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取り組み事例


続可能な開発に向けたバンコク市の施策

バンコク首都圏庁政策企画部総合計画課上級計画官 スガニャ・ブーンプラサート




序 文


    バンコクは200年以上前からタイの首都であった。着実にその規模は拡大し、バンコク市は世界でも最も人口の多い都市の一つに数えられるようになった。登録された人口は550万人以上だが、実際の人口は800万人ともいわれており、それが1,568平方キロの土地に住んでいる。

    バンコクの爆発的な都市化は1950-60年代に始まった。急速な工業化と経済発展、そして政府の中央集権化が主な原因とされている。同国の経済活動は主に産業、貿易、サービスといった部門に依存しているが、バンコクは今日までその中心的位置を占めてきた。

    過去10年間における人口密度の増加は主に地価の暴騰によるものであった。高層ビルの土地は主に市場要因に左右されるため、公共輸送、水道、電話、電気などの公益企業は困難な対処をせまられている。


1. 都市問題

    これまでにも述べたように(人口増加と人口移動による)人口密度の増加は計画性のない都市部への居住や急速な経済発展と合わせ、インフラストラクチャー、公益事業、公共サービスに過度の需要をもたらした。こうした需要はバンコク市の行政部門であるバンコク首都圏庁(BMA)が単独で処理できるような規模ではない。この結果、都市環境、都市部のサービス、そして都市における生活の質も低下した。

    バンコク市住民の生活の質が低下しているという問題は政策決定者、計画担当者、行政官、学界や地域共同体が議論する際、常に議題に持ち上がっている。このためBMAの主要方策と開発計画においては主にバンコク一般市民の生活の質の向上に焦点が置かれている。

    バンコクの環境悪化は市民の健康を徐々に、日ごとにむしばんでいくという意味において都市問題の中でも最も重要度の高いものとされている。環境悪化は交通渋滞、大気汚染、騒音、洪水、下水処理、水質汚染、ゴミ収集・処理といった、はっきりした形で表面化している。

    道路網は比較的広い範囲にはりめぐらされているが、輸送能力は限られている。効率的な公共輸送手段がないというのがバンコク交通システムの抜本的な問題となっている。急増するマイカーの数が「恒久的な交通渋滞」都市バンコクを裏付けている。

    バンコク首都圏はチャオ・フラヤ川河口のデルタ平原に位置しており、このためバンコク市と周辺地域は特に洪水の被害を受けやすくなっている。バンコク都市部と郊外の大部分は平均海面と同じ高さにある。だがバンコクの洪水は自然条件のみによって引き起こされる訳ではなく、都市化と自然資源の利用も一因となっている。拡大している郊外部における地下水の消費も土地の沈下を招く一因となっている。

    国立住宅公団(National Housing Authority)が建設した地域共同体下水処理場やホテルやデパートのビルなどの小規模な施設を除くと、バンコクには下水処理システムがないため、下水問題と水質汚染問題が深刻化している。市は6つの中央処理場を建設しており、主要なビジネス地区に下水道が引かれる計画になっている。建設にはしばらくかかる予定だが、同市の予算を多く必要とする操業と管理はまだ検討段階にある。

    ゴミの収集と処理場までの輸送はバンコク市にとって大きな問題となっている。市の外辺の伸長と交通渋滞がさらに問題に拍車をかけている。さらに、市内には衛生的な埋立てを行えるような、未使用の土地がもうほとんど残っていない。現在行われている堆肥化計画と埋立(一日5,000トン)では毎日出るゴミの量(一日7,000トン)に追いつかない。焼却など現在よりもましな処理方法が必要であるが、これも大規模な投資が必要とされる。

    上記に述べた問題すべての原因が計画的な都市計画と都市開発の欠如にあるということをバンコク市が認識したのはそれほど前のことではない。バンコクにおける人間の居住パターンは企業などの民間部門によって決定されており、バンコク市の総合計画によって管理されているわけではない。このため計画性というテーマは明白な問題となっている。


2. 都市管理のための制度的な枠組み

    行政面ではバンコク首都圏庁(BMA)が1985年バンコク首都圏行政法に基づいて組織化され、バンコク市民と中央政府からの資金援助を受け地方政府レベルでは唯一の機関としてバンコク市民の福利擁護にあたっている。BMAは内務省の直接管轄下にある。同法に基づき、BMAは知事とバンコク市議会によって構成されている。知事は任期4年で直接投票によって選出される市行政のトップで、バンコク市議会は選挙によって選ばれた議員からなる立法府とされている。現在の市議会議員の数は55人。地区レベルでは一地区7人以上からなる地区議員が選出され、4年の任期をつとめる。

    現在の制度的枠組みとしては、BMAは3つの事務所、13の部門と38の地区事務所に分かれている(図1を参照)。

    BMA管轄下の機関はすべてその担当ごとに設定されている。一般的には、部門は企画、管理、監督、評価を担当し、地区事務所が現場の作業を行う。

    市の行政は現在、都市計画と都市管理が一部制限されるという問題に直面している。前述の法律では27の機能がBMAの担当と明記されているが、権限と制度的枠組みの関係で実際にはそれが実施できない。BMAは担当分野を処理する上で限られた権限しか持っていない。中央政府とBMAの関係も権力移譲・分権化という意味において明確ではない。現在、BMAの責任(担当)、権限、補助金に関連した多くの問題が中央政府、内務省などの関係省庁やBMA内部においても議論されている。


3. 持続可能な開発に向けた施策
3.1 計画設定

    前述したように計画性はバンコク市が直面している重要な問題の一つとなっている。過去5年間にBMAが認識したのは、バンコクを近代的で機能的な都市、環境の質と持続可能性が許容基準内にある都市にするためには効果的な開発計画が肝要だということだった。計画性のない都市拡大は持続可能ではないということが証明されている。実際、バンコクでは特に郊外において手に負えないような形で都市が拡大している。現在使用されている1992年総合計画には企画基準も開発管理のための措置も盛り込まれていないため、急成長する民間企業家の経済活動を阻止することができなかった。その上、総合計画の施行も説得力に欠け、不適切であった。

    BMAは効力のある都市設計システム作成の基盤を作るため、相当な努力を投入してきた。過去5年のあいだにはバンコクをより健康的で、魅力的で、住みやすくて働きやすい都市にするという最終かつ合同の目的に向け、一連の企画、環境、輸送分野の研究が行われた。バンコクのような都市のための長期的なビジョンと都市の急成長に対する準備を明記した1997年新総合計画の必要性についてはMIT, EC, NESDBの研究で確認されている。

    上記の研究では勧告、多岐に渡る選択、そして長期のビジョンが提案されている。BMAは現在これらを検討・分析し、戦略的目的や実践的な目標に置き換える作業を行っており、この結果は1997年新総合計画の骨子になる予定だ(図2参照)。新総合計画はMITとECのチームの外部のコンサルタントの専門的な援助を得て都市計画局によって作成されている。将来的には人間の居住をより持続可能なものにするという目標のもと、BMAは計画作成に全力を注いでいる。企画制度の改善のためBMAが一番重点を置いているのが企画を担当している2機関―都市計画局と政策企画局−の再編成だ。その後に実施されるのが両機関の企画担当官の教育。企画というのは多角的な作業であるが、企画担当スタッフの多くに関しては企画の背景について学ぶ必要がある。担当官のほとんどは社会科学系の教育を受けており、残念なことに企画に関してはあまり知識を持っていない。このため教育はBMAの企画を担当する両機関の企画専門家を養成するため緊急に必要とされている。


3.2 市民参加

    市民参加は市民が計画・活動の選択、優先順の設定、プロジェクト施行などの分野で開発機関の作業にパートナーとして参加することと定義づけられている。アイディアを出し、関心を持ち、労力と時間を提供するという形の市民参加は不可欠なものとなっている。市民参加は市民集会、公聴会、調査、コミュニティ機関や特定団体の代表任命を通じて奨励することができる。

    BMAは第四5ヶ年開発計画(1992-1996)を検討した結果、多くの開発計画が実施できなかった一因に市民参加の欠如があることが分かった。企画段階においては市、地区、コミュニティとすべてのレベルで市民参加が欠落していた。(バンコク地域で政府機関が過去五年間に請け負ったバンコク市民) バンコク住民には自分たちのニーズをとらえ、考えを伝え、関心があるということを示す機会を与えられていなかった。

    現在BMAはバンコク市民に情報にアクセスできる機会を提供するようにして、第五5ヶ年開発計画(1997-2001)の企画、実施、評価において市民が直接参加できるように尽力している。市民は一般向け報道機関、市民集会、公聴会(多くの住民に影響を与える大規模なプロジェクトの場合)、さらに地元代表の指名を通じて自分の住んでいる都市の将来を決定することができる。


3.3 官民協力

    バンコクの首都圏は急成長している。当局は住民の社会的・経済的ニーズを支えるために必要なインフラストラクチャーとサービスを提供するという大きな課題に直面している。責任の範囲は非常に広いが、予算はニーズすべてを満たすには不十分だ。BMAの年間設備投資は現在20億バーツとなっている。この額は1,568平方キロという首都圏の面積と800万人という人口を考慮に入れると非常に少ない。市が年間収入と予算規模を拡大する必要があるのは明白だ。BMAは現在中央政府に対し、資産税、利用者税、土地再調整税など税収源を拡大する許可を要請している。行政機構の改善と交渉のプロセスには長い時間がかかるため、インフラストラクチャー提供における民間部門の活動を大幅に拡大させるという選択肢は実行可能であると考えられる。

    法的にはBMAは民間投資家と共同で住民に対する業務を提供することができる。既存の計画・資金供給制度では急成長する都市に対応できないということを現在の状況が示唆している。民間企業に税金徴収や免除などのインセンティブを提供してBMAの開発プロジェクトに投資するよう奨励することはBMAにとっても有益だ。現在BMAは民営化政策を推し進めているが、これには行政的な資源と機構の支持が必要とされる。民営化は大規模な政策であり、バンコク市の開発を支える一助となると見られている。BMAは充分な専門知識を持っていないため、公共サービスの民営化についてBMAの担当者を教育し、民営化プロジェクトに対応する組織と法律を整備するところから始めなければならない。

    民営化が資金問題を解決してくれる可能性があるとするならば、政府は民営化方針を貫くため、収入徴収法を簡素化し、政府活動の中央集中化を制限し、インフラストラクチャー整備に関して明確かつ持続可能な方策を民間部門に確約する必要がある。これはこれからの10年間の都市管理の課題となる可能性があり、BMAはこの問題に全力で取り組んでいる。

    都市計画に関する最近の理論では官民協力によって都市計画・開発が実現するということになっている。BMAは「バンコク民間協力委員会」を設置しているところであり、この委員会は通常、都市・地区・コミュニティ開発で活躍しているNGOを含む民間部門からの協力を強化することを主眼としている。委員会は学者、ビジネスマン、行政官、政治家、コミュニティ代表、ソーシャルワーカーなど、個人の利害関係の懸念なしに考え、経験、資源、労力、時間をBMAに提供してくれる様々な分野の人によって構成される。BMAはこの委員会をバンコク市民が直接市の計画や開発にアクセスできる手段として利用する考えだ。


4. 結論

    バンコクは持続可能な計画と開発の事例研究に最適の都市である。都市の環境と社会の開発という問題は世界各地の計画専門家、計画コンサルタント、経営専門チームの多くにとって常に大きな問題となっている。しかしながら持続可能な計画と開発は現在でもBMAの責任範囲内にある。バンコクの将来は市の行政とバンコク市民にかかっている。市の行政にとって、持続可能性というのがこれからの10年間における最大の課題となるだろう。急成長を遂げているバンコクを持続可能な住みやすい都市、経済・社会開発活動が相互に補完しあう都市、物質面から見た開発と環境開発が常に維持されている都市にするのは市の計画・開発に携わっているものにとってやりがいのある仕事だ。



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