持続可能な原材料調達
「パーム(椰子)油とCSR」開催報告
「ボルネオの森をどう守るか〜生活者の視点から」(2)
加藤 登紀子/歌手、UNEP(国連環境計画)親善大使
●ダカット村での滞在
UNEPの活動で去年、コタキナバルからさらに飛行機に乗り、サンダカンという東側の大都市を訪問しました。
そこからさらに船にのって、少し南の方に下りました。そこにダカット村という、アブラヤシのプランテーションが埋め尽くされた地域の中に、わずかに15軒の集落が残っています。そこにはすばらしい人たちの持続的な暮らしがありました。現在、エコツーリズムで私たちのような旅行客を、泊めてくれています。象もいます。その村から、ヘリコプターで飛び立ってこの写真を撮影しました。本当に見渡す限りのアブラヤシなのですが、ひときわ高い、白い木があり神の木と呼ばれていました。この木は切れないということで、この森が守られてきたというような象徴的なシーンだったので写真をとりました。その後、2,3日ダカット村で楽しい暮らしを一緒にさせていただきました。ここには本当に何年も昔から言い伝えられている歌があり、村長さんのすばらしいお話があり、みんなで一緒に輪になって踊る踊りがあります。若い人たちも年をとったひとたちも自給的な生活をしていました。帰るときに、飛行場に行くのに5,6時間かかるのですが、プランテーションの中を車でつっきりました。5時間、6時間走っても全部プランテーションです。全部この風景です。この中には働いている人たちがいるのですが、若い労働者は15歳や16くらいの男の子、女の子が一輪車に重いアブラヤシを担いで、森から運んでいきます。アブラヤシがとても重いのにびっくりしました。大きな工場に運ばれていきますが、同じ量の材料が常に供給されていなければなりません。しかもアブラヤシは採取してから24時間以内に、今は48時間くらいでもいいといわれましたが、工場にたどり着かなければならないので、決まった量の実が取れなければなりません。
アブラヤシは急成長をしてどんどん実を作ってくれる立派な働き手ですが、15年もたつと、枯れてしまいます。そうすると見渡す限り枯れたアブラヤシの畑です。これだけ枯れると、また同じ量だけまた森を作らなくてはなりません。これは一年に東京都23区分の森が消えているのと同じです。もともとアジアには小さな集落ごとに文化があるような場所がずっと守られてきていましたが、どんどんと壊れてしまっています。これでいいのかとつくづく思います。
象にはついに会えませんでしたが、ダカット村付近で、象がつい数分前に歩いた大きな足跡を見て、どきどきしました。なぜか彼らは必ず群れをなして、旅をするそうですね。一年に一回同じ道を行くそうです。川を越えていくときに、ずずずずと滑ったりする跡までついているのです。なまなましいです。坪内さんにすべて案内していただいたのですが、坪内さんから伺ってすばらしい提案だと思うのは、要するに、決して自然の森をひとつもつぶさないというのは無理でしょう。でもそこに生活する人たちがいるということ、その人たちにとって必要な地面があり、そこには営みがあるということ。そして同じように、動物たちの営みがあります。動物たちにとって、川筋、それから自分たちの生活するエリアは本当に大切です。それは、無限大に必要といっては無理ですが、せめてその川のふち何キロとかという間は、プランテーションに開発しないで自然の森にしていきましょう。川をはさんで、必ず水を飲みに動物は来ます。川は命綱なので、その周りの開発はやめた方がいいという約束をしていくことが大切です。アブラヤシの畑には、たくさんの農薬をまきます。そうすると熱帯なので、たくさん雨が降ります。ものすごい勢いで、農薬は川へ流れ込みます。その意味でも、川筋は、決してプランテーションにしない、という考えがすごく重要だと思います。
同時に、脱石油ということで、体にも自然にも優しいアブラヤシを使ったオイルで、私たちはこれからやっていければと願っています。でも、石油からではなければいいかということで、消費するのは、非常に大きな問題を残し続けるだろうと痛感します。やはりどうしても、いいふるされた言葉ですけれど、reduce。生活においてひとりの人間にかかるエネルギー、これを減らしていく必要があります。これは本当に大事なポイントだと思うのです。温暖化も大きなテーマですが、私たちが今居るようなビル。新しく建つものというのは、とにかくエネルギーがなければやっていけないシステムになっています。冷暖房やエレベーターがなければどうにもならなりません。先ほど上海で撮影した写真がありましたが、ついこの間、上海、中国、大同、北の方の水源地や、工業地帯とかいろいろ行きました。中国というところは、すごい国で、都会の真ん中に野菜売りに来る農民の人がいます。その人たちは体で、巨大なリアカーを綱で引っ張って歩いています。人力リアカーを、引っ張ってきて農村から野菜を持ってきています。そのすぐ際で、物売りたちはまだ今でも天秤棒で、ものを売っています。そういう本当に素朴な暮らし、そして何十年も昔、百年ももっているような建物が、まだ沢山あります。その横に、昔の建物を壊し、上海だけで、日本中にあるビルよりも何十倍も30階以上のビルが建っています。そういうエネルギーや水は人間が人力ではどうすることもできません。エネルギーに頼るほかにはどうすることもできない生活システムが今ものすごい勢いでできています。
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●関連情報
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