特集/これからの都市のみどりについて考えるこれからの都市のみどりに何が求められるのか~2024 年ランドスケープコンサルタンツ協会賞 受賞事例から考える

2024年12月16日グローバルネット2024年12月号

一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会 事務局長
狩谷 達之(かりや たつゆき)

 今年5月、「都市緑地法等の一部を改正する法律」(以下、改正法)が成立しました。改正には量・質両面での緑地の確保のために、地方公共団体の財政的制約やノウハウの不足を補い、民間投資を呼び込むための対応が盛り込まれています。
 本特集では、改正法の概要及びポイントについて解説いただき、都市緑地の現状と課題、さらに都市にみどりを戻すためのアイデアや事例なども紹介いただきながら、これからの都市緑地の在り方や、都市のみどりに求められることについて考えます。

 

CLAとCLA賞の概要

一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会(略称CLA)は、ランドスケープ分野のプロフェッショナルが所属する日本で唯一の職能団体であり、1964年の発足当初より、みどり豊かな環境文化の創造と活力ある地域社会の実現に貢献しています。

ランドスケープコンサルタンツ協会賞(CLA賞)は、1985年の協会法人化を記念して、会員企業の優れた作品や優秀な業務を顕彰し、広く社会に紹介することを目的として設けられました。応募に際しては、実施した業務を取りまとめ、その成果や品質を再確認し、今後の業務への展開という技術研さんも期待され、これまで700点に迫る応募作品から350点弱が受賞しています。

一方、CLA賞は単に「作品」を評価するだけではなく、評価にはコンサルタントとして自らの提案がクライアントやユーザーに理解され形となり、あるいは新聞紙面や各種賞の受賞など第三者からの評価といった社会に対してわかりやすく説明する「業務遂行能力」も大きな部分を占めています。作品の社会的意義や技術的先駆性などを言葉で表現するのはもちろんのこと、発注または委託者から託された課題をどのように把握し、課題解決のためにどのように提案を導いたのか。その内容を限られた資料で適切に表現して初めて、受賞に至ります。

晴れて受賞に至った作品については、協会の機関誌に担当者のプロフィールと共に掲載し、官公庁をはじめとして広く関係機関や関連大学等に配布している他、学会等の集まりに際してもパネル発表等を行っています。以下に、今年度の受賞作品を紹介します。

2024年受賞作の概要

2024年度に設計部門で最優秀賞を受賞した「3rd MINAMI AOYAMA」は、都心の商業・業務地区におけるビル1棟という小規模な開発に際して、正面の表通り側には大きく開かれ人々を導き入れるための緑地が奥へと続き、変化に富んだ大小さまざまな緑地が人々をいざない、裏の小路へとつながる構成となっており、まちなかに開かれた広場が都心のオアシスとなっています(写真)。

優秀賞を受賞した「千葉大学松戸アカデミック・リンク」は、大学キャンパス内に新設された校舎前の緩やかな芝生斜面の整備ですが、大きくはキャンパス内に展開する各種見本庭園の内のイタリア式露壇庭園の一角を成し、日常的には学生の憩いの場、イベント時には観客席、そして見える化されたレインガーデンを学生の実習場として利用するという内容です。

また、調査・計画部門で優秀賞を受賞した「青森県広域緑地計画:グリーンインフラの考え方を導入した広域計画」は、今年度の法改正により位置付けられた広域緑地計画の規範と成り得ると評価され、県内を流れる流域に沿ってエリア区分をし、それぞれのエリア内の緑地について、流域治水・観光振興・生物多様性という視点から評価を行って重要な緑地を抽出しています。また、ここで得られたGISデータは市町村計画にも生かせるよう台帳化されています。

特別賞は例年、時代のニーズに応えると共に、その成果が今後の潮流を導くような社会的意義や技術的先駆性等から評価・選出されています。2024年度は「第40回全国都市緑化仙台フェア 未来の杜せんだい2023」「国指定名勝 伝法院庭園の修復」「小笠原諸島公共事業における環境配慮マニュアル」「大都市名古屋における『まちなか生物多様性緑化ガイドライン』」の4作品が選出されました。

さらに、現在の社会のニーズに応え、これからの発展が期待されるという観点から「農村の暮らしと熊本地震の記憶の継承 布田川断層帯谷川地区設計」「新しい市民参加手法による魅力あふれる公園づくり構想」の2作品が奨励賞として選出されました。

2024年CLA賞最優秀賞を受賞した「3rd MINAMI AOYAMA 」

グリーンインフラの強化

こうしたCLA賞受賞事例を見てみますと、今後の都市のみどりに求められる4つの大きな課題が浮かび上がってきます。その第一はグリーンインフラの強化といえます。そもそも、ランドスケープは、さまざまな人間の活動要求に対して、対象地域の自然的条件を生かしつつ、両者の要求と条件を調和させる行為と理解できます。

すなわち、みどりが持つ多面的な機能を適切に発揮できるように整える技術がランドスケープであり、近年、急速に取り上げられている「グリーンインフラの整備」についても、単に雨水流出遅延機能の拡充という一側面からだけでなく、生物多様性の確保や社会や市民のウェルビーイング等を含めた多面的な検討を進める必要があり、適切なランドスケープ技術の適用が求められているといえます。

生物多様性への対応

第二は、ネイチャーポジティブやNbSなどの動きを踏まえ、生物多様性確保への取り組みの重要性がますます高まっており、これへの対応が求められています。ランドスケープ分野では、自然地域における自然環境の保護・保全はもとより、農山村地域や都市地域においても「エコロジカルネットワーク」という考え方を取りまとめ、それぞれの地域におけるみどりに、生物多様性確保のための重要な役割を期待しています。地域に残されたみどりをいかに活用していくか、また、新たに創出するみどりにおいても生物多様性に貢献できる内容としていくか、といった対応が求められています。

ウェルビーイングへの対応

多くの市民が、コロナ禍を経験したことにより、身の回りのみどりが、身体の健康とともに健全な心理状態の維持に重要な役割を果たすことに気が付きました。世界では既に、都市開発の方向性がPark CityからCity in the Parkへと移っており、英国のロンドンはNational Park City(国立公園都市)を宣言しています。このように第三の課題は、都市のウェルビーイングを維持するために、いかにみどりを活用するかです。

世界保健機構(WHO)は、コロナ以前より都市におけるみどりの重要性を大いにPRしており、市民がみどりと触れることにより、身体と精神の健康に役立つとしています。そして、社会や市民のウェルビーイングのためにはみどりが必要不可欠としています。

みどり空間の社会化

第四は、先のウェルビーイングとも重なる部分はありますが、身近なみどりの創造や維持のためには、市民の協力が不可欠ということです。あるいは、身近なみどりがコミュニティーの醸成に役立つ、ともいえます。

みどりが持つ機能を最大限に発揮させるためには、適切な維持管理が必要で、そのためには市民の参加が不可欠であり、これによりコミュニティーが生まれます。これからの都市のみどりには、単に鑑賞や利用するだけでなく、その維持や管理運営に市民自らが参加できるような仕掛けや運用が求められています。

おわりに

都市のみどりは、時代の変遷とともに、さまざまな市民のニーズに応えるため、その容体も大きく変わってきました。しかし、みどりが持つ根源的な人間への影響は決して変わるものではなく、また、生き物である人間のみどりに対する希求も変わっていません。こうした事実を正しく理解したランドスケープ技術の発揮が、今後ともますます重要なものとなっていくでしょう。

タグ: