特集/IPCCシンポジウム報告 IPCC第7次評価報告書に向けて~暑すぎる地球で暮らす私たちにできること~<基調講演4>IPCC AR7 WGⅢについて

2024年11月20日グローバルネット2024年11月号

IPCC AR7 WGⅢ共同議長、マレーシア国民大学 教授
Joy Jacqueline Pereiraさん

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では2023年7月に第7次評価サイクル(AR7)を率いる議長団選挙が行われ、AR7が開始されました。
 本特集では、9月12日にAR7の議長団を招き、第6次評価サイクル(AR6)報告書の国内執筆者も交え、東京都内の会場で対面方式・オンライン方式併用で開催されたIPCCシンポジウム『IPCC第7次評価報告書に向けて~暑すぎる地球で暮らす私たちにできること~』(主催:環境省、文部科学省、経済産業省、気象庁)における、基調講演とパネルディスカッションの概要を編集部でまとめ、報告します。なお、当日の発表資料はhttps://www.gef.or.jp/news/event/240912ipccsympo/をご覧ください。

 

AR7 WGⅢの目標 ~緩和策のより具体的な評価

第3作業部会(WGⅢ)では気候変動の緩和に焦点を当て、温室効果ガスの排出削減方法と大気中からの除去方法の評価を行います。

AR6では、さまざまな長期目標や社会的影響、エネルギー、農業・林業及びその他の土地利用(AFOLU)、都市システム、建築物、国と地方の政策、国際協力といったセクター横断的な視点、さらに投資とファイナンスとイノベーション、持続可能な開発の文脈でいかに移行を加速させるかといったテーマの章まで、合計17の章を設けました。

政策決定者向け要約の図(SPM.7)では、すべてのセクターで利用可能な緩和オプションと、関連するコスト、2030年の削減ポテンシャルを示しました。この数字を統合報告書に持っていき、WGⅡ(適応)のメンバーと、適応策と緩和策の実現可能性と相乗効果を検討することができました。また、AR6では、持続可能な開発との相乗効果やトレードオフの関係を有する、複数のセクターにおける緩和オプションの評価を行いました。AR7では、緩和と適応の具体的な相乗効果が示されることを期待しています。

緩和に対応した政策や法律は、AR5以前のサイクルから一貫して拡大しています。太陽光、風力、都市システムの電化、都市グリーンインフラ、エネルギー効率、需要側のマネジメントなど、既にさまざまな緩和策がありますが、私たちがもっと深く知りたいのは、それらが技術的に実行可能なのか、費用対効果はどうなのか、一般市民の支持はどうかということです。

排出削減目標と経路の評価も予定

また、AR6以降、国別の排出削減目標(NDC)がどれだけ野心的なものになったか、そして、現在どのようなギャップがあるのか、また、あらゆるセクターにおける気候目標を達成するために必要な資金の流れについても評価したいと思っています。また、短期のうちに1.5℃に到達するシナリオの最良推定値を求め、特に現在大きな問題となっている衡平性の観点から、シナリオやモデル排出経路を改善したいと思います。

「CO2排出量のネットゼロ」という点についても、より詳しく明らかにしたいところです。特に、どの程度の排出削減で温暖化を1.5℃または2℃に抑えることができるのか、また、排出削減対策を伴わない既存の化石燃料インフラからのCO2排出量の予測に関しても探っていきます。

今、私たちは、地球温暖化を抑制するためにモデル化された世界全体の経路が、迅速かつ大幅に、そしてほとんどの場合、即時の温室効果ガスの削減を必要とすることを知っています。

AR7で求められる行動志向の研究

また、AR7における包摂性と多様性を高めると同時に、主要な研究機関と連携して研究や能力開発を行うことも必要です。今年9月には、クアラルンプールを拠点とするANCST(Asian Network on Climate Science and Technology)と、神戸を拠点とするアジア太平洋地球変動研究ネットワークと協力して、アジア地域から60人以上の科学者を集め、「気候変動と都市に関する特別報告書」をサポートし、都市に関する知識のギャップを解決するための会議を開きました。そこで最も強く呼びかけられたのが、行動志向の研究でした。

研究機関や大学が実務を行う機関と協力し、実用的な解決策やイノベーションを査読付きで発表できるようにすることが強く求められました。こうした研究が、この「行動の10年」において必要になります。

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