取り組み事例


「公共事業体における管理手法としてのセリーズ原則の活用」

ルイビル・ジェファーソン郡 都市部下水道管轄区

PE 環境プロジェクト・エンジニア  サラ・リン・カニンガム
PE エグゼクティブ・ディレクター  ゴードン・E・ガーナー


序文

    1989年のエクソン社バルディーズ号の原油流出事故の後、投資家、環境団体、宗教組織および年金受託者のグループが「環境に責任をもった経済体のための連合(CERES、セリーズ)」を組織した。そこで彼らは、企業体の環境責任を最下層まで徹底させることを目指し、10項目からなるセリーズ原則(これは当初「バルディーズ原則と呼ばれていたが、後に名称が変更された)を策定した。この原則は、環境の保護、資源の保存、危機の低減、製品の安全性、情報公開ならびに企業責任について言及している。

    ルイビル郡およびジェファソン郡の都市部下水管轄区(MSD)は、70万人の居住地域を対象とする、排水、大雨および洪水を管理する非営利の公益事業体である。MSD理事会は、1990年にセリーズ原則採択を合意し、1993年にその内容を強化した環境政策声明を発表した。セリーズ原則は私企業のために作られたものであるが、MSDはこれらを公共セクターの活動にも適用できるように独創的な方法を考案した。この原則ならびに声明は、MSDの全職員の日常活動、購買決定および長期計画の指針となっている。


セリーズ原則とその応用


1.生物圏の保護

    MSDは新規のインフラ整備に毎年5千万から9千万米ドルの投資を行っている。こうした事業による影響を小さくするため、 MSDのスタッフ、コンサルタントおよび請負業者を指導し、プロジェクトのあらゆる段階で公害防止と環境保護に配慮している。下水設備は、可能な限り河川や大木や価値ある自然物を避けて設置するようにしている。被害を受けていない土地は回復する必要がないので、MSDは、あらゆる投資プロジェクトにおいて浸食防止と沈泥コントロールの最適管理技術(BMPs)のための要件を絶えずより厳しく設定するようにしている。

    MSDは1987年に生物資源の調査に併せ河川の水質モニタリングを始めた。この狙いは、周辺の河川の状況が、浄化槽や400ヶ所もある小規模の臨時排水処理設備を撤去することにより、改善目標に向けて進展があったかどうかを調べることである。MSDは、希釈された排水が河川やオハイオ川に流入する原因となっている浸透や漏洩を減らすように努めている。また、適用可能なところでは、塩素による排水消毒システムを紫外線方式に切り替えつつある。

    MSDは国際環境自治体協議会(ICLEI)の都市二酸化炭素削減計画に参加し、効率的な配車や代替燃料利用や職員の通勤オプション計画ならびに自転車利用の支援などによって、輸送機関のエネルギー利用と温室効果ガス排出を削減している。


2.自然資源の持続可能な使用

    MSDは、価格のみではなく材質を見て用紙の購入を決めている。コピー、レーザープリンターおよびファックス機にはHammermill's Unity DPの複写用紙を用いている。非漂白の20ポンド・ストックの用紙は、リサイクル繊維が100%使用されており、少なくとも50%は回収紙を使用している。その用紙は僅かに灰色を呈しているが、反射が弱いので目の疲労を減少させ、不透明であるので裏の印刷が移らない、といった利点がある。

    発泡スチロールのコップは禁止されていて、職員や訪問者は陶磁器のコップを使用している。また、多くの職員が昼食をとる場所では、金属性の料理用具や再使用可能な皿が使われている。


3.廃棄物の削減と処分

    MSDのコピー機は全部両面コピーが可能である。職員およびコンサルタントは両面コピーが可能な場合には常にその機能を活かすよう指導されている。

    MSDはこの地区の埋め立て用廃棄物からリサイクル用品を数多く回収している。事務所を中心とした活動では、事務用用紙、コンピュータ用紙、新聞紙、段ボール、電話帳、レーザー・トナー・カートリッジ、アルミ缶などを回収している。公用車のメンテ部門の人たちは、使用済みモーターオイル、バッテリー、タイヤ、自動車部品やキャブレター洗浄液、フレオンガスなどをリサイクルしている。メンテナンス部門では、役目を終えた植物用臨時貯水槽の鋳鉄や鋳物の他、スクラップ金属を回収している。

    MSDは職員に対しコンポストの実習も行っている。コーヒーかすやフィルターや庭ゴミは本事務所に設置された容器でコンポスト化される。家庭の危険な廃棄物が下水に流され微生物や環境や職員に害を及ぼさないように、MSDは、恒久的な設備が設置されるまで、地方自治体と共同で収集活動の行事を支援している。

    MSDは、産業廃棄物の監視を強化し、園芸家が土壌改良に使用することができる程度にまでに重金属の生物的濃縮を減らしてきた。MSDは、二つの有益なパイロット的再利用プロジェクトを計画している。そこで作られる製品は、資源再利用のデモ効果があり、かつまた、市場調査にも役立っている。

4.エネルギーの保全

    MSDは、エネルギー保全のために多額の投資をすることにより、エネルギーコストを安定させながら、その顧客を飛躍的に増加させることができた。この他、二酸化炭素やその他のガス排出の減少や職員の快適性の改善などのメリットが挙げられる。職員はあらゆるところでお互いに、よりスマートに、より安く、よりクリーンに働いていると語り合っている。MSDの行動は、いままで語られたいかなるメッセージより大きな声でこのメッセージを職員に送っている。

    MSDは1990年に米国環境庁のグリーンライト計画への参画を宣言し、1996年末までにそれを達成した。この作業は机上のエネルギー使用分析から始まったが、最終的に年間12万ドルの請求ミスが発見された。床面積7万9千uの事務所でエネルギー監査を実施し、その面積の90%に省エネ型照明設備を設置した。この「グリーンライト」計画により、伝統的な照明に要する電力の25−40%で照明が可能となり、ちらつきや騒音はなく、よりよい色の演出がもたらされた。

    MSDの新しく改装された本事務所は、環境庁の「エネルギー・スター・ショウケース」に選ばれた25の建物の一つである。MSDは再度「グリーン・ライト」を灯し、暖房・換気・エアコンのシステムを改善し、断熱施工を施し、建物の総エネルギー需要を半分(年間平方フィート当たり約1$)にまで減らした。

    どんな天候にも堪えうるように、すきま風の入る建物は改善されつつある。ボイラーには断熱材が施され、高効率のモーターが設置された。小さな対策も重要である。一つの建物内にある自動販売機の電源を切るだけで、年間約300ドルの節約が可能である。パソコン、プリンター、コピー機の買い換えに際しては、環境庁が認定する「エネルギースター」機器のみを導入している。ただし、コストを下げ、追加的費用をかけずに汚染を減少させるために入札条件を改訂し、競争入札を実施している。

5.リスクの低減

    MSDの職員は全員、AIDSとハズマット・レベルI(Hazmat Level I)の訓練を受けている。この訓練では、職員が仕事上で出会う可能性のある物質の安全性とデータ(MSDSs)について学ぶ。職員には、職務の必要性に応じて、例えば、上級ハズマット、閉じこめられた場合の対処方法、呼吸蘇生術、応急処置など、200以上のコースが準備されている。テールゲイト安全クラスでは、実戦部隊および補助部隊が自分たちの実際の活動に即した訓練を受けている。訓練用のバンには、座席毎に「漬け物バケツ」、TV/VTR、発電器、スナックおよびコーヒーが配備されていて、これらが現場に届けられる。また、例えば、雑草を切りとる係りは目の損傷を防止する方法を学び、建築物検査官は塹壕が崩れることを防止する方法について学ぶ。

    MSDは、大きな結合下水管から漏れる空気を初めて設置したバイオフィルターで洗浄することによって、高価で扱いが難しくそして危険性の高い化学薬品を使用せずに、臭気の苦情を殆ど無くすことに成功した。


6.安全とサービス

    MSDは、結合下水管から流れ出る全てのオーバーフローに警告サインを掲げ、深いところにある下水管接続口に鍵付きのふたを取り付け、管理人にとって危険であると判断された洗浄剤の代替物を見つけだした。

7.環境の復元

    何十年にも亘り、MSDのエンジニアは、全米の他の地区と同じように、多大な努力と資金を投じ、流れを良くし、洪水を最小限に留め、湿地を開発に適したように改善するため、岩石やコンクリートを使って河川を広げたり、バイパスを作ったり、流れが真っ直ぐになるような修復を行ってきた。この古いやり方は、実際には、洪水や排水問題を悪化させ、浸食を増加させ、また、自然の破壊をもたらした。MSDは今日、地域住民と一緒になって、自然の景観や蛇行する小川や流れの中に生える植生などを復活させながら水路を改善補強するグリーンウェイ計画を実施している。グリーンウェイによって、優れた洪水管理と大雨の処理、水質と野生物の住みかの保護、レクリエーションの場、歩道やバイク路、洪水保険料率の低下などがもたらされた。55qにおよぶこの地区のオハイオ川堤防に沿って設置されるレクリエーションエリア計画を含むいくつかのプロジェクトは、既に部分的に完成されており、良く知られている。

    MSDは市民グループおよび地方自治体と共同して、河岸地域の洪水を和らげ、野生生物の生息環境を保全する植生状態に戻す活動をしている。固有種の保存を配慮した土壌のバイオエンジニアリング設計は、現在応用段階のプロジェクトとして展開している。

    1989年以来毎年6月の土曜日の一日、ペンシルバニア州ピッツバーグの源からイリノイ州カイロの河口にいたるまでのオハイオ川両岸の住民は、ゴミのクリーンアップ作戦に参加している。 MSDはジェファソン郡内の堤防全域に於いてこれらの活動を協同で進めている。


8.一般大衆への情報提供

    MSDは、職員、一般市民およびメディアに対する情報公開を推進している。職員は誰でも、本人がその能力があると思うときには、記者の質問に答えている。市民による数多くの助言グループは、MSDのプロジェクトや計画の意志決定者に対し意見を提出している。どの投資プロジェクトにも、そのプロジェクトで影響を受ける土地や建物の所有者を交えた会合がもたれる。このような姿勢は、時として膨大な仕事を伴うことになるが、信頼性、市民の支援、信用、それにMSDの問題の正しい報道と言った面で十分報われている。

    職員は、コミュニティ、環境団体、政府委員会および専門家組織と関係を持つことが奨励されている。河川クリーンアップやアースデイでのイベントに参加するスタッフによるボランティアは、スピーカーを提供したり、現場視察のアレンジなどを行っている。MSDは、河川を清掃する市民グループに対し、軍手、ゴミ袋、ゴミの処理(時には廃車も含まれる)の便宜供与をしている。MSDは地域の学校と協力し、環境特別プロジェクトを実施している。いくつかの環境技術高等学校で訓練を受けた生徒がMSDに雇われ、夏期プロジェクトの調査に参画し、衛生排水が混入していないことを確認(これは環境庁の都市大雨認可プログラムの必須条項)するため、地域の河川に流入する全ての排水口でのサンプル採取を行っている。

    MSDはこれらの知識や経験をこの地域並びに北米、南米、欧州、アフリカおよびアジアの関係者と共有している。

9.経営陣の参加

    役員室の技師一名が、フルタイムで全組織に亘る環境原則の実施を統制している。しかし、全ての職員は、セリーズ原則、環境政策声明ならびに関連する政策や手続きを受け入れる責任を持つ。また、環境被害を起こすおそれのある事態について報告することが要請されている。スタッフの誰かがこれら法規制の条項や精神を遵守していないと信じられる場合には、誰でも極秘の報告を提出することができるシステムもある。監督者は毎年行われる給与査定の時点で職員の環境支援を評価することになっている。新職員のオリエンテーションに於いても、MSDの目指すものが個々人の責任とどのように関わり合うかといった教育もなされる。

    新しい資金を要する計画についても、それがセリーズ原則に沿ったものである限り支持を得ることは容易い。

    購買部門は、納入品と納入業者およびサービスの徹底的見直しを行うと共に、誰から何が購入されているかをさらに綿密に調査するようになった。リサイクル素材を使った製品の購入が特に重視されている。もし、ある業者が環境の必要条件を満たすことができなければ、将来の契約は不適合と宣言される。


10.評価と年次監査

    セリーズ原則に調印したところは、かなり膨大な、しかし価値のある詳細な年次報告を作成することが要請されている。この作業には、内部のあらゆる部門からの協力と情報提供が必要となる。この過程で、職員同志が対話し、お互いの仕事の中身やニーズや問題点などを学ぶ。多くの職員には自分たちの問題意識やアイディアをトップに投げかける機会が与えられる。改善のための戦略はしばしば、ギブ・アンド・テイクの中から自然に生み出される。ここからチームワーク倫理の強化ももたらされる。

    MSDのトップおよび理事会に向けた内部の報告は、協力と責任体制を強化することにつながる。

    健康および安全に関する監査に加え、1997年からはMSD設備の定例環境監査が追加される。


結論

    財政面から見ると、MSDの経験によれば、セリーズ原則の導入は管理可能なまた受容できる費用内で行われ、しばしば費用の削減ももたらされた。セリーズ原則の導入に関連する多くの活動によって、コミュニティからの組織に対するイメージと信頼感が向上した。一般市民はセリーズ原則の知識を殆ど持っていないが、彼らは環境問題がやっかいなものであることを発見し、また、MSDが信念をもって活動し現状の改善に機能していることを認識するに至った。

藤沢市ザールブリュッケンバンコク市グル自治体ラトナプラエルサレム市ポートランドラ・セイバ市シェンヤン−瀋陽