持続可能な原材料調達
「パーム(椰子)油とCSR」開催報告
「持続可能なパーム油とは〜CSRの視点から」(2)
足立直樹氏/株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
●持続可能なパーム油には程遠い現実
まずパーム油の現状についてです。現状では、パーム油は持続可能ではありません。非常に安い植物性の油脂として非常に多くの所で使われており、その需要はどんどん増加しています。幾つか理由はありますが、日本ではまず一つに食用油として使われている部分が非常に多いことにあります。これは健康ブームといいますか、動物性のものより植物性のものが良いだろうということで使われています。また石鹸、洗剤という点では、「より清潔な生活をしたい」ことも需要増加と大きく関係していると思われます。ここ数年は環境問題、地球温暖化防止の為に化石燃料ではなくバイオディーゼルの原料にパーム油をはじめとした植物性油脂を使っていこうという動きも出てきています。中国やインドといった途上国が更に経済発展をしており、その中で色々なブームが重なり、需要が増えています。それと同時に残念ながら様々な問題が深刻化しています。
これには大きく分けると二つの問題、「環境問題」と「社会問題」があります。環境問題としては、パーム油は主にプランテーションで作られるため、森を切り開く必要があります。森を切り開くことで生物が減少し、その多様性も失われつつあります。あるいは農薬の使用による地域環境の汚染や健康被害も問題です。開発のやり方が悪いと、そこからメタンをはじめ、様々な温室効果ガスが地球温暖化を促進してしまう可能性も指摘されています。社会問題としては農園労働者の衛生・安全面や賃金面の問題が挙げられます。強制労働や児童労働に関する報告のほか、開発地域の先住民の権利が侵害されることもあるようです。
つまり残念ながら、私達が使っているパーム油は現状では持続可能ではないのです。これをどのようにして可能にしていくかが今、企業や関係者に求められています。2002年までは世界で一番使われている植物性の油は大豆油でしたが、以後はパーム油が世界一となっています。当然パーム油を作る為にプランテーション面積も増加しており、マレーシアでも大体60年代ぐらいから商業的に作られる様になったそうです。とくに、70年代以降はこの様に急激に増えています。
所謂ボルネオ島に位置するサバ、サラワクが今、非常な勢いで伸びております。逆に、半島部マレーシアは90年代以降あまり増えていません。開発の余地が無くなってしまったからです。サバ州、サラワク州はまだ開発の余地があるということがいえます。マレーシアの国土面積は33万平方キロなのです。330万haはちょうど10分の1になります。マレーシア全体の面積の十数パーセントがプランテーションと、非常に大きな割合を占めていることがお分かりいただけると思います。
アブラヤシは、「ヤシ」といっても皆さんが想像する様なココヤシとは違い、非常に大きな大木になって幹も太いです。高さも20メートル、30メートルになり、
大きな房が出来て、その中に小さなピンポン玉より少し小さいぐらいの実が沢山なります。
これをどのように栽培しているのでしょうか。元々マレーシアは熱帯林が広がっているところです。今から100年前位前は、恐らく国土のほとんどがこういった熱帯林で覆われていました。そこには様々な生き物が住んでおり、世界で最も生物多様性が豊かな地域ともいわれています。例えばこれはショウガの仲間なのですが、このような花やサイ、ラフレシアという花もあります。それ以外に色々な動物、植物がいます。豊かな生物多様性がある熱帯雨林ですが、これがどんどん丸裸にされていく状況にあります。そしてこの木を全部切ったあと、アブラヤシを植えて一面、アブラヤシだらけの畑になります。一見、これは緑ですが、元々あった熱帯雨林に比べると生物多様性の質は非常に低いものになってしまいます。
生物多様性も減少しており、あるいは働いている人も場合によっては良い影響を受けていないとなると、一体それは誰の責任なのかということになります。これは森林を開発した、プランテーション開発企業の責任なのでしょうか。あるいはそれにお金を出した投資家の責任でしょうか。それともプランテーションを経営している企業の責任なのでしょうか。製油業者や採れた油を精製している企業の責任なのでしょうか。パームを原料にしてお菓子を作ったり、石鹸を作ったりしているメーカーさんの責任なのでしょうか。小売業者の方の責任なのでしょうか。あるいはパームを使用している私達自身の責任なのでしょうか。おそらく全ての人に何らかの責任があるのではないかと思います。プランテーションを開発している人が悪い、そこで農場を経営している人が悪い、と言っても仕方の無い話です。やはりそれぞれの人が自分の責任を果たしていかなければ、持続可能な形には切り替えることは出来ないのではないでしょうか。
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●関連情報
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