持続可能な原材料調達
セミナー「資源開発と先住民族、そしてCSR」開催報告
■意味のある協議と合意 (満田夏花/地球人間環境フォーラム) |
続いて、地球・人間環境フォーラムの満田夏花が、先住民族の権利をめぐり常に問題となる「意味のある協議と合意」に関する報告を行った。先住民族の生活に影響を与える開発行為の際、「自由意志にもとづく、事前の、情報を十分提供された上での合意(Free, Prior, Informed Consent ;FPIC)」は国際法上確立された概念になっているが、現実には無視されてしまうことも多い。世界銀行等の国際金融機関は、よりハードルの低い「自由意志にもとづく、事前の、情報を十分提供された上での協議」を打ち出しているが、これすら形骸化した協議で終わっている例も多数ある。
住民移転は、開発に当たってのさまざまな環境社会影響の中で最も直接的で、予測しやすい影響のはずであるが、意味のある事前協議が実現せず、結果として住民が悲惨な生活を強いられるケースが見受けられる。
現在めざましく経済発展しているベトナムにおいては、水力発電ダム建設などのインフラ開発が進められている。1992-2006年に建設された、22カ所の重点ダム建設案件により、住民19万3000人以上が移転しているが、そのほとんどが山岳少数民族である。10万人もの少数民族の移転を伴ったソンラ・ダム建設にあたっては、ベトナム政府が、従来より住民に対する配慮を強化させたという評価もあるが、それですら、移転先に十分な耕地がなく、稲作する土地がなくなった、農作物がとれなくなったなどの影響が報告されている。多くのケースで移転後に住民がどのような生活変化に直面するか理解しないうちに、事業に同意し、移転後にはじめて現実に直面する。事業を前提とした形式的な協議や同意の取得は意味があるものとはいえず、彼らが自分たちが持っている権利を十分自覚した上で、事業の便益のみならずリスクもきちんと説明される必要がある。
なお、移転により、少数民族の生活が「近代化」するとか、十分な補償金を手にするから大丈夫だというのは幻想であり、魚、小動物、果実、ツタ、薬草などを提供してきた森林や川が失われ、貨幣経済に巻き込まれることによる実質的な貧困化にも注意が必要である。満田は「海外の開発事業には多くの日本の公的資金が使われており、日本人としても責任ある融資を実現するために、こうした側面からの開発事業を見ていくことが必要となる」と締めくくった。
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