皆様の前でこうして発表を行う機会を与えて下さった主催者に、ポートランド市を代表して感謝いたします。私が仕事をし、生活を営んでいるコミュニティにとって非常に重要なことがらについて、話せることをとても嬉しく思っています。質の高い生活と環境を守り、またそれを高めるような方法で街をこの先、どのように発達させ、繁栄させていくかということはポートランドが現在、直面している最も重要な課題である、と思います。
 比較的短い、この限られた時間内にいくつかお話したいことがあります。
 まず、ポートランドの交通システムが現在に至るまでの歴史と背景の説明をします。
 次に、ポートランドの交通システムを構成する様々な形態について少し詳しく述べ、現在、重点が置かれているイニシアティブについて話します。また、それらのイニシアティブがより持続可能な交通システムへの移行に直接焦点を置いている方法についても述べようと思っています。
 最後に、ポートランドが直面するであろう、さらなる難問に焦点を当てて、ポートランドの将来の展望を述べてみたいと思います。
 人口約150万人のポートランドはオレゴン州の中でも主要な首都地域といえます。オレゴン州の他の地域の人口は200万人ほどで、人口密度はかなり低く、特に州の東部の3分の2の地域の人口密度はきわめて低いものになっています。首都ポートランド地域は、これから15年から20年の間に、その人口が更に50万人増加するという予測もあり、まだ20年間は、かなり発達するでしょう。
 過去から現在までに、この地域の地理的条件は、ポートランドの交通システムの発達に大きな歴史的な影響をおよぼしてきました。ポートランドはコロンビア川とウィラマット川の合流点に位置し、もともとは米国西海岸のサンフランシスコより北の貿易港として栄えてきました。現在でも、海運業や輸送業に関連する諸事業は、オレゴン州の経済の重要な分野となっています。伐木搬出業などの天然資源利用に依存していた以前の経済活動からは画期的に変化し、現在の地域的、あるいは州全体の経済活動の大部分はハイテク開発と製造業になっています。
 ポートランドは1840年代にウィラマット川の河口に沿って発達し、他の合衆国の町と同じように発展してきました。20世紀はじめには、新しい居住地域と商業地域の開発を促進するためにトロリー線が作られました。トロリー線によって、終着駅のまわりには商業地域が発生しています。人々は、トロリーの駅と自宅の間で買い物ができ、歩いて駅に行くことができるようなところに住居を持ち始めました。しかし、その50年後にはアメリカ国民はトロリーを捨て、自動車に乗り換えました。ポートランドもトロリーの線路を取りはらい、他の米国中の町と同様に幹線道路と高速道路を作ってきました。そして交通量の増加に伴い大気汚染と交通渋滞が生まれてくるようになりました。そこで、徐々に人々はこれらに対して何らかの手段を講じなければいけないことに気がついたといえます。
 ポートランド市民、そしてオレゴン州の人々は自然環境保全の重要性について独特な強い信念を持っています。この信念は土地利用や土地開発の実施、また交通手段のインフラストラクチャーに対する投資の方法を形作り、未だに大きな影響を与え続けています。カリフォルニア州の都市の発達パターンに対するオレゴン州の人々の反応がオレゴンの市街地域の開発をより有効に実施するための動機づけとなり、それが少なくとも、都市スプロール現象が規範とはならない、代替交通システムが利用できる便利なコミュニティーを創造しようとするきっかけとなってきました。そして1970年代には、新しい世代の政治家たちは各都市はもっとましなことができるはずだということを認識しました。
 1970年代初めには、数百軒の住居の立ち退きが要求されるような、ポートランド市近隣地域を貫く高速道路の大規模な拡張計画が、市民や市民に選ばれた政治家の一部によって猛烈な反対を受けました。その高速道路のプロジェクトは中止となり、その資金はポートランド内で初めての軽便鉄道(light rail)プロジェクトを始めるために役立てられました。同じ頃に、ウィラマット川に沿って町の中心を走る幹線道路も閉鎖され、その場所には理用度の高いすばらしい公園が作られました。
 また、やはり1970年代の初めに、市の中心部(downtown)の荒廃や、郊外の商業地区発展に対する懸念から、ポートランド市は、中心部に公共投資を導き、中心部が持つ商業、あるいは文化の中心としての役割を維持するための「ダウンタウン・プラン」(Downtown Plan)を作成しました。そして中心部への交通利用の割合を75%増加させるという、この計画の目標は達成されました。南北に走る交通モール(transit mall)が計画、開発され、トランジット・システムの所有権は民間から公に移り、トランジットのための新しい資金源が生まれたのです。また、慢性的な一酸化炭素による大気汚染問題に取り組み、トランジットの利用を奨励するために、新規の駐車場施設の供給を制限する法規が認可されました。中心部では、小売店や歩行者の環境を改善することが優先とされました。これは、公的資金の投入と、設計の見直しや一階の小売店、そして公共のスペースへのアートなどを義務づける国土利用要項によって達成されたものであります。
 また、州レベルで採られた最も重要な措置のひとつは、やはりこの時期に実施されています。オレゴン州議会は、州全体としての目標を定めた国土利用計画法、州内の市街地の周りに市街地開発の境界線を定める、という要項を盛り込んだ境界標識法を発令しました。主に、成り行きまかせの無計画な都市の発展を防ぐために定められたこの市街地開発の境界線は、国土利用と交通手段の開発の双方を調和がとれた、統合されたものとするために、ポートランド地域では現在も最も重要な役割を果たし続けています。
 これらのイニシアティブはポートランドの目的にかない、生活の質の大幅な改善、そして現在の中心部の成功にも大きく貢献してきました。ポートランド市とその地域は優れた計画、そして新しいことを取り入れたという点において、国際的に高い評価を受けており、その上にさらに努力を重ねています。さて、ここからは、ポートランドの現在の活動についてまとめ、その後、異なった交通システムの構成要素について簡単に述べてみたいと思います。
 オレゴン州の人々にとって、拡大する都市の管理や、都市スプロール現象の抑制、また交通渋滞への懸念や環境の悪化などは、深刻な問題であります。国土利用開発と交通手段の選択および自動車による輸送への需要との関係についてはより深く理解されるようになってきています。ポートランド地域の長期計画の中では、交通手段のインフラストラクチャーが開発のパターンと密度を決めています。都市開発は鉄道やバスのような大きな輸送経路に沿って集中して行われます。そして、その都市開発では、住宅、企業、および小売業による国土利用は、自動車での交通の必要性を減らし、公共交通および代替の交通手段のためにより良い市場を提供するように統合されています。
 ポートランドの地域交通にとり、また国土利用や開発の計画およびその政策において、軽便鉄道(light rail)がその中軸となっています。1986年にポートランドに初めての軽便鉄道が開通し、市民に熱狂的に受け入れられた時に、ポートランドでの軽便鉄道へのコミットメントが確立されました。ポートランド市内の有権者たちは軽便鉄道への支援を続けており、2本目の軽便鉄道は1998年に開通の予定で、3本目は現在、計画段階にあります。また、路面電車システムも現在、開発中です。現在、市中心部への通勤交通手段の40%がトランジット、軽便鉄道、そしてバスによるものとなっています。
 政策の観点から見ると、オレゴン州およびポートランド市は、複合形態(multi-modal)を持つ交通手段システムとコンパクトな都市開発のパターンを生みだすことに尽力していると言えます。トランジットに加え、より改善された自転車や歩行者のための施設を州都ポートランド全域に作るための投資も現在計画されています。
 住民が短距離の移動に安全に自転車を活用できるようにするために、ポートランド市では真に自転車専用といえる道路網(bicycle network)の整備にあたっています。資金のことを考慮するとまだ充分と言うにはほど遠いですが、自転車の道路網はここ10年の間に60マイルも長くなり、100%の増加を見ています。また、安全で保護された自転車の駐輪場のようなターミナル設備の必要性についても同等の注意が払われています。自転車による移動が全体に占める割合を現在の2〜4%からこれから先の10年で10%にするという目標を掲げています。アメリカの規準からすると、この目標数値はかなり高いものです。ポートランドは、現在までのポートランド市の功績が認められ、昨年ポートランドは「バイシクル・マガジン」誌("Bicycle Magazine")によって「米国内で最も優れた自転車の町」と名付けられました。
 主要道路に沿って安全に歩行するための設備を作ることに関しても、また同等の努力がなされています。新しい自転車総合プランを補うために歩行者総合プランが作成され、新規の道路のインフラストラクチャーの一部として、歩行者用の道路を設けるように、道路建設の基準が変更されました。
 ポートランドの地域は、しばらく前から民間と協力し、交通手段を使った移動の必要性を減少させるように働きかけたり、時には命じたりしています。昨年から、従業員が50人以上の雇用者は、交通手段を使った移動の削減プランを実行し、導入することが義務づけられています。そしてこの削減プランでは、従業員が代替の交通手段を利用するか、またはフレックスタイム、変更可能な就業時間、自宅勤務などの方法によって移動の必要性を削減することが考えられています。
 最後に私が述べなくてはならない交通手段は、様々な問題をもたらすにもかかわらず、それが最も重要な手段となっているもののことです。この手段を、20世紀で最も大きな影響力のある現象という人もいるでしょう――自家用車とトラックによる輸送です。いかにポートランドが代替交通手段のために高水準の計画を立てているとはいっても、自動車は最も一般的な移動の方法であり、また品物を輸送するためにはトラックは欠かすことができません。「高度公共トランジットシステム」(Advanced Public Transit Systems)、「付随する事柄のマネージメント・システム」(Incident Management Systems)、および「交通管理システム」(Traffic Management Systems)のような「インテリジェント交通システム(ITS)」のテクノロジーを利用して、現在までに構築された道路のインフラストラクチャーの投資収益を最大限に拡大する必要があります。
 ポートランドの交通事情を語るときに、ここ数年来、市が取り入れてきたいくつかの重要な政策の話抜きでは語ることはできません。「中央都市交通管理計画」(Central City Transportation Management Plan)は、渋滞や大気汚染を引き起こすことなしに異なった市街の中心地域が、それぞれの潜在能力をフルに発揮し発展していくための手段となっています。「市エネルギー政策」(City Energy Policy)と「二酸化炭素削減戦略」(Carbon Dioxide Reduction Strategy)は、ポートランド市がエネルギー効率の良い、持続可能な将来へと発展していくための方法を考える計画で、それぞれ、きわめて重要な計画となっています。それ以外にも、本当の意味で居住者に移動方法の選択を与え得るような複合的交通システムの形態を成し遂げるために、ポートランド市は多大な政策援助を行っています。
 最後にポートランドが明らかにした、より持続可能な未来の交通システムの将来像への挑戦について簡単に述べて結びとしたいと思います。以下の質問は、その答によって、21世紀にポートランドが真に都市開発の新しい形態となれるかどうかが決定されるような重要な質問であります。皆様の中でも多くの方々がこうした問題に直面することと思います。
 国土利用と交通手段のリンケージはうまく機能するであろうか?将来の開発ではトランジットの路線網および駅地域の高密度化に焦点があてられるであろうか?
 高密度化に適応するために、地区ゾーンの規制は変更されるのか?
 高密度での開発が行われるようにするため地域開発の境界線を維持するかどうか?
 トランジットのインフラストラクチャーおよび運営のために必要となる投資を有権者が支持するであろうか?
 市民は、ライフスタイルを変え、より高密度な、自動車でなくトランジットシステムに適応したコミュニティに居住することを望むであろうか?
 ポートランドは150年前に交通の中心として生まれ、現在も交通の問題によって形造られ続けています。ポートランドでは過去のあやまちを訂正することができ、そのために、よその都市を悩ませるような、交通に関する問題のいくつかを避けることができるような現在を築くことができました。ポートランドは過去15年間、国土利用と交通への投資の決断を正しく行っており、そうすることによって国内で正当な評価を受けています。私が言えるひとつの確かなことは、その未来も少なくとも今まで同様、挑戦的であるだろうということです。
 ご静聴、ありがとうございました。