適切な商品を販売してもらい、消費者にはその商品を優先的に購入してもらいます。売り上げの一部がBCTに還元され、ボルネオ島で多様性保全において重要な土地を購入して生態系をつなぎ、回復して保全します。保全という新たな社会基準を、社会に打ち立てるために活動しているサウィット・ウォッチなど、いろいろなNGOがボルネオで活動しています。その人たちとともに、保全活動を実行していくことを目的としています。現在6人の理事のうち、3人がアブラヤシプランテーション関係者で構成されています。保護区の生態系をつなぐことで、皆がポンプになるということができると思います。サバ州最大のキナバタンガン川、ここに隔離された保護区があります。セガマ川に設置されたアブラヤシプランテーション開発で分断された保護区がたくさんあります。その保護区の生態系をトラスト地でつないで、ボルネオゾウの移動ルートを確保し、オラウータンの子孫を残すために、50年後の生存率を90%にしたいと思います。
WWFマレーシアと協力して野生生物局が、司法庁長官に提出したボルネオ緑の回廊計画で、分断している2万haをトラスト地でつなぐことを計画しました。
当初の見積もりでは90億円。ところが、250リンギだったFFBが、現在600リンギと、約3倍になりました。そのおかげで、土地の値段が30%以上上がり、土地を売ってくれなくなるという自体に直面しています。資金は、最近香港の投資家が1億円寄付してくれることが決まりましたが、まだほとんどありません。それでも今4カ所の土地の購入を交渉し、今ある自然林を残すことを試みています。この提案は会場の入り口のところにおいてありますので、もしよろしければ、持って帰ってください。
このように、保護区をつなぐことで、消費者の数だけのマッチでついた森の火を少しでも消すことができます。バイオディーゼルという新たな市場もできてきつつあります。たくさんの方々が、投資、ないしはプランテーションに興味をもっていただいたようです。でもこのプランテーション開発圧力に関しても、新たな脅威というのではなく、持続可能な開発の新たなパートナー、大きなポンプができると思って期待しています。
植物油脂の中でももっとも重要なパーム油、一番よく利用されているパーム油というのは、一番利用価値が高い、価値のあるパーム油だと思います。そして、BCTはボルネオで生産されているパーム油、木材、カカオやその他再生可能な資源はすべて持続可能な開発であると証明していきたいと思います。皆さんの協力を得て、資源を利用している人だけの数のポンプを集めて、火を消していく活動を、トラストとして成立させていきたいと思います。ポンプの数が増えることでボルネオゾウ、オラウータン、ボルネオサイなどが、人間と共存していける生物多様性の島、ボルネオ島をこれから目指していきたいと思っています。どうもありがとうございました。
(2007年10月10日東京都内にて)
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●関連情報
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