環境条約シリーズ 392世界遺産・佐渡金山 影の側面の展示

2024年11月20日グローバルネット2024年11月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

世界文化遺産に登録された佐渡金山(本誌24年10月)は21年12月末に国内推薦候補に選ばれたが、韓国は戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられたとして撤回を求めた。その背景には、同じ理由で韓国が反対した長崎市の端島炭鉱(明治日本の産業革命遺産)が15年に登録されたこと、その際の勧告が「歴史の全貌」が分かる説明を日本に求めたこと、日本は適切な対応を約束したが差別はなかったとの展示物も掲げたこと、世界遺産委員会が勧告に沿った対応を再三求め、21年7月には改めて朝鮮半島からの意思に反した連行・労働およびその犠牲者に関する説明を求める決定を採択したことがある。

そのため日本政府は推薦見送りを検討したが、与党保守派の意向を受けて22年1月末に推薦を決め、2月にユネスコに推薦書を提出した。韓国の反対の姿勢は変わらなかったが、両国間の協議も始められた。

専門諮問機関・イコモスは、23年8月の現地調査に基づいて24年6月に「情報照会」勧告をまとめ、時代区分に沿った区域選定、緩衝地帯の拡張、また、端島炭鉱と同様に「全体の歴史」の説明を求めた。それに応じて、明治以降の区域の削除、緩衝地帯の拡張などの提案修正が行われ、また、日韓政府は協議を続けて後述のような「全体の歴史」の説明で合意した。

24年7月の世界遺産委員会の登録決定において、佐渡金山は、世界で採鉱等の機械化が進んだ時代に、高度な手工業による採鉱と製錬技術が継続されており、基準(iv)に該当すると評価された。なお、日本の提案書には、基準(iii)にも該当すること、「世界最大級」の産出量だったことが記されていたが、どちらも登録の評価根拠には含まれなかった。また、追記で、相川鶴子区域の保護、景観保全、地下保存のための森林管理指針の策定、来訪者の管理、前述の「全体の歴史」の説明などが勧告された。その登録決定の翌日に現地の相川郷土博物館は、金山労働者は過酷な環境に置かれ、朝鮮半島出身者は危険な坑内作業に従事する割合が内地出身者よりも高かった状況などを展示した。

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