グローバルネット(月刊環境情報誌)
2014年12月(289号)
特集/低炭素社会を実現するために〜CO2の大幅削減を提案するNGO、研究機関
2030年の日本の気候目標への提言〜低炭素社会の実現に向けて
気候ネットワーク 平田 仁子(ひらた きみこ)
気候変動防止の厳しい現実と各国の政治的気運の高まり
20年余の歴史を刻む気候変動を巡る国際交渉は、再び重要な局面を迎えている。気候変動に関する政府間パネルIPCC第5次評価報告書は、気候変動が加速度的に進行している深刻な事実を伝え、国連環境計画(UNEP)は、地球の平均気温上昇を産業革命前の水準から2℃未満に抑えるという国際目標の達成には、現在の各国の行動では全く足りないことを明らかにしており※1、これ以上の行動の先送りはできない状況になっている。来年の気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で合意が目指される2020年以降の世界の枠組み(2015年合意)は、この厳しい現実に対し、各国の行動を引き上げ、気候変動を防ぐ目的を達成することができるものになるかが試される。2014年9月に潘基文国連事務総長の招致で開催された国連気候サミットに122ヵ国の首脳を含む160ヵ国以上の国々が参加したこと、11月に米中首脳が気候変動に関する共同声明でそれぞれの次期目標について発表したこと、さらに主要先進国が途上国支援のためにこれまでに合計で約100億ドル近い資金拠出を表明していることなどは、2015年合意に向けた政治的機運の高まりを表しており、COP21が失敗の許されない会議になるであろうことを示している。
世界第5位の排出大国としての日本の役割
当然ながら日本も、気温上昇を2℃未満に抑制し、気候変動によるグローバルな環境・社会・経済への悪影響を回避するために、世界と協調して2015年合意に向けて行動しなければならない。
2015年合意の成功に向けた日本の役割は大きく三つある。第一に、途上国の気候変動対策の促進のために技術移転を通じた支援を強化することである。ただし、技術万能主義に陥らず、途上国の持続可能な発展に資する技術に関しては吟味が必要である。とくに二酸化炭素(CO2)排出増加をもたらす高効率の石炭火力発電所建設事業の継続は直ちに見直しが必要である。
第二に、緩和・適応の両方で途上国の対策を支援するための資金の供与を毎年安定的に行うことである。11月の「緑の気候基金」への15億ドル拠出表明は日本としての重要な貢献の一歩と評価される。さらに、2020年からは世界全体で年1,000億ドルの資金拠出に国際合意していることを受け、日本の支援を継続させるスキームを国内で確立し、革新的な資金メカニズムの実現へ積極的に貢献することが求められる。
以上二つの途上国支援に関する役割に加えて、極めて重要なのが、第三の日本国内における低炭素社会の実現である。最近、政府や企業の一部の間では、日本のCO2排出量が世界全体の4%を下回っているため国内対策の意義を過小評価する見解も見られる。しかし日本は現在もなお、中国・米国・ロシア・インドに続く世界第5位の排出大国である。日本が排出削減を国内で推し進め、低炭素社会を実現することによるグローバルな気候目標の達成への寄与度は小さくない。また、高い削減目標は、国内の低炭素技術開発を一層促進させ、世界の中での役割を高めることにも貢献するだろう。
では、日本の低炭素社会の実現への歩みはどうか。
現在、2015年合意に向けて、各国に自国の削減目標草案を2015年3月までに提出することが国連で呼びかけられている。11月の米中首脳による目標の発表はこれに備えたものであり、欧州連合(EU)はすでに10月に2030年40%削減目標(1990年比)を首脳会合で決定している。これに対し、日本の検討は遅れている。
2020年目標に関しては、2009年麻生政権時に90年比8%削減、2009年鳩山政権時に同25%削減、そして福島第一原発事故後の2012年安倍政権では暫定目標として同3.1%増加とされ、何度も変更を重ねてきた。京都議定書第二約束期間にも不参加を決め、目下、国内の目標も計画も不在という状況だ。ようやく今年10月下旬、国連の呼びかけに応えるため環境省と経済産業省の合同審議会で検討に着手し始めた。日本が削減目標提出の期限を守り、2015年合意へ向けた交渉を遅延させないことはもちろんだが、削減目標の水準の十分な検討が重要である。
日本に求められる削減量は40%〜50%
日本政府は、第4次環境基本計画において、2050年に温室効果ガス排出量(GHG)を80%削減する長期目標を掲げている。今後40年弱の間にGHGを大幅削減し、低炭素社会を実現する目標はもう存在する。問題はその過程をどう描くかである。日本の2030年目標は、この長期目標に向けたマイルストーンとして重要な意味を持つ。
日本の環境NGOで構成されるCAN-Japan※2は、日本の2030年の気候目標について、目標決定に向けた三つの視点に基づき、あるべき2030年目標として「温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比40〜50%削減」を2014年9月に提案している。
政府におけるこれまでの目標設定では、一定の経済成長率を置いた上で削減ポテンシャルを積み上げて試算する方法をとってきたが、CAN-Japanは、それだけでなく、さらに二つの視点を重視している。一つ目は、気候変動を抑制するために「グローバルに必要な」削減水準はどれぐらいかという視点である。IPCCは、気温上昇を2℃未満に抑えるには2050年までに2010年比で約40〜70%の削減が必要であるとし、2℃未満目標の達成を5割の確率で達成する2030年の世界の排出量は約300〜500億t(CO2換算)の範囲になるとしている。提案ではそれらを考慮している。
二つ目は、他の国々と協力して気候変動を抑制しようと考えた時に、何が日本や世界にとって「衡平な」削減水準であるかという視点である。「衡平性」に関する議論動向や、CANが「妥当性」「責任」「能力」「発展のニーズ」「適応(及び損失と被害)」を重視していることなどを踏まえ、既存研究を参照し、日本に求められる削減量が30?60%削減であることを確認している。
なお、政府が目標設定の根拠とする削減ポテンシャルについては、三つ目の視点として取り上げ、日本のNGO(気候ネットワーク、グリーンピース・ジャパン、WWFジャパン)が過去に発表した削減シナリオを参照し、約50?60%削減ポテンシャルがあることを確認している。これらのシナリオでは、迅速な対策の実施や、政府が十分に対策を行っていない領域の省エネや再エネの実施、燃料転換等を想定している。また、原発に頼らず、脱化石燃料を進める前提で、削減ポテンシャルがなお多く存在していることを示している。
求められる政治の断固たる意思
2015年合意に向け、本論で指摘した日本の三つの役割のうち、日本国内の着実なGHG排出削減が、福島原発事故の影響もあって最も停滞しているのが現状だ。問題意識も低い。しかし、2015年合意に向けては、さまざまな困難を克服して課題解決に取り組む意思が求められる。政府には、以上の提案に含まれる視点や削減水準を十分考慮し、幅広い参加による議論を経た上で、国際的に責任ある国として先導して行動する断固たる意思を示すことを求めたい。
※1:UNEP, Emission Gap Report 2014
※2:CAN(Climate Action Network)は、気候変動問題について、世界100ヵ国以上、900団体以上のNGOが集まったネットワーク。CAN-Japanは、そのネットワークの日本での集まりで、気候ネットワークを含む、11の団体が加盟している。
(グローバルネット:2014年12月号より)
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