グローバルネット(月刊環境情報誌)
2014年1月(278号)
特集/シンポジウム報告 気候変動の身近な影響と適応策を考える(その2)
地球温暖化はアジアでどう現れつつあるか
〜IPCC第一作業部会第5次評価報告書を中心に
総合地球環境学研究所 安成 哲三さん
温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)濃度は、2013年に400ppmに達しました。18世紀の産業革命以前は280ppmで1万年ぐらい変わらなかったのです。しかし、産業革命以後じわじわと上がってきて1950年で300ppm、さらにこの50年ぐらいで400ppmになっています。
CO2の増加による気候変動の今後の予測については、人間活動がCO2をこれからも増やすか、抑制するかによっていろいろなシナリオがあります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、例えば現在と同じようにCO2を何もせず増やしていった場合は2100年に地球の気候がどうなるのか、あるいは厳しく抑えて、2070年ぐらいから、現在のレベルまで押さえられたら気候はどうなるのか、という気候のモデルを使って予測をしています。
一番の問題は気温ですが、1850年以降の地球全体の平均気温は1980年から急激に上がってきています。実は今回のIPCCの報告書で問題になったのは、最近の10年ほど、CO2は増えているのに、気温上昇は足踏み状態が続いていることです。温暖化が止まったわけではなく、長期に見ると気温は上昇傾向で、20世紀の初頭と比べるとほぼ地球全体で1℃近く上がっています。
海面の高さは、全球的に上がってきています。1900年ぐらいから上昇傾向が続いています。この100年間で15pほど上がっています。熱帯のサンゴ礁の島々には非常に脅威で、島自体や国自体がなくなってしまうのではないかといわれています。
世界のいろいろな地域の山岳の氷河はほとんど縮小傾向にあります。これも温暖化の一つの状況証拠になっています。とくにネパールのヒマラヤ氷河については、名古屋大学に1970年代から氷河を観測しているグループがあります。私も大学院生の時にそのメンバーでした。同じ氷河の写真を見ると1978年と2008年で大幅に氷河が後退していることがよくわかると思います(写真)。
1978年のヒマラヤ氷河(写真:名古屋大学提供)
2008年のヒマラヤ氷河(写真:名古屋大学提供)
集中豪雨、干ばつがアジア、ユーラシア大陸で増加傾向
CO2に並んでもう一つ重要な温室効果ガスは水蒸気です。地球の表面の温度を決めているのは、半分は水蒸気の温室効果によるものです。CO2によって海面が温まると水蒸気が大気中により多く供給され、温室効果が加速されます。これも実は大きな問題なのです。最近、人工衛星で海洋上の水蒸気の分布を調べていますが、1990〜2012年までの10数年間は全般的に上昇傾向にあります。
降水量に代表される水循環は活発になっているのでしょうか。これは観測が難しいのです。われわれの生活や農業、水資源にとって、あるいは災害にとって、降水がどう変化しているかということは重要なことです。降水量を長い間測ってきたのは陸上だけです。海洋上は全然データがありません。最近やっと人工衛星から海洋上の降水量もある程度間接的に見積れるようになりました。1900〜2010年の陸上の降水量データですが、年々の変動が非常に激しく、増えているか、減っているかはよくわかりません。北半球の中高緯度を中心に見ると降水量は若干増加傾向にあります。
極端な水文気象現象、いわゆる集中豪雨や干ばつ傾向などは顕著に増加傾向があります。日降水量の中で強いものが増えているのかどうか分布図を見ると全般的に増えています。一方、連続干ばつの日数はアジアでは増えています。
日本では気象庁の気象研究所が明治以降100年以上にわたって降水量を記録しています。日本全国100ヵ所を越える観測点で毎日4時間おきの降水量のデータをとっているのです。強い雨、弱い雨の頻度の変化、この変化を100年間に渡って調べてきました。そうすると日本全国どこでも強い雨が増加の傾向になっています。
今後の気候予測では、人間活動による温室効果ガスの排出を厳しく抑制したシナリオ、ほとんど抑制しないシナリオなど複数のシナリオを考えます。2100年にはCO2濃度がどれぐらいになっているのか、いろいろな不確定な問題がありますが、2100年にはCO2の排出量を低く見積もっても、どんなに人間が努力しても1.5℃ぐらいは現在より高くなってしまい、何もしないと4℃ぐらい上がってしまいます。地球全体の平均気温ですから地域によってはもっと上がるとIPCCは予測しています。例えば北半球の中高緯度地域はさらに高温になります。
海氷面積も今の予測でいくと2050年ぐらいには、北極の海氷はほとんどなくなってしまうことも予想されています。2100年ごろの降水量は現在に比べると、極を中心に高緯度の地域やアジアのモンスーン地域で増え、亜熱帯や地中海、中央アジアの砂漠地域などは減ると予測されています。
海面上昇は一番上がる場合には地球全体で1mぐらい上がります。日本に関係の深い西太平洋は一番上昇する所です。
強い台風、熱帯低気圧は増えるとの予測
台風や熱帯低気圧はどうなるかに関心をお持ちだと思いますが、この予測は非常に難しいものです。全般的に台風の数は若干減るのではないか、ただし強い台風の頻度は若干増える可能性はある、というモデルがあります。台風に伴う雨が強くなることは多くのモデルが示しています。
京都に大きな被害をもたらした台風18号や、フィリピンを襲った台風30号のように、これまでなかったような強い台風が増える可能性を示唆しています。まだ不確実な部分はありますが、われわれが住んでいるモンスーン地域は非常に悩ましい所です。モンスーン地域では陸と海の温度差で大気の循環が起きるのですが、これのみ考慮すると陸と海の温度差が弱くなるので、それほど雨は強くならないでむしろ弱くなりそうです。しかし、水蒸気が増えるので、結局雨を降らせたり、あるいは台風などを強くしたりする方向に作用する可能性も指摘されています。
人間活動が地球のシステムに与えている影響はいろいろあります。生物多様性の減少、生態系が人間活動で広範囲に崩れてしまうと、植物群がCO2を吸収する役割も弱くなる可能性もあります。そうするとそれが気候変動にも悪影響を与えることになります。
京都の庭園などに行きますと鹿威し(鳥獣を追い払うための装置。竹筒に水を引き入れ、満杯になるとカタンという音を出して水を吐き出す)があります。人間活動による影響でCO2が増え続け、気温などがじわじわと変化し、CO2の濃度があるレベルに達すると、鹿威しがカタンと落ちるように、ティッピング・ポイント(急激な変化をもたらす転換点)といいますが、気候が急激に変わることもありうるのです。IPCCの気候モデルにはそういう効果はほとんど入っていません。ですから2100年にはこうなります、と私はお話ししましたが、別の効果を考慮すると、場合によっては突然、気候が変わることもあり得ることを示唆しているのです。
私たちの地球の将来はどうなるのか。地球が人類とすべての生命にとって母なる惑星であり続けるかどうかは、ひとえに私たち人類の叡知と行動にかかっています。
(2013年11月29日京都府内にて)
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