環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページスポーツの影響力を実感、気候変動対策の発信を期待
2024年12月16日グローバルネット2024年12月号
日刊工業新聞社
松木 喬(まつき たかし)
趣味について書くことをお許しください。「冒頭だけでしょ」と思わないでください。話の“つかみ”にしては長いです。
11月2日、サッカー・Jリーグ杯決勝を観戦するため国立競技場に行った。もちろん「マイ・チーム」であるアルビレックス新潟の応援に。初優勝をかけた大一番の相手は、強豪の名古屋グランパス。
荒天を忘れさせる熱戦だった。2-1と名古屋のリードで迎えた終了間際、新潟が同点に追い付いた瞬間のスタジアムは圧巻だった。大挙してやって来た新潟サポーターが総立ちとなり、湧き上がった大歓声は体を揺らすぐらいの振動。声の「圧」を体感した。そしてスタンドを埋めた同郷のファンに一体感が生まれ、より応援に熱が入った。
故郷であること以外にも感情移入する理由がある。名古屋は選手の合計年俸が28億円、対する新潟は8億円(ともに23年度)。1人にすると3倍も給料が違う。同じプロでも資金力の差が大きい。
しかも新潟は、J3(3部)やJ2(2部)からはい上がってきた選手ばかり。常にJ1(1部)で活躍する名古屋の選手と比べると個の力で劣る。降雪があると練習ができないなど抱えるハンデが多く、どうしても応援したくなる。
決勝では逆境をはね返すように強敵に食い下がり、延長でも決着が付かずにPK戦に突入。しかし、新潟は1人がシュートを外して敗戦。目の前で初戴冠が手からすり抜けた。失敗した選手はプロを目指して一昨年まで社会人リーグに所属していた。たどり着いた最高峰の舞台で一人だけの失敗。泣き崩れる姿は残酷だった。
試合後、サポーターからの寄付が新潟のクラブ後援会に殺到している。しかも他チームのファンからも寄付が寄せられているという。格上に挑んだ姿勢が感動を生んだのだと思う。国立競技場に6万人を動員し、人々に行動を起こさせるスポーツの影響力を再認識した。
決勝の大舞台を再エネ電気で運営、気づかず
それだけに残念に思うことがある。
数日後、Jリーグからアンケート協力のメールが届いた。観戦した理由の選択肢に「Jリーグが気候アクションをしているから」があった。アクションについて知っていたが、観戦理由ではなかったのでチェックしなかった。
メールをきっかけに調べると、決勝戦は再生可能エネルギーの電気で運営していた。それなのに、会場ではPRしていなかったと思う※。6万人の観客に「このゲームは再エネを使っています」とアナウンスすれば良かったのに。「みなさんも使いましょう」と呼びかけても良かったと思う。
※いくらゲームに夢中だったとはいえ、普段から再エネを取材しているのでPRがあれば気付いたと思う。
他にも残念に思えることがある。気候アクションをやっていながら、使い捨て容器で飲み物や食べ物が提供されていた。クラブによっては試合会場でリユースカップを用意している。決勝戦もリユースカップにしてほしかった。
また、決勝戦の会場では小型家電と古着の回収、フードドライブもしていた。私の情報収集が足りず、この事も知らなかった。協力者には返礼品として環境省が製作したクリアファイルをプレゼントしたという。
ここで「なぜ、クリアファイル?」と突っ込みたくなる。小型家電リサイクルを啓発するデザインというが、職場や家でクリアファイルは余りがち。そして、素材が何だったのか気になる。紙か再生材であってほしい。
行動変容につながる発信
Jリーグは良い取り組みをしている。スポーツの影響力を使って気候変動対策を発信してほしい。サッカーファンに浸透すると、Jリーグ60クラブを支えるスポンサー企業にもプレッシャーになる。各社が地域で発信すれば、サッカーに興味がない人が行動を変えるきっかけになるのでは。
Jリーグの発信と来年のマイ・チームの優勝を期待したい。そして私自身も発信を心がけたい。