持続可能な原材料調達
「パーム(椰子)油とCSR」開催報告
「ボルネオ島サバ州でのオラウータン保護活動」(2)
イサベル・ラックマン-アンクレナズ(Dr. Isabelle Lackman-Ancrenaz)/NPO「Hutan(ウータン)」代表
●サバ州の現状
私が居住し調査をしているサバ州はボルネオ北部に位置し、マレーシア13州のひとつです。大規模な森林伐採が、サバ州の環境に影響を与えています。農業の勢いも増しており、サバ州の16%をアブラヤシのプランテーションが占めています。保護区はサバ州の13%を占めており、世界の基準と比べると広いと考えられています。
サバ州全土でオランウータンの生息地、生息数、生息地の環境について州当局と調査しました。生息数は1万1,000頭と分かりました。ボルネオ島の10分の1の面積に生息していることを考えれば、かなりの数です。適切な保護措置をとれば、オランウータンは生き残れるかもしれません。大きな問題は、先ほど述べた生息地の分断です。
オランウータンの保護区での生息数の内訳ですが、場所によって異なります。例えば一番多い保護区で1400頭。少ないところは、40頭しかいません。サバ州では、多くのオランウータンが保護区外で確認されています。40頭くらいでは数世代のうちに絶滅しています。同じ種、同じグループ内で繁殖を続けるとよくないため、生物学的に500頭以下では生存できないとされています。そして、大半の土地が、森林伐採の行われている私有地で、農地に転換される可能性があります。ですから民間との協力の中で、保護のための解決策を模索しなくてはなりません。
●キナバタンガンにおける問題点
キナバタンガンの例をとりあげます。キナバタンガンはサバ州東部に位置します。
まだ緑の回廊残っていて、川沿いに1,000頭以上のオランウータンが住んでいます。明るい緑は、すべてアブラヤシプランテーションです。中央の川沿いには10数箇所の先住民などの村があります。ここには、農業・開発・地元などさまざまな要素があります。地元の人々とどのように協力して、問題を解決することができるか。問題が解決できれば、オランウータンの生存につながります。
キナバタンガンは低地、湿地、河口地域にはマングローブ林もみられ、非常に美しいところです。野生生物が非常に豊かで、テングザルやボルネオゾウをはじめ、さまざまな動物が住んでいます。ここに住む人々はオラスンガイと呼ばれています。川沿いの人という意味です。伝統的に魚をとり、川や森の資源に頼って生きており、家を建てる原材料も森から運んできます。オラスンガイはみなイスラム教徒で、野生動物を食べたり、猟をしたりしません。だからこれだけの生物多様性が残っているのでしょう。しかし、新しい状況も出てきました。森林は選別的伐採によって非常に劣化し、その周りをプランテーションが囲んでいます。また、川が汚染されて漁業が衰退の一途をたどっています。
2005年、サバ州政府は残っている森林を守ろうと、野生生物保護区と森林保護区を作りました。野生生物保護区はサバ州野生生物局、森林保護区はサバ州森林局の管轄です。その管理に問題があることは容易に想像がつくでしょう。
私たちのプロジェクトは10年前にたちあがりました。まず、今の状況でオランウータンが生き残れるかどうかの科学的調査を行いました。現在は40人程度で進行しています。地元をプロジェクトに組みこんで、村の人たちに訓練を施し、実地の訓練を積むことで、彼らは優れた科学者になりました。今ではコンピューターエキスパートでもあります。統計をとることもできますし、国際会議で発表もしています。GISも使うことができます。地元の人の協力で、これまで調査、保護を行うことができました。その結果、オランウータンは二次林、劣化した二次林でも十分な食料があれば、生存可能なことが分かりました。
やはり、保護区はあっても、分断されていることが問題です。調査では、分断されたところに住んでいるオランウータンには遺伝的多様性がないため、やがて絶滅するだろうと言われています。生息地をつないでいく努力は欠かせません。
分断化は、人とオランウータンの対立を招きます。オランウータンは森を出て、アブラヤシの芽やその他の作物、何でも食べます。そして夜人がいないときを狙って、荒らします。頭がいい動物なので、オランウータンの上をいくのはかなり難しく、フェンスなどを利用しても無理です。プランテーションにとっては経済的な損失になります。村の人にとっても同じで、果樹園の作物に甚大な被害が出ています。したがって、生活を破壊されている村の人たちは、オランウータンの保護に消極的です。
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