世界砂漠化・干ばつ記念セミナー記録

3.現場からの報告〜チャド、ブルキナファソでの取り組み

高橋一馬/緑のサヘル代表
さまざまな砂漠化の要因
「緑を減らさない」
「緑を増やす」
持続可能な農業、生活基盤の整備
写真1 焼き畑
写真2 過放牧
写真3 道ばたで売られる炭・薪
写真4 家畜の行き来だけでこれだけの違いが生じる
写真5 三石カマド
写真6 改良カマド
写真7 育苗用ビニールポットへの土詰め作業
写真8 果樹接木に対する住民の関心は高い
写真9 アカシア・セネガルはマメ科の有用樹
写真10 アカシア・セネガルの木
写真11 モーターポンプを使った野菜栽培
写真12 住民によるアグロフォレストリーの一例
写真13 ラテライト化した土壌の表面を三日月型に掘り返す
写真14 植生が定着する
写真15 乾期の前に穴を掘り、家畜の糞等の有機質を入れる
写真16 地表面をがりがり引っ掻いて放置すると…
写真17 3年ほどでこうなる
写真18 耕作地の境界線に防腐・防砂のため植えられたニーム(インドセンダン)
写真19 育苗センターで育てた苗木を植栽を希望する住民に配付する

 私の団体は砂漠化して赤茶けたサヘル地域に、緑を回復したいという趣旨で91年に設立されました。92年チャドで、96年ブルキナファソで活動を始めました。
 サヘルとはアラビア語で「岸辺」という意味で、かつてアラビアの商人が砂漠の海を越えてやっと緑の岸辺についた、というところから由来しています。降水量は100〜500mmですが、一般的に言って穀物の栽培限界降水量は350mm と言われています。アフリカのある村では昔は降水量が400〜500mmだったが、年々減って今は300mmに満ちません。農業だけでは不十分のため、半農半牧が生活形態になっています。農業・牧畜業だけでは難しく、近隣国に出稼ぎするケースが多く、男性が家を空けることが多いため、女性の役割が重要になっています。
 日本で砂漠化というと、砂に飲み込まれているというイメージがありますが、それが誤解を生む原因になります。

さまざまな砂漠化の要因

 砂漠化の起こる原因には、過剰放牧、過剰耕作、薪炭材の伐採、都市化などいろいろありますが、もう一つ忘れてはならないのが、地域の経済が世界経済に組み込まれていることによる変化ということです。すなわち「貨幣経済」が伝統的な社会に急速に入ってきて、物を買うためのお金を手にいれるため、農耕民は農業生産を増やそうとし、家畜を増やして買おうとします。


写真1 焼き畑は、長い周期をおく伝統的な方法では持続可能な農法だが、周期が短いと土地の回復が間に合わなくなる

 農耕民は伝統的な焼き畑をしており、1カ所で2〜3年耕作しては別のところに火をいれて耕作するというのを繰り返します。このやり方だと最初の土地に戻ってくる10〜20年の間に地力が回復し、持続可能なやり方でした。しかし、人口圧などで、天水耕作に頼る面積を拡大する以外に収量を挙げることは難しくなり、結局、休閑期間を短縮し、土地養分が復元する前に、またそこを耕作してしまうということになります。よってだんだん土地が痩せてしまうのです。


 写真2は家畜の過剰放牧の様子を表したものです。サヘル地域は6月の頭から9月までに1年分の雨が全部降ってしまいます。それ以外の7ヶ月はほとんど雨が降りません。雨期が4ヶ月、乾期が7ヶ月であり、その乾期の間に植物が生育する以上のスピードで動物が食べてしまうのです。したがって植生はどんどん劣化していきます。

写真2 放し飼いにされた家畜は草だけでなく、
木の芽や葉も食べてしまう
写真2 過放牧


写真3 道端で売られている炭と薪。入り口の集中している都市周辺からドーナツ型に植生が失われていく
写真3 道ばたで売られる薪・炭

 薪炭材の伐採も砂漠化の重要な要素です。日本も昭和30年までは薪で煮炊きしていました。現地では石油などはないので、結局身の周りにある薪炭材に頼らざるを得ません。熱源は木しかない。わかっていても木を切らざるを得なく、深刻な状況にあります。静かではあるが、確実に破滅に向かって進んでいるという有様です。


 

写真4は左側は囲いをして動物が入れなくし、右は開放し自由に行き来できるようにしたものです。わずか2、3年で差がでてきます。
 最後に行きつくところはまったくの砂漠で、回復の余地はなく、条約でも対象にしていません。

写真4 家畜の行き来だけでこれだけの違いが生じる
写真4

 私たちは92年から現場でやっていますが、1)緑を減らさない。2)緑を増やす。3)生産基盤の拡充・整備という3つのテーマでチャドのプロジェクトをスタートしました。

「緑を減らさない」

 アフリカでは多くの地域が「三石カマド」と呼ばれるカマドを使っています。これは3つ石をならべ、上にかまをのっけるというもの。これは非常に簡単でどこでもでき、だんらんの場にもなりますし、虫よけや明かりにもなるという点ですぐれています。しかし、熱効率は低いので薪を消費します。そこで囲いを作って薪の無駄を防ぐようにしました。これが「改良カマド」です。

写真5 三石カマド 写真6
↑写真5 伝統的に行われている三石カマド。熱効率はよくない。 ↑写真6 粘土質の改良カマド(左)とドラム缶を利用した金属製のカマド(右)

 最初10の家族を抽出し、どのくらい薪を消費するかテストを行いました。その結果、1家族平均8〜10人で1000kg薪を使うことが分かりました。村のかみさんたちに声をかけて、粘土で炎が逃げないようなカマドを作りましたが、壊れやすいのでドラム缶の廃材を使いました。それをみんなの見ている前で火にかけたところ、伝統的な三石かまどはお湯が沸くのに20分かかり、改良かまどは10〜12分でした。薪の消費量も減り、1ヶ月で35%〜55%の薪の節約ができました。そこで、村に行っては、おかみさんたちや、村の若手リーダーに改良カマドを普及してきました。


「緑を増やす」

 「緑のサヘル」が活動していくにあたり、事前にいろいろなレベルの人たちに@一番困っているのはなにか、A一番やってもらいたいものは何かということについて調査をしました。
 回答としては、 
1.子供が病気になったときにかけこむ医療施設がない
2.食糧の安定的な確保。農業生産を行うための方策を取ってほしい
3.きれいな水をのみたい。井戸をほってくれ。
4.識字教育。おれたちも字を知りたい。
 −というものでした。
 日本から出てきた我々は、「植林を行いたい」ということ考えていたのに、残念ながら住民のサイドからでてきた植林のニーズは5〜6位でした。住民には、「昔は深い森に覆われていて、ゾウやライオンが住んでいたのが、過剰耕作、商品作物の栽培を強要されて森がなくなった。森が昔あった時の方が生活は豊かだったのに」という漠然とした考えはあるようなのです。しかし、彼らの伝統的な考え方は、雨や森は天が授けたもうたものだというものなので、人間が種から森をつくり、植林し保護していくということは夢にも思わなかったようです。


写真7
↑写真7 育苗用ビニールポットへの土詰め作業
→写真8 果樹接木に対する住民の関心は高い
写真8

 植林の方法としては、上の写真のようにビニールポットに土に肥料をまぜたものに種をまいています。乾期にも植物を鍛えるため水はやらないシステムでやりました。
 植えた後に家畜に食べられないようにゴザで覆ったり、日干し煉瓦で防御をします。こうしないと牛やヤギに食べられてしまうのです。
 地域のニーズに併せて、早成樹種や果樹を植える必要がありますが、本当は消滅しつつある地元の樹木を植えたいのでこの3種類を混ぜて植えました。
 果樹では接ぎ木の研修もしています。在来種のマンゴやオレンジに接ぎ木をすることにより、3〜4ヶ月ぐらい収穫の時期ができます。接ぎ木は非常に好評であり、接ぎ木したものをよその人が買って別の村で育てるということもありました。

写真9 ←写真9 アカシア・セネガルはマメ科の有用樹。樹液はアラビアゴムとなる
↓写真10 アカシア・セネガルの木

写真10

 アカシア・セネガルはマメ科でとげがあります。降水量300mm〜500mmの所に適します。根粒菌をもっているので、土地を肥やしてくれます。切手ののりに使うアラビアゴムがとれるのですが、これは化粧品・食品の乳化剤としても使われます。世界で一番消費されるのはアメリカと日本で、かなりの部分はスーダンから入ってきています。生態的にみても非常に適しているので、私たちは一生懸命これを植えることを奨励しています。
 アラビアゴムは現金収入につながるため、現地の人にとっても植えるインセンティブとなりますし、結果的には緑が復元していきます。畑の中に植えることで防風効果をももたらし、土地も肥やしてくれます。農業、林業、牧畜業3つの部門で土地を有効活用する、アグロフォレストリーの試みも進めています。

持続可能な農業、生活基盤の整備

 食糧生産の分野でも植林によって増やしていきます。ソルガムとミレットを主食にしているのを、野菜栽培も入れ、雨期の氾濫源を利用して稲作をやってみようということになりました。輪作、マメ科の導入で生産を上げます。


写真11
→写真11 モーターポンプを使った野菜栽培。菜園内にはさまざまな木が植えられている

 写真11はモーターポンプを使った野菜栽培で、アグロフォレストリーの一つの形ですが、樹木を植えることで林業と農作物のコンビネーションになります。収穫した後は家畜の群をいれて、その糞を肥料にします。焼き畑移動耕作ではなく、毎年使っていけるような畑に挑戦しています。まだ効果はわかりません。


写真12 写真12 住民によるアグロフォレストリーの一例。畑の中にアカシア・セネガルが植えられている。

 生活基盤の整備には井戸も必要です。チャド湖に近い、地表水がない地域では井戸を掘っても雨期になると崩れてしまうところもあります。こうした地域で得られる水は、硫化水素のにおいがしており、飲んでみると腐っています。
 住民から井戸をなんとかしてくれと要望があり、一般的には機械堀でポンプを設置するのですが、これですと壊れた時に修理ができません。そこで、昔からのバケツ方式でオープン井戸を掘りました。
 
 住民組織を強化することも重要です。何年かに一度は危機的な干ばつが襲ってくるのですが、個人では対応できないので農民組合に共同耕作、共同出荷を奨励しています。また女性組合を対象とした石鹸づくり、大豆栽培、豆乳の生産指導などもやっています。

写真13
↑写真13 ラテライト化した土壌の表面を三日月型に掘り返す ↑写真14 植生が定着する

 水食や風食で土の養分がとばされ、表面が固い幕を作ってしまい、雨が降っても水が浸透しないところがあります(ラテライト化)。
 水が水平移動してしまうのです。そういうところでは、地表を三日月型に掘り返すと(三日月工法、写真13)、雨が降ってたとき、流から流れてきた草の種などが定着して植生ができます(写真14)。
 もう一つの伝統的なやり方として、ラテライト化している土壌で乾期の前に穴を掘り(写真15)、家畜の糞を含めた有機質を入れて、雨期と同時に豆や穀物の種を蒔きます。すると、全く使われていない土地でも有機質を食べに、小動物が寄ってきて通気性が良くなり、植物根の作用で土壌化が進みます。
 ガリガリと引っ掻いたところをほっとくと(写真16)3年ほどでこうなります(写真17)。これも一つの伝統的なやり方です。このような伝統的な農法を活かし尊重しながら、砂漠化に取り組んでいくことが大切です。

→写真15 乾期の前に穴を掘り、家畜の糞等の有機質を入れる 写真15
写真16 ←写真16 地表面をがりがり引っ掻いて放置すると…

↓写真17 3年ほどでこうなる。 写真17
↓写真18 耕作地の境界線に防腐・防砂のため植えられたニーム(インドセンダン)
写真18
写真19
↑写真19 育苗センターで育てた苗木を植栽を希望する住民に配付する


世界砂漠化・干ばつ記念セミナー記録

砂漠化対処条約と日本の役割
砂漠化とは何か〜科学の目からみた砂漠化のメカニズム
現場からの報告〜チャド、ブルキナファソでの取り組み
現場からの報告〜エチオピア、ルワンダへの支援
パネルディスカッション
「砂漠化防止に日本はどのように貢献できるか」


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