21世紀の新環境政策論 人間と地球のための持続可能な経済とは第68回 営農型太陽光発電の課題と可能性
2024年11月20日グローバルネット2024年11月号
千葉大学教授
倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)
脱炭素スマート農地研究プロジェクト
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農地の上に太陽光パネルを置いて、発電と営農を両立させようとするものです。2013年に運転開始した千葉県市原市の上総鶴舞ソーラーシェアリングが最初の設備とされています。
本連載の第59回(2023年5月)において「食料生産システムの脱炭素を考える」という文章を掲載しました。その中で私が研究代表者となって2022年10月から「脱炭素スマート農地研究プロジェクト」を開始したことに触れています。これは、科学技術振興機構(JST)の社会技術研究開発センター(RISTEX)の「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」(Solve for SDGs)のソリューション創出フェーズとして採択されたものです。今回は、このプロジェクトの中間報告になります。
このプロジェクトでは、将来の食糧生産地域の脱炭素化を営農型太陽光発電による電力を中心として実現するとともに、スマート農業技術を適用することによって、若年層の新規就農も促進しようとするものです。
プロジェクト協働実施者の馬上丈司氏(千葉エコ・エネルギー株式会社)は、畑作中心の営農型太陽光発電設備を複数運営しています。また、2024年3月に、千葉市内に稲作の営農型太陽光発電設備を新設し、9月に稲刈りを終えたところになります(写真①、②)。

写真① 収穫直前の稲作ソーラーシェアリング設備

写真② 千葉市大木戸アグリ・エナジー1 号機での作業風景
営農型太陽光発電を巡る課題
営農型太陽光発電設備を設置するためには、設備の架台にあたる部分について、農地転用許可を得ることが必要となります。
農地転用許可手続きの窓口になるのが市町村の農業委員会です。プロジェクトでは、全国の農業委員会に対して営農型太陽光発電に関する調査を実施しました。私と馬上氏は、同様の調査を2018年にも実施しており、その調査の5年後の状況を把握する目的です。
営農型太陽光発電の年度別許可件数は、図のとおりでした。なお、2023年度の数字は年度途中の数字となります。このうち、2022年度に許可された案件について、作付け品目を聞いたところ、実に3分の1がサカキ類を作付けしていました。サカキは、神社のおはらいに使うもので食料ではありません。サカキ類の施設の遮光率(農地面積に占める太陽光パネル面積)の平均は70.1%であり、日陰でも育てることができる品種です。優良農地に太陽光発電を置き、発電量を上げるために、遮光率が高くても育成できる品種を選んで営農型太陽光発電を設置しようとする発電業者が全国に広がっている状況です。
このため、市町村農業委員会の営農型太陽光発電に対するイメージは良くありません。太陽光パネルの下で十分に営農ができないと考える委員会が半分を超えています(表)。わざわざ農地の上で太陽光発電を行わなくてもいいと考える委員会も4割以上あります。
営農と両立する営農型太陽光発電の可能性
このプロジェクトで新設した稲作の営農型太陽光発電設備は遮光率が27%になります。なお、農業委員会アンケートによると、2022年度に許可された稲作の営農型太陽光発電の遮光率平均は38.2%でした。
詳細はプロジェクトメンバーが論文にまとめると思いますが、この設備の中と外で米の収量を比較したところ、統計的に有意なほど収量が減少していないことが確認されています。一つの穂あたりの籾の数と、米の粒の重さは設備の下の方が統計的に有意なほど多いことも確認できています。ただ、設備の下の方が穂の数が少なく、全体として収量はあまり変わらない結果となりました。なお、設備の下の方が穂の高さが高く、風に倒れやすくなるという結果も確認できています。
また、畑作の設備においても、サツマイモの生育状況をモニタリングしています。今のところ、遮光率33%の設備の内外で、最大茎長、最大茎長の分枝数、最大茎長の節数、最大葉柄長、葉柄を含めた葉の重さ、茎の重さ、地下部重、塊根数、塊根の重さというすべての項目において、有意な差が出ていない状況です。
このように本プロジェクトにおいては、適切な遮光率を選んで設備を設計すれば、営農と発電を両立することができることをデータで示すことができそうです。
特に、稲作の設備において、一つの穂あたりの籾の数と、米の粒の重さは設備の下の方が統計的に有意なほど多かったという事実は、太陽光パネルで日陰をつくることが、地球温暖化の進行による高温障害への対策にもなることを示すものです。温暖化の適応策として、営農型太陽光発電が位置付けられれば、農業委員会の見方も大きく変わるのではないでしょうか。
健全な営農型太陽光発電の基準
発電目的で営農がおろそかにされているのではないかという、農業委員会における根強い不信感を払拭するためにも、その土地の農業経営に貢献しない案件を排除していくために、何らかの形で「健全な営農型太陽光発電」の基準を示すべき段階にきていると考えます。
私が考える基準は、以下の3項目です。
第一に、その土地で作付けされてきた品目を選定することです。遮光率を上げて発電量を確保するために、日陰でも育つ品種を持ち込んで、優良な農地で太陽光発電を始めることは抑制しなければいけません。
第二に、パネル下に光が行き渡るように、藤棚式もしくはそれに準ずる方式でパネルを設置していることです。藤棚式で設置すれば、風が抜けるために、台風時にも巻き上がらないというメリットがあります。
第三に、売電による収益を地域の農業経営の持続可能性の確保に寄与するよう、地域に還元していることです。水利ポンプ用の電力など地域全体で使用する電力を賄ったり、売電収入を地域に還元したりして、地域の農業に貢献する設備であるべきです。
このような基準に合致する案件を政策的に推進するように、国は働きかけなければならないと考えます。