ここでは国連の砂漠化対処条約の中での定義に基づく砂漠化の定義、世界の砂漠化の現状、また事例としてインドの砂漠についてお話しいたします。
国連砂漠化対処条約では、もともと人間の住めない極度に乾燥した地域については「砂漠化」の問題から除外して考えています。
写真右は過放牧の家畜の状態を表しています。放牧が一般的なところで、家畜が草や木を食べ尽くしてしまいます。過放牧は砂漠化のプロセスの一つと考えられています。
塩類集積とよばれる現象も各地で深刻です。例えば乾燥がはげしいところで、灌漑用の水をまき、地表面に日があたると、下に溜まった水が上昇し、水は蒸散し、塩分が残ったという状態です。
また風による浸食は「風食」と呼ばれ、これも砂漠化のプロセスの一つと考えられています。
左の写真は雨による浸食(水食)を表したものです。地表面になにもない状態が一番浸食がおこりやすく、草や木に覆われているかどうかによって、土壌浸食の度合が変わってきます。家畜が地表面の草や木を食べてしまい、風雨が直接土壌にあたり、風食や水食がおこりやすくなります。また、薪炭材の過剰採取により、人家の周辺に裸地化が進んでしまうのです。その後に風食、水食が起こると地表面の栄養に富んだ土がなくなってしまいます。草木はある程度は元に戻りますが、一度土壌自体がなくなってしまうと復元力が弱くななります。これを不可逆的な土地荒廃と言います。
この写真は中国の雲南省の例で、深く谷が刻まれてしまいます。元々は森だったが50年代の大躍進政策により森林破壊が行われ、土壌浸食がおこってしまったのです。
例えば都市化で草や木がなくなってしまった市街地や、マングローブ林など熱帯の湿潤地域の森林破壊などについては、国連の定義では除外されています。
ここで、砂漠化と土地荒廃の概念を整理しましょう。
土地荒廃(Land Degradation)とは「土地生産力の長期的、不可逆的な減少。土壌浸食、塩類化、自然植生の消失」とされています。砂漠化(Desertification)という言葉は「砂漠の拡大現象」としてAubreville(1949)が初めて使いました。
1977年国連砂漠化会議(UNCCD)、1992年国連人間環境会議(UNCED)、1994年国連砂漠化対処条約(UNCCD)という流れの中で、国連における砂漠化定義も以下のように変わってきています。
・UNCOD 1977年 国連砂漠化防止会議での砂漠化の定義 「人間活動を主要因とする、乾燥、半乾燥、半湿潤地域における土地の生産力の減退ないし破壊」 ・UNCCD 1994年 砂漠化対処条約での砂漠化の定義 「乾燥、半乾燥、乾燥半湿潤地域における様々な要素(気候変動および人間の活動を含む)に起因する土地荒廃」 |
ポイントとしては、UNCODの方は人間活動を主要因としているが、UNCCDは人間活動に並んで、気候変動を入れています。また、UNCCDでは「土地荒廃」と明白に定義をあたえています。
それではこの条約での「土地荒廃」の定義を見てみましょう。
「乾燥地域、半乾燥地域及び乾燥半湿潤地域において、土地の利用又は単一の若しくは複合的な作用(人間活動及び居住形態に起因するものを含む。)によって天水農地、かんがいされた農地、放牧地、牧草地及び森林の生物学的又は経済的な生産性及び複雑性が減少し又は喪失することで次のようなものをいう。
(1)風又は水による土壌の侵食、
(2)土壌の物理的、化学的及び生物学的特質又は経済的特質の悪化、
(3)長期的な自然の植生の喪失」
一つの特徴としては、気候帯で範囲をを区切っているところでしょう。乾燥、半乾燥、乾燥半湿潤地域の三地域に限定しています。これらの地域より乾燥した極乾燥地域、湿った地域は除外されています。また、気候変動と人間活動という両方の要因によるものを含めています。
具体的な中身は、風または水による土壌浸食、塩類集積が中核的なものしてあげられています。
砂漠化の問題を考えたとき、さまざまな背景要因が複雑に関わってきていることを忘れてはなりません。薪炭材の過剰採取がなぜ引き起こされたかを考えると、背景に貧困、人口増大という間接的要因があります。
先程三好さんの方から説明がありましたが、砂漠化対処条約をよく読んでみると、砂漠化対処条約と言いながら、土地荒廃を防止するだけでなく、乾燥地における持続可能な社会、生活を築いていくことを大きな目標にしています。
乾燥地域においては生物生産、すなわち草や木の生え方が少なくなってきます。我々の生活とは違い、伝統的な社会では、生活の多くをその地域における生物生産に依存しています。例えば中国で四料という言葉があり、「食糧、燃料、飼料、建料」を指しています。これらすべてを身近な木や草から得ているので、周りに木がなければ食べ物の煮炊きもできず、家を作れません。そういう場所における持続可能な社会を作っていくということが、砂漠化対処条約における一つの大事な要素です。
実際に乾燥地域でどういう土地荒廃があるのでしょうか。乾燥地域では、放牧地、天水農業、灌漑農地などの用途に土地が利用されていますが、それぞれ以下のような問題が起こっています。
1.放牧地 −過放牧、風食、砂丘再活動
2.降雨依存地域(天水農業)−過耕作
3.灌漑農地−塩類集積
最近は、こういった地域に医療施設や教育施設を整えるなどして、定住生活をすすめる傾向があります。それにより、一箇所に人口が集まると、過放牧や薪炭材の過剰採取がおこります。降雨依存農地では過耕作行われ、休耕と耕作を繰り返していたのをやめてしまい毎年耕作するようになります。塩類集積も問題になっています。
世界では砂漠化はどのように進行しているのでしょうか。1992年UNCEDにおけるレビューによると、砂漠化地域は赤道を挟んで北と南の緯度でいうと15〜30度ぐらいの所に集中しています。極乾燥地域は砂漠化の対象から抜かして考えられているので、人が生活できるところの土地荒廃を示しています。数字でいうと、3,600万km2、乾燥地の70%、陸地の4分の1です。
放牧地では、放牧地4,556万km2のうち、2,576万km2の土地で植生が荒廃しており、さらに757万km2の土地で土壌と植生の両方が荒廃しています。
降雨依存農地458km2の47%の216万km2で土地の荒廃が起こっています。さらに灌漑農地146万km2の30%である43万km2で土地荒廃が起こっています。
次に、私がこれまで研究してきたタール砂漠、カブラカラン村における砂漠化の事例を紹介しましょう。
タール砂漠はインドとパキスタンにまたがる面積約260万km2の熱帯砂漠で、過放牧が問題となっています。家畜がつくった砂漠ともいわれています。
主要地域に当たるラジャスタン州乾燥地域の人口密度は1km2あたり1901年には16人だったがのですが、1991年には83人(推定値)となっており、世界的に見ても、もっとも人口の密な砂漠のひとつとなっています。
気候は、夏はモンスーンによる降雨で安定して雨が降り、それを利用して天水農業を行い、十数頭のヤギや羊を飼うという農業形態です。乾季には乾燥しています。
近年、村にもトラクターが広く導入されるようになってきましたが、トラクターの場合、ラクダより土壌を深く掘るので表面がぼろぼろになり、風食を起こしやすくなるという問題が生じています。
また休耕期間の減少により過耕作が生じています。
過耕作の原因は人口増加です。昔はローテンションを組んでやっていたのですが、1人あたりの耕作面積が減ってきて、同じ収穫を採ろうと思うと毎年どんどん耕作しなければなりません。
インドの土地の分配制度の仕組は、男子に土地が均等配分されるため、どんどん土地が細分化されてしまいます。人を養うだけの土地がなくなってしまうのです。
小さな土地の所有者は余裕がなくなってきて、主食をつくるだけで精一杯になり他のものの割合が少なくなってきます。特にマメ科の植物は土地を肥やすので、土地の生産力の回には重要な作物なのですが、そういうものを作る余裕がなくなってしまいます。
人口増大が大きな問題の背景ですが、その要因としては、結婚時期が早い、死亡率低下、家族計画をしない、男子を欲しがる、などの社会的な問題も絡んでいます。
現象としては「砂漠化」ですが、背景要因として休耕地の減少、人口増大があり、村から出ていく人が少ない、土地分配システムなど社会経済的な背景も関係しています。
それでは、どうやってこれから砂漠化・土地荒廃への取り組んでいけばよいのでしょうか。
1977年、国連砂漠化会議(UNCOD)において砂漠化防止行動計画が採択されました。しかし砂漠化の減少は止まらず深刻化の度合いを深めていきました。
失敗の理由は、政府主導のトップダウンで行われてきたことで、最近はむしろ住民の主体的な意思を大事にするボトムアップ型のアプローチが志向されるようになってきています。
また、昔は一つの場所にお金をつぎ込む大規模な拠点開発方式のプロジェクトが多かったのですが、最近は広く薄くできるだけお金を効率的に使うために小規模なプロジェクトを多くの場所で、という方向に変わりつつあります。ダムを作るなど大規模なものを単独でやっていたのが、女性の働く場を作るなど社会・生活の基盤整備の総合型なものに変わってきています。