特集/これからの都市のみどりについて考えるこれからの都市緑地の在り方

2024年12月16日グローバルネット2024年12月号

慶應義塾大学環境情報学部 学部長・教授
一ノ瀬 友博(いちのせ ともひろ)

 今年5月、「都市緑地法等の一部を改正する法律」(以下、改正法)が成立しました。改正には量・質両面での緑地の確保のために、地方公共団体の財政的制約やノウハウの不足を補い、民間投資を呼び込むための対応が盛り込まれています。
 本特集では、改正法の概要及びポイントについて解説いただき、都市緑地の現状と課題、さらに都市にみどりを戻すためのアイデアや事例なども紹介いただきながら、これからの都市緑地の在り方や、都市のみどりに求められることについて考えます。

 

都市緑地法の改正

2024年5月に「都市緑地法等の一部を改正する法律」が成立した。この改正には、大きく三つのポイントがある。一つ目は、国主導による戦略的な都市緑地の確保である。国土交通大臣が都市緑地保全の基本方針を策定し、都道府県が緑地保全に関する広域計画を策定するとしている。二つ目は、貴重な都市緑地の積極的な保全・更新である。これは特別緑地保全地区等を活用した緑地の保全・更新を強化しようとするものである。最後は、緑と調和した都市環境整備への民間投資の呼び込みである。民間事業者等の緑地確保や脱炭素化に資する都市開発事業に対する認定制度を創設するとしている。今回の改正では、KPIを明示していることも特徴である。自治体による特別緑地保全地区の指定面積を2030年までに1,000ha増加させるとしている。2021年度時点で6,671haであるので、6年間で15%増加させることになる。民間事業者等による緑地確保の認定件数は、2030年度までに300件としている。

気候変動

この改正の背景として、気候変動、生物多様性損失という地球規模の環境問題への対応が挙げられる。気候変動対策は大きく緩和策と適応策に分けられる。温室効果ガスの削減や吸収固定が緩和策である。三つ目のポイントに入れられているのが脱炭素化である。適応策は、気候変動がもたらす影響に対応するものであり、例えば極端な気象現象による災害リスクを低減するといったことが含まれる。日本においては気候変動により降水量が増加するとともに、集中豪雨の頻度が上昇するとされている。国土交通省ではその対策として流域治水に取り組んでいるが、都市緑地も雨水の貯留浸透機能を持ち、大きな役割を担い得る。いわゆるグリーンインフラとしての機能である。市区町村の緑の基本計画においてもグリーンインフラの防災・減災機能を位置付けるようになってきているが、多くの河川は市区町村の境界を越えて流域が形成されており、流域単位での緑の基本計画の連携の必要性も指摘されてきた。都道府県による広域計画においてはこのような課題に対応することが可能になる。

生物多様性

2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議において、昆明・モントリオール枠組が採択され、30by30をはじめとした2030年までの目標が示された。30by30とは、2030年までにすべての国々において陸域と海域の30%を自然保護のために確保しようというものである。日本の2024年時点の自然保護地は、陸域が20.5%、海域が13.3%である。国際自然保護連合(IUCN)は、政府や自治体が法的な根拠を持って保護する自然保護地のみならず、民間団体が維持管理する土地のうち自然保護が目的ではないものの結果として自然保護に貢献している場所などをOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)として認定する基準を提案した。このOECMも目標の30%に算入できる。環境省は日本型のOECMとして自然共生サイトという仕組みをつくり2023年度に184サイトが認定された。日本は陸域で10%近く、海域で17%もの積み増しを求められており、都市緑地において生物多様性保全への貢献がますます求められている。

魅力ある持続可能な都市

経済がグローバル化する中で、都市間の競争は国境を越えてなされるようになってきており、都市の魅力を高める要素として緑地の役割がこれまで以上に大きくなってきている。しかしながら、日本は諸外国と比べ依然として都市緑地が十分に確保されているとはいえず、緑に覆われていた私有地は減少傾向にある。一方、世界的にグリーンインフラが注目され、災害など不測の事態に対するレジリエンスを高め、自然の恵みを享受できる都市への転換が進みつつある。さらに2019年末から世界を襲った新型コロナウィルス感染症のパンデミックは15分都市(買い物や仕事、教育、医療、娯楽といった生活に必要なものやサービスに自宅から徒歩や自転車で15分以内にアクセスできる街)をはじめ持続可能な都市の在り方について世界的な議論を巻き起こし、住民と働く人々のウェルビーイング向上がますます求められているようになった。地球規模で人やものが動き、魅力があり持続的な都市に人々が集まり投資も集中する。日本でも近年の再開発では、敷地面積に対して5割以上の緑地を確保したり、都心部に里山や水田を再現するなど、先進的な取り組みが数多く見られるようになってきた。都市緑地の認証制度としては、これまでもSEGESやABINCといった民間団体による認証が存在してきたが、国土交通大臣が認証する制度を設立し、国がお墨付きを与えることにより投資を促し、民間事業者の緑地整備のインセンティブを高めようとするのが三つ目のポイントである。

自然共生サイトと国土交通省による認定制度の議論

自然共生サイトは2022年度に試験運用がなされ、2023年度から本格的に実施された。環境省は、2023年度中に100ヵ所の認定を見込んでいたが、結果的にはその倍近くの申請があった。生物多様性保全に特化した土地の認証であったが、民間事業者の関心の高さを表すことになった。また、都市域に位置する小規模な緑地も数多く申請され、認定された。この環境省による自然共生サイトを追いかけるように2023年10月に民間投資による良質な都市緑地の確保に向けた評価の基準に関する有識者会議(座長柳井重人千葉大学教授)が立ち上げられ、2024年9月までに有識者会議の議論が終了し、11月には優良緑地確保計画認定制度が公表された。1年間に5回の会議が開催され、並行して認定の試行も実施するという急展開であった。

優良緑地確保計画認定制度の概要と狙い

優良緑地確保計画認定制度の最も重要な点は国土交通大臣に認定されることである。次に、評価は気候変動対策、生物多様性の確保、ウェルビーイングの向上という三つの柱で行われることになっていて、地球規模の環境問題への対応を求めつつ、近年急速に関心が高まっているウェルビーイングを取り込んだ。これらを魅力ある都市を形作る基盤とした。加えて、計画段階の事業を対象にしたこと、一体として行われる事業の全体の区域を対象とすること、緑地間の距離が250m以内であれば異なる事業における複数の緑地をまとめて対象とすることなどが大きな特徴である。計画段階の事業を対象とすることは、民間事業者にとってのインセンティブを高めようとするものであり、複数の緑地を対象とすることは街区レベルでの都市緑地の充実を促す意図である。対象となる区域の緑地面積は1,000m2以上で、緑地割合は10%と定められた。この緑地面積と緑地率については有識者会議で繰り返し熱心な議論がなされた。認定のハードルを上げすぎれば民間事業者に全く使われてない制度になってしまう。認証は3つのランクに分けてなされることになり、最高ランクのトリプルスターを得るためには緑地割合30%が求められることになった。

おわりに

11月初めに優良緑地確保計画認定制度の募集が開始されて筆者が驚いたのは、申請手数料が120万円、5年ごとの更新手数料が40万円に設定されたことだった。これは国が直轄で行う認証制度で民間企業にとってのインセンティブも大きいと考えられてのことであると思うが、この制度自体は大都市以外の都市も対象としている。空洞化が課題となっている地方都市における活用を考えると高額すぎるかもしれない。この制度については、まさに始まったばかりであるので、今後の申請件数、認定された事業、認定件数など、運用状況を注視していきたい。

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