ここでは、日本を取り巻く砂漠化の問題という観点で講演したいと思います。
砂漠化は気候変動や人間の活動を含む土地の様々な要因に起因する土地の劣化とされています。
砂漠化対処条約では、砂漠化の原因は、自然的要因(地球規模での気候変動、干ばつなど)と人為的影響(過放牧、過耕作、薪炭材の過剰採取、不適切な灌漑)の両方に起因するとしています。
数字で砂漠化の現状を見てみましょう。砂漠化の影響を受けている土地の面積は全陸地の4分の1であり、限られた地域の局所的な問題ではありません。影響を受けている人口は9億人で、人口の6分の1であり、地球規模の問題となっています。
被害地の多くでは、もともと雨が少ないということもありますが、過放牧、過耕作、薪炭材の採取、ということと、増加する人口に対応するための農業の集約化が進み、不適切な灌漑行われさらに砂漠化が増加しており、悪循環しています。
単純に言うと、砂漠化が起きると、食糧生産基盤へのダメージがおこり、貧困が加速する。すなわち、土地の能力をこえた耕作、放牧生活、薪炭材の過剰採取が、貧困の問題にも拍車をかけて、どんどん悪化していくのです。
砂漠化は単独の問題ではなく、生物多様性の喪失、気候変動問題といった地球環境問題との関連も深いのです。例えば気候変動による砂漠化問題の加速化、砂漠化の進展による気候変動へのフィードバックなども指摘されています。そういった地球環境問題同士の相互関係も最近認識されています。
砂漠化問題を国際的に解決しなくてはならないという認識自体は以前からありました。30年前にサヘル地域の大干ばつがあり、1977年国連砂漠化防止会議で砂漠化防止行動計画が採択されました。これらが多国間の国際協力のはじまりだったと言えます。
しかし、現実に砂漠化の防止が進んできたかというと、例えばアフリカでも80年代の深刻な干ばつが紛争の原因になったり、「環境難民」を生み出したりして、なかなか砂漠化の効果的な防止はできなかったのが現状です。
そういった中で、1992年、ブラジル・リオの地球サミットで砂漠化防止を目的とした条約づくりをしようということが合意されました。こうして1994年に採択された条約が砂漠化対処条約です。
砂漠化問題が当初なぜうまくいかなかったかというと、問題点としては
−−ということが挙げられます。
これらの問題に対して、砂漠化対処条約が完全な回答となったわけではありあせんが、いろいろな形で課題に答えるようになっています。例えば4に関しては、原則の中に住民や地域社会の参加の重要性を謳っていること、3に関しては、砂漠化の影響を受けている国は砂漠化防止国家行動計画を策定することが義務づけられていること、影響国はこの国家行動計画をどのように策定したか、どのように実施したか、また支援する立場にある先進国はどういう取り組みをしたかということを、それぞれ締約国会議に報告する、つまりアカウンタビリティの義務が与えられいることなどです。科学技術面では科学技術委員会を置くということも決められています。
さて、我が国は、条約交渉に積極的に参加し、その後は昨年9月に条約を受諾し、昨年12月に正式に締約国になりました。
取り組みとしては、ODAを通じた技術協力、資金協力、調査研究の分野では乾燥地における農業、水利用をどうするかがあり、その点では農林水産省の取り組みもあります。
条約上の義務として国ごとに報告書を出すことになっていますが、今回我が国もはじめてこの報告書を作成することになり、原案を環境庁のホームページ等を通じて公表しています。(http://www.eic.or.jp/kisha/199905/59476.html)
砂漠化問題が社会・経済的な幅広い問題と関連しているということもありますが、砂漠化問題には対処の決め手はありません。アフリカへの食糧の緊急援助に始まり、開発と女性の役割、農業開発、人口増加の抑制問題といった幅広い問題への解決策を組みわせることが砂漠化問題に対処する方法だと考えています。
今後、我々がどのように取り組んでいくかとしては、直接的支援として、
・影響を受けている国による行動計画の策定・実施の支援
・影響を受けている国の地域住民参加型対策事業の支援
・影響を受けている国の砂漠化防止能力形成の支援
が挙げられ、間接的支援として
・条約に定められた科学技術委員会の支援
・調査研究の促進及び体制の整備
が挙げられます。
特にそれぞれの国において砂漠化に対処するプライオリティを上げること、またこれは条約上の義務でもあるが行動計画の策定・実施の支援が重要であり、また、それぞれの国の対処能力形成の支援、住民参加型の対策事業の支援が必要ではないかと思われます。