開発プロジェクトと金融機関
セミナー報告:進化する国際金融機関の環境社会ガイドライン
〜欧州復興開発銀行(EBRD)の経験を中心に
セミナーでは、まず、EBRD環境局の市川伸子さんに「欧州復興開発銀行(EBRD)の環境政策の内容とその経験」というテーマでお話しいただきました。EBRDではその設立目的に、環境と持続可能な開発の概念を盛り込み、さらに環境政策(Environmental Policy)、情報公開政策(Public Information Policy)、独立回復メカニズム(Independent Recourse Mechanism)を策定しています。 |
事業審査の際には、財務的な評価、技術的な評価、法的な評価とともに、環境審査(Environmental Due Diligence)を行い、これらが融資の意思決定に反映されます。 EBRDにおいては、「環境」という言葉を環境的側面だけではなく、労働者の保護、文化遺産や非自発的住民移転、先住民族への影響といった社会的側面も包含した幅広いものとして定義しています。 EBRDは、事業融資の準備の初期の段階(Concept Review段階)において、事業のスクリーニングを行い、環境社会的な影響が非常に大きいカテゴリAから、小さいカテゴリCまで分類します。カテゴリAには影響評価(環境アセス、EIA)のレビューが必要となります。(これは、世界銀行やアジア開発銀行、国際協力銀行と同様の手続きです。)この際、十分な環境情報がない場合は、初期環境評価(IEE)が実施されます。
また、EBRDターン・アラウンド・マネージメント(TAM)&ビジネス・アドバイザリー・サービス(BAS)プログラム、シニア・リサーチャーの泉谷昌世さんにEBRDの中小企業支援やアドバイザリー業務に関するお話しをいただきました。TAMプログラムとは、経験豊かなマネジャーや技術専門家を市場経済国から招き、移行期にある国の企業を支援する仕組みです。BASプログラムとは、地元コンサルタントの能力開発により、地元コンサルタントから中小企業にさまざまな専門的助言を与えられるようにするものです。TAMにおいては、環境保護やエネルギー効率向上プログラムなども、日本の資金により実施されています。
続いて、地球・人間環境フォーラムの満田夏花より、「外から見た国際金融機関、輸出金融機関等の環境ガイドライン」について、過去に行った調査やヒアリングなどをもとにした報告を行いました。国際金融機関等の環境政策やガイドラインは、(a)回復しがたい環境破壊や人権侵害の原因となる事業に、資金を流すことを回避すると同時に、(b)融資という影響力を使って事業の質を高めていくという二つの側面の機能を有していると考えられます。(b)については、問題の追認や、問題のある体制をサポートすることにつながらないようにしなければなりません。よって、ときには「融資せず」の判断とともに、その理由を説明していくことも重要となってきます。
次に、国際協力銀行(JBIC)の環境審査室次長の岡崎克彦さんより、「国際協力銀行による環境社会配慮確認について」というテーマでお話をいただきました。JBICは、実施機関などによる環境社会配慮を「確認」する立場にあります。基本方針としては、環境社会配慮プロセスにおける地域住民、現地NGOを含むステークホルダーの参加の重要性を認識し、また、相手国の主権を尊重しつつ、相手国、借入人等との対話を重視しています。JBICの環境社会配慮ガイドラインは2002年4月1日に制定され、2003年10月1日より完全施行されています。施行後5年後に包括的な検討を行うこととなり、現在その時期にさしかかろうとしています。改訂する必要性があると判断された場合は、透明性を確保した議論を行います。 なお、JBICには「環境」という名を冠した部署は、「環境審査室」のほか、「環境ビジネス支援室」があり、海外における環境改善事業の支援や排出権活用ビジネス支援などを行っています。
最後に、国際環境NGO FoE Japanの神崎尚美さんより、「市民社会からの問いかけ」というテーマでお話しいただきました。FoE Japanの「開発金融と環境プログラム」は、ODAや国際金融による環境社会問題を防ぐために、長年、現地国の住民やNGOと連携し、プロジェクトモニタリングを行い、金融機関や企業への提言活動を行ってきました。金融機関の環境政策の強化により、近年、住民が早期の段階からプロジェクトの情報を得ることができるようになるなどの変化を感じるようになりました。一方、以下の点については、依然として課題として残されています。――@協議のあり方:説明が一方的であり、住民等から提起された懸念に対して意味のある回答がない。また、発言の自由が確保されていない国においては、自由な意見を言うことができない。A環境影響評価の質:基礎調査が不十分なままに事業(工事)が進められることがある。B金融機関の対応の不明瞭さ:懸念を伝えても、具体的にどう対応しているのかが分からない。また、融資判断後の「環境レビュー結果」を見ても、どのような根拠で融資判断をしたのかがわからない。C政策の遵守:最低限の法律遵守など、形式的なものにとどまることがある。
セミナーには、CSR、SRIの関係者、金融機関、企業、環境団体の関係者などにお越しいただきました。参加者からは、「EBRDに日本が出資していることの意味は?」「EBRDは借り入れ側の環境アセスを却下することはあるのか?」「サハリン2に対してFoEはどのような活動をしているか?」などの活発な質問が寄せられました。
(文責:満田夏花)
※本セミナーは、アトムリビンテック株式会社様のご協力をいただき、開催致しました。
●当日のプログラムおよび資料は下記からPDFファイルをダウンロードできます。
すべてダウンロード(3.8MB)
1.欧州復興開発銀行(EBRD)の環境政策の内容とその経験
市川 伸子/EBRD環境局
泉谷 昌世/EBRDターン・アラウンド・マネージメント(TAM)&ビジネス・アドバイザリー・サービス(BAS)プログラム、シニア・リサーチャー
2.外から見た国際金融機関等の環境政策・環境ガイドライン
満田 夏花/地球・人間環境フォーラム
3.国際協力銀行による環境社会配慮確認について
岡崎 克彦/国際協力銀行 環境審査室 次長
4.市民社会からの問いかけ
神崎 尚美/国際環境NGO FoE Japan
5.ディスカッション
(敬称略)
平成18年度 環境問題に関するOECD加盟国等の貿易保険制度調査報告書
(経済産業省事業) 2007年2月
<主要国際金融機関、ECAなどの横断的な調査>
http://www.gef.or.jp/activity/economy/finance/h18METI_eca.html
平成16年度 我が国ODA及び民間海外事業における環境社会配慮強化調査業務
(環境省事業)