4-1-1 LA21の要件(3つの要素) 4-1-2 LA21の要件(7つの原則) 4-2 LA21の策定・実施主体 4-3 LA21に盛り込むべき内容 4-4 LA21の策定体制と手順



地方公共団体がローカルアジェンダ21を策定する際には

@持続可能な社会の実現を目指したものであること
A長期的な視点にたった行動計画であること
B市民参加により策定されたものであること

――という3つの要件が必要不可欠なものとなってきます 。

 

a) 持続可能な社会の実現を目指すものであること

環境と開発に関する世界委員会報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」では、持続可能な開発(Sustainable Development)という考え方を以下のように説明しています。 「将来のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世界のニーズも満足させること」 この報告書以降、環境は経済社会の発展の基盤であり、環境を損なうことなく開発することが持続可能なな発展につながるとの認識が、国際社会に定着してきています。 「持続可能な開発」を言い換えれば、「エネルギーや資源の消費が少なく、環境負荷の少ない生産形態やライフスタイルを実現した循環型社会であり、生物の多様性が確保された社会」といえます。「地殻から取り出した物質の濃度が、生物圏の中で増え続けない」「人工的に生産された物質の濃度が、生物圏の中で増え続けない」「生物圏の循環と多様性が守られる」「資源が公平かつ効率的に使われる」という4つの条件を提示しているNGOもあります 。

しかし、その社会の具体的な姿や実現のための方策は、先進国と開発途上国では、自ずと異なったものとなってきます。 開発途上国においては、貧困、人口増加、環境破壊の悪循環を断ち切ることが必要となり、諸政策の中に環境の保全、汚染物質の排出削減、自然資源の「賢明な利用」といった視点をどのように統合していくかが課題となってきます。
一方、日本のような先進国では、現在の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動により、地球の資源の枯渇、資源消費による副次的物質(二酸化炭素、SOx、NOx、廃棄物、その他の化学物質)の過剰な発生を引き起こしています。このままでは、持続可能な発展が不可能であることを認識してこれを見直し、健全で恵み豊かな環境を維持しながら、経済活動やその他の活動による環境への負荷の少ない社会を実現する必要があります。 これらの認識のもとに個々の地域において、自分たちの地域ならではの将来像を描くこと、そしてこれを共有するための議論を積み重ねることが重要です。
 
この地域の将来像を描いていくという作業は、「個性ある地域づくり」と密接な関わりをもっています。ある地域においては、独自の自然風土を活かした地域の活性化として多くの取り組みがなされてきました。例えば、日本の宮崎県綾町では、「自然生態系を生かし育てる町」を目標に、その豊かな照葉樹林を生かした地域づくりに成功しています。また、山形県立川町でも、従来は農作物に被害を及ぼしてきた悪風を利用し、風力発電を中心としたまちづくりを成功させています。
→事例参照

エネルギーやものを消費し、廃棄している生活者一人ひとりの行動の積み重ねが、地域の環境だけでなく地球環境にも大きな負荷を与えていることは、歴然とした事実です。しかし、一人ひとりの市民にとって、自らの生活と地球環境とのつながりはなかなか見えにくいものです。そこでまず、生活の場である地域社会の環境についてまず考え、行動を起こすことが求められています。地域という比較的小さな単位で取り組むことが重要とされるのは、参加者が問題を自らのこととして認識しやすい、取り組む際の主体性・自主性が増すなどのメリットが考えられるからです。どのくらいのエネルギーやものが、どのように生産され、消費され、廃棄され、環境にどのような影響を与えているのか、またその環境変化が人間にどのような影響を及ぼしているのか、地域の現状や特徴を認識した上で、地域社会という輪の中で、そこに暮らす人々、活動する企業や行政・NGO等、できるだけ多くの主体が参加し、持続可能な社会づくりに向けて行動を起こすことが今求められています。

一方、ものを大量に生産し、大量に販売している企業活動も、生産から廃棄にいたるすべての過程で、環境にさまざまな負荷を与えていることを認識する必要があります。限りある地球環境の中で、環境への配慮を欠いたり、「経済性」「効率性」のみを追求するような企業活動は、決して持続可能なではないことも明らかになってきました。 そこで、企業としては、環境に配慮した企業活動こそが、持続可能なな企業発展につながるという経営哲学に徹した事業活動を展開していくことが大切です。 そのために、各国の環境汚染防止等環境に配慮した企業活動を行うことは当然のことですが、企業独自の環境憲章を設けたり、環境監査などを行っていくことも必要です。また、環境に配慮した製品や技術を開発したり、環境に配慮した製品(例えばエコマーク商品)の販売に努めることも重要です。さらに、地球市民の一員としての社会的な責任を自覚し、様々な環境保全活動に積極的に参加したり、企業内の環境教育を進め従業員の環境意識を高めること、また、環境保全活動を実施する法人や団体への助成等の資金提供など他の主体への支援を通して環境保全を実現していくことも考えられます。

 

b) 長期的な視点にたった行動計画であること

ローカルアジェンダ21は具体的な行動のあり方を示す行動計画であることが必要です。持続可能な社会の実現に地域社会から取り組んでいくためには、行政だけでなく、そこに住むすべての人々の協力と実践が必要であるため、どのような目標に向かって、いつまでに、どのような行動をとればいいのか、より具体的な行動計画を示していくことが大切です。 ここで言う行動計画というのは、法律で定められた行政上の計画とは性質が違います。ローカルアジェンダ21はすべての人々の参加を促すことが主要な目的の一つですから、行動の方向性を示す行動指針にするなど、地域の実情にあわせ、内容にも幅を持たせたソフトなものにしていくことも考えられます。  以下はローカルアジェンダ21の行動計画部分の構成例です。

 

行動の基礎:地域の現状を知り、課題を明らかにする

○持続可能な発展といった視点から、地域の現状はどうか、解決しなければならない課題は何かを、分野ごとに明らかにします。
○この場合、すべての分野を対象としてもよいのですが、その地方公共団体の基幹をなす分野、地球的視点から特に重要と考える課題など、特定の分野についてのみ対象とすることもあります。
〇地域の現状を知り、優先課題を明らかにすることは、ローカルアジェンダ21策定の重要な基礎をなす部分です。ここの段階から住民の参加と充分な議論を得ていくことが必要です。 例)地域の住民や学生の参加を得て市内の自然資源の詳細な調査マップを作成したという事例もあります(飯田市/日本長野県、「環境調査員制度」)

 

 

目標の設定:その解決に向けた対策の目標を示す

○問題解決のために、いつまでに、なにをなすべきか、対策の大きな目標を示します。
○目標は、数値を掲げる定量的なものだけでなく、定性的なものも含みます。

例: 定量的・・・エネルギー使用量を○%削減 ごみ排出量を○%削減等
定性的・・・看板の少ない街にする こどもが水遊び出来る川辺にする 木材製品を有効に利用する 等


 

行動:目標達成のためにとるべき行動を示す

○目標を達成するために、どのような行動が必要か、また可能かを明らかにします。
○行動を裏付けるシステムについても配慮が必要です。
例: 資金源の確保、推進体制の整備、条例・要綱等の作成 等

 

 

実施手段:具体的な実施手段を示す

○誰が、どのような方法で行動するのか、具体的な実施手段を明らかにします。
○行政、企業、市民、それぞれの役割を明確にし、それぞれの実施手段を示していく方法もあります。

 

 

モニタリングおよびフィードバックの手法

  ○設定した目標をどのようにモニタリングするか、またその結果をどのようにフィードバックするのかということを示します。

 

 

 

c) 市民の参加

地方公共団体は、市民、地域団体及び民間企業との対話を行い「ローカルアジェンダ21」を採択すべきである。協議と合意形成の過程を通じて、地方公共団体は市民や地域社会、産業・商業団体から学び、最善の戦略を策定するために必要な情報を得ることになろう。この協議の過程は持続可能な開発の問題への市民レベルの関心を高めることになろう。(アジェンダ21 28.3)

アジェンダ21では、「ローカルアジェンダ21は、地方公共団体が地域住民等と協議して合意を形成すること」とされています。このため、市民、地域団体、民間企業等の参加を求め、対話を行い、合意を形成するなど、市民等の意見を取り入れながら、策定していくことが大切です。

Oなぜ、市民等の参加が必要なのか

「すべての人が被害者であり、加害者である」といわれるように、私たち一人ひとりのライフスタイルや価値観、私たちが築いてきた社会経済のしくみが、地域の環境だけでなく、地球環境にも大きな影響を及ぼしています。
そのため、地域の環境を改善し、地球環境を保全し、持続可能な社会を築いていくには行政だけでなく、市民や企業など、地域社会の全員が、その実現に向けて、行動していくことが必要です。実際に、アジェンダ21の中でも、「地方公共団体は、市民、地域団体及び民間企業と対話を行い、ローカルアジェンダ21を採択すべきである。」と述べられています。
さらに、アジェンダ21に「協議と合意形成の過程を通して、地方公共団体は市民や地域社会、産業・商業団体から学び、最善の戦略を策定するために必要な情報を得ることになろう。この協議の過程は持続可能な開発の問題への市民レベルの関心を高めることになろう。」とあるように、ローカルアジェンダ21を策定する過程が、自治体自らの資質を高めるとともに、市民の環境意識を高める環境学習そのものであるとされています。
現にローカルアジェンダ21をすでに策定している多くの地方公共団体で、「策定段階の住民を交えた議論により、環境に対する認識が関係者すべてにおいて深まった点」をローカルアジェンダ21策定のメリットとして挙げています。
持続可能な社会を実現するために、従来の行政主導型の進め方ではなく、地域住民全体で、地域の望ましい将来像を描き、その実現のための目標を設定し、具体的な行動内容を決定していく、そして自ら決定した目標に向けて、自らが行動していく、これがロー力ルアジェンダ21策定の基本的な考え方の一つです。


Oどの段階で、市民等の参加を得るのか

ローカルアジェンダ21のアウトラインをデザインする段階、また行動計画の基礎となる現状の把握や目標設定などの、できるだけ早い段階からの参加が望ましいと考えられます。さらに、目標を設定し、行動計画をつくるだけでなく、どれくらい目標が達成されたか、計画の見直しは必要ないかなど、策定後の評価段階でも、市民等が参加できるしくみをつくっておくことが大切です。すなわち、ローカルアジェンダ21の策定のデザインから策定、実施、モニタリングまで、すべての段階で市民参加を行うことが必要です。


○市民等の参加の方法

市民参加の方法としては、次のようなものがあります。

@「推進会議」や「フォーラム」を設置する
策定主体を地方公共団体だけでなく、市民、企業、NGO、教育機関、婦人・青年団体等を交えた「推進会議」「市民会議」「フォーラム」ともいうべき団体とし、関係者や市民がローカルアジェンダ21について自由に議論し、意見を発表する方法。ここでは持続可能な発展という視点から地域の現状や課題について議論したり、将来の望ましい地域像を描くなど、定期的に議論を行います。そして、ローカルアジェンダ21策定の過程並びに策定後の実施段階においても、策定主体に対して、意見を述べ、提案していきます。この方法にすると、参加者がローカルアジェンダ21の策定主体として明確に位置付けられ、意見を言っておしまいというのではなく、議論を経て策定できるという利点があります。参加者を多くすればするほどよいのですが、議論がやりづらくなるというデメリットもあるため、「水資源」「エネルギー」「交通」などというテーマごとに分科会をつくり、各分科会がローカルアジェンダ21の行動計画の案の策定に責任をもつという方式がとられている場合もあります。

Aワークショップ、学習会、ディベートなどを通じた市民参加
地球環境問題とは何か、持続可能な発展とは何か、自分の地域では何が問題になっているのか、自分の地域で持続可能な発展を達成するにはどうしたらよいのか、これらについて、議論をする場を設け、学習会を開催し、その結果をローカルアジェンダ21に反映させていくという手法も有効です。

B公聴会、懇談会等により意見を聴取する方法
策定主体が素案を策定した後、公聴会等を開いて、広く市民等の意見を直接聴取する方法。また、案の作成前でも懇談会等を開催し、市民と対話を行う方法もあります。ここで重要なのは、公聴会で吸い上げた市民の意見を、どのようにしてローカルアジェンダ21に反映させたのかを絶えず市民にフィードバックしていくことです。さもないと、「意見を言っても聞き置くだけで、何もならない」という無力感を与えることになります。

C環境調査に市民が参加  
地域の環境調査、環境分析を市民自らが行うという手法もあります。ただし、ここで効果的な環境調査を行うためには統一的なマニュアルの整備や専門家による指導も必要です。さらに、この環境調査の企画自体も、市民参加により、どういう目的で、何をどうやって調べていくのか議論していくことが望ましいでしょう。

D文書による意見を公募する方法
策定主体が素案を策定した後、これを公開して文書による意見を公募する方法。他の方法と併用して行うことにより効果的となります。素案は、市役所、市の各施設、市広報、新聞、インターネットなど可能な限りの場で公開し、どのような意見が何通きて、どのように素案に反映されたかについての告知もローカルアジェンダ21の完成版やその他のメディアによって行う必要があります。

Eアンケート調査により意見を求める方法
案の作成前または作成後、策定主体が広く市民等を対象にアンケート調査を実施し、市民等の関心や意見を把握する方法。

※規模の大きな地方公共団体では、市民等の直接参加はなかなか困難ですが、市町村レベルでは、日常的にも市民等とのつなかりが緊密であることから、よりきめ細かな市民参加も期待できます。規模の大きな地方公共団体では、自らの地域のローカルアジェンダ21の策定のほかに、地域内のより規模の小さい市町村や地区のネットワークを図り、各地区のローカルアジェンダ21を支援する枠組みづくりも課題となってきます。

→市民参加の事例 1 :Baguio City(Philippines) 
→市民参加の事例 2 :Petaling Jaya Municipal Council(Malaysia)
→市民参加の事例 3 :Sri Racha Municipality(Thailand)
→市民参加の事例 4 :神奈川県の事例
→市民参加の事例 5 :豊中市(大阪府)