開発プロジェクトと金融機関
連続セミナー「持続可能な社会のためのODAと公的融資」第1回
−海外開発プロジェクト融資の「環境、社会、ガバナンス」強化に向けて−
開催報告
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事例研究:フィリピン・ミンダナオ石炭火力発電プロジェクト、
フィリピン・コーラルベイニッケル製錬所プロジェクト
(神崎尚美/国際環境NGO FoE Japan) |
続いて、事例研究として、国際環境NGO FoE Japanの神崎尚美さんより、フィリピンのミンダナオ石炭火力発電プロジェクトおよびフィリピン・コーラルベイニッケル製錬所プロジェクトの環境社会影響と環境ガイドラインの関係について発表が行われました。
ミンダナオ石炭火力発電所は、フィリピン・ミンダナオ島ミサミス・オリエンタル州で、210MWの石炭火力発電所の建設を行うというものです。ガイドライン上、カテゴリAに分類され、ガイドラインの部分適用案件となっています。
本事業の環境社会影響に関する問題点としては、以下があげられます。
・ 約130世帯の住民移転を伴うこと、これらの住民の生計の回復が必ずしもうまくいっていないこと
・ 事業地から半径2kmの範囲の1,411世帯に影響が及ぶとされたこと。しかし半径2kmの外にも影響を懸念する自治体や住民が存在し、またより広範囲に影響が及ぶとした調査もあったこと。しかしながら、これらの住民への協議や説明がなかったこと。
・ 水銀やその他の重金属の排出と健康被害の懸念があること
・ 温排水による海洋生態系や漁業影響の懸念があること
・ 住民やNGOが環境影響評価文書などを入手できなかったこと。協議では、重金属の排出に関する説明がなかったこと。
[ミンダナオ石炭火力発電事業に関する詳細はこちら(FoEのウェブサイト)]
また、フィリピンのコーラルベイニッケル製錬所プロジェクトは、フィリピンのパラワン州タラサ町リオツバで実施中の事業です。現在、ニッケル・コバルト混合硫化物がニッケル量で年間1万トン、コバルト量で約700トン生産されているものを、第2製錬所建設後に倍にして、住友金属鉱山ニッケル工場に輸出することを計画しています。事業者はコーラル・ベイ・ニッケル株式会社、株主は住友金属鉱山、三井物産、双日などです。本事業は第一製錬所に対して、国際協力銀行が融資を行い、日本貿易保険が付保しています。
本事業で懸念された環境社会影響は下記の通りです。
・ 先住民族の環境・社会・経済・文化的影響
・ 地元住民の健康被害
・ 採掘による森林の喪失
また、第2製錬所建設にあたって出てきた新たな問題もありました。
・ 先住民族の合意(十分な情報を提供された上での事前の自発的合意:FPIC)の欠如
・ 新規鉱山開発をねらった自然保護区解除の動き
このうち先住民族との合意に関しては、事業者側は「チーフテインによる合意が取得されていた」「第2製錬所建設についても、第1製錬所建設の時点で合意取得済み」と説明しています。しかし、コミュニティーでの話し合いの下での合意はなされていないこと、また、住民は第2製錬所について説明を受けていなかったことが問題視されます。
また、地元住民の健康被害については、事業者側は、「多様なステークホルダーによる調査チームを組み、原因を調査したところ、事業とは関係ないと判明した」と説明しています。しかし、住民側は、事業が始まる前は現在見られるような健康被害はなかったと主張しています。
[コーラルベイニッケル精錬所プロジェクトファクトシートを読む(PDF、3頁)]
これらの事例から何が言えるでしょうか?
まず協議に関する問題が挙げられます。協議が一方的な説明となってしまい、懸念に対して意味のある回答や対策がない、計画策定の際に協議が行われていない、発言の自由が確保されていない国・地域・場所もあることに留意しなければならない――などです。
さらに住民移転に伴う諸問題、情報公開が十分行われていないこと、環境影響評価の質に問題が残ること、JBICやNEXIの対応が不明瞭なこと――など、今後のガイドラインの議論に反映すべき教訓だと考えられます。
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