グローバルネット(月刊環境情報誌)
2014年3月(280号)
特集/シンポジウム報告 気候変動の身近な影響と適応策を考える(その4)
地球温暖化の影響と適応情報
国立環境研究所 理事
原澤 英夫さん
地球温暖化は近年、異常気象(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では「極端現象」と表現)としてその影響が現れています。欧州やロシアでは熱波による被害が深刻です。また台風やハリケーン等も被害規模が拡大しており、米国のハリケーン・サンディやフィリピンを襲った台風30号も記憶に新しいかと思います。
世界中で起こるこうした極端現象が、本当に温暖化によるものかどうか、研究者は一生懸命研究をしています。昨日もそうした研究成果報告会に出たのですが、やはり温暖化が影響しているという結果が出ています。異常気象とは「30年に1回起きるような現象」という定義ですが、近年は世界のどこかで毎年起きているような感じで、もはや「異常」ではなくなってきています。
地球温暖化は人間活動から出た二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスが大気中にとどまり、それが地球のエネルギーバランスを崩し、地球が暖かくなっていく現象です。国立環境研究所では各地のモニタリングステーションで大気中の温室効果ガスの濃度等を観測していますが、早いスピードで上がってきており、今後も温暖化が続くであろうとの予測が出ています。
昨年(2013年)9月から今年秋にかけ、IPCCは三つある作業部会の第5次評価報告書(AR5)を順次公開します。昨年9月に承認されたAR5の一番大きなポイントは、世界の平均気温の上昇は人為起源の要因による可能性が極めて高い(95%以上)と明記したことです。世界中の科学者の英知を集めた報告書でも、もうほとんど温暖化は確からしいという結論が出ています。今後どうなるかについてもさまざまな予測がなされています。一例を挙げると、2100年で気温は今より1.1〜2.6℃上昇する(RCP4.5シナリオの場合)といった予測が出ています。
温暖化の影響は分野横断的・複合的
図1はいろいろな地域・分野で予測される影響をまとめたものです。海面上昇は小島嶼国にとって非常に重要な問題ですが、単に海面が上昇するだけではなく淡水にも影響します。単発で起きる影響だけではなく、複合的な影響が出ることがわかるかと思います。
図1 気候変動によって各地域・分野で予測される影響の事例※クリックで拡大
(作成=ポンプワークショップ)
日本への影響についても長年さまざまな研究がなされています。例えば農作物への被害としては、九州ではコメがとれなくなってきており、新しい品種を開発・利用しつつあるとか、高山植物の消失域の増加や、雪の減少のためスキー産業に影響が出ていることなどが挙げられます。また、大雨が増えている一方、渇水・洪水という両極端な現象のリスクが高まっていることもわかってきました。
国立環境研究所ではサンゴ礁の分布についても研究しているのですが、海水温が上がるとサンゴの生育環境も悪くなり、死滅してしまいます。同時に大気中のCO2増加による海の酸性化も問題で、サンゴにとってはたいへん厳しい環境になってきており、分布域にも影響が出ます。日本の温帯域ではサンゴの分布が1年で14km北へ拡大しています。
緩和策と適応策が両輪
温暖化対策としては、根本的にはまず原因を取り除く、つまり温室効果ガスを減らすということが大事ですが、すでに温暖化の影響は出ており、頑張っても影響は残りそうだということで、その影響に対して対策(適応策)を講じていく必要があります。CO2の削減といった緩和策については日々の生活にも浸透してきていますが、適応策についてはまだ認知度が低く、やっと国レベルで計画をつくり、自治体・国民を巻き込んだ形で進めようというところです。
温室効果ガスの排出削減と吸収源となる森林増加等の緩和策と同時に、緩和策を講じても避けられない悪影響への備え・新しい気象条件の利用といった適応策を、相互補完的に進める必要があります。具体的には、例えばネパールの氷河湖(氷河が溶けてできた湖)では、氷が堤防の役割を果たしているため、暖かくなってそれが溶けると一気に水が流れ、下流域に洪水をもたらします。この氷の堤防をコンクリートで囲むような施設をつくって、影響を緩和しています。また、カナダのコンフェデレーション橋では、将来の海面上昇に備え、あらかじめ1m高く設計・建設しています。他にも水資源や食料、人間の健康に関連するものなど各分野でさまざまな適応策がとられています。例えば食料の場合、植え付けや収穫の時期を変えたり、新しい品種を開発したり、沿岸地域では海面上昇に備え、堤防の整備や砂防林を育成したりしています。また、健康関係では上下水道等のインフラの改善、伝染病の予測・早期警戒のためのシステム開発も大切ですし、熱中症や豪雨・台風災害に対しては天気予報がこれまで以上に重要な役割を果たします。
包括的な対策を推進する
緩和と適応をどう進めていくかですが(図2)、例えば適応策としては大雨等への防災があります。ただ、ハード面の整備にはお金も時間もかかります。既存の洪水対策や下水道対策に適応策の考え方を入れ込んでいく、「主流化」と呼んでいますが、そういう形でいろいろと進められると思います。
図2 気候変動と緩和策・適応策の関係
(作成=ポンプワークショップ)
例えば建物の断熱化は、気温上昇への対策だけでなく、冷房の節約にも一役買うためCO2削減策にもなります。都市部の植樹もCO2削減策であると同時に暑さを避ける意味では熱中症への一対策として効果を持ちます。また、適切な森林の整備という側面では、最近の台風や豪雨で、山間地域では土砂崩れ等が頻発しており、森林のCO2吸収源としての機能を増進させると同時に、地域の防災や安全のためにもなるような整備・保全事業が求められています。
これまでは3E(環境、エネルギー、経済)を社会に根付かせようという話でしたが、加えてS(安全)が重要な要素になってきています。この安全には、防災という意味もありますが、やはり「低炭素」で「影響適応型」社会の実現に向けた取り組みを加速させる必要があります。国の適応計画や国土強靭化計画、防災計画といった各取り組みを統合化し、実現へのロードマップを提示する必要があり、そのためにわれわれの研究も役立てばと考えています。温暖化の適応はもちろんグローバルな課題です。日本全体で考えることも重要なのですが、地域のことを考え地域に根差した適応、個人の適応のための学習・実践への参加も必要になっています。
(シンポジウム「気候変動の身近な影響と適応策を考える〜IPCC第38回総会に向けてin仙台〜」より。2014年1月22日、環境省主催)
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