フロント/話題と人木村 洋一さん(トキワ精機株式会社 代表取締役社長)
2024年11月20日グローバルネット2024年11月号
町工場からものづくりを通して小さな循環へ
町工場が集まる東京都大田区で、1932年に創業したトキワ精機株式会社。20年以上前に開発した油圧配管用の部品「まるみ君」が昨年度、エネルギーおよび環境に関する優れた技術開発や実績を表彰する「岩谷直治記念賞」を受賞した。LCA(ライフサイクルアセスメント)評価で従来の工法よりCO2を21%削減していることも明らかになり、環境負荷の低減効果が付加価値として評価され、注目が集まっている。
木村さんは同社の4代目社長。「まるみ君」は元々取引先からの要望に応えて製造コスト削減のために開発した製品で、従来は成形された金属を取り寄せ、ドリルで穴を開けていたが、パイプを曲げる方法に変更。穴開け作業によるごみがなくなり、電力消費も抑えられ、さらに工場内で素材の生産が可能になり輸送面の効率も良くなったことから「エコノミーを追求したらエコロジーにつながった」という。
木村さんはテレビで大量廃棄の問題などを見聞きし、物を作って捨て続けることで成り立つ経済にかねてから疑問を持っていた。そこで、「まるみ君」の開発過程で学んだ、地域内で調達・製造などを行う「小さな循環」や「ごみ問題の解決は減らすこと」という考え方を実現しようと、使い捨てごみ削減のため繰り返し使えるリユースカップの洗浄機「まわるくん」を地域の仲間と開発し、近隣のイベントで使用・貸し出ししている。手でハンドルを回すとスポンジが回転してカップの汚れを落とす工程を喜ぶ子どもたちの姿を見ると、「自分も楽しくなる」と目尻を下げる。現在は乾燥機能を追加した、さらにコンパクトな洗浄機「となりのまわるくん」の開発にも取り組み始めた。
ものづくりは、自然界に戻す方法を考えることがスタートで、「今あるものをどれだけ生かしきるかが大事」と木村さん。「人間は循環する自然の一部。命もものもつなぐことが大切で、その役割を果たしたい」と言う。環境に優しいお店が並ぶ「エコストリート」、新しい循環型社会のモデルを目指す「エコ村」…木村さんのノートには、未来の環境のためのアイデアがびっしりと書き込まれている。町工場のネットワークから生まれる「小さな循環」が、今後も楽しみだ。(海)