マダガスカル・バニラで挑戦!~アグロフォレストリーでつなぐ日本とアフリカ第5回 七輪でプリン!!
2024年10月17日グローバルネット2024年10月号
合同会社Co・En Corporation 代表
武末 克久(たけすえ かつひさ)
「おい見ろよ、Katsu(僕のこと)がまた変なものを作ってるぞ。今度は何だ?」という静かな好奇心に満ちた冷たい視線を感じながら、七輪の火を起こして牛乳を温めました。数日前には、バニラのサプライヤーである協同組合の皆にたこ焼きを振る舞いました。日本から持参したたこ焼きプレートを七輪にかけて作ったんです。タコは市場で見つけることができなかったので、代わりに干しエビを入れました。小麦粉は干し魚でちゃんとだしを取って溶きましたよ。最初はけげんな顔をして遠巻きに見ていた人たちも、勇気のある最初の一人が一口食べて「おいしい!」と言うとわらわらと集まってきて、まずまず好評でした。そして今回は、プリンに挑戦したというわけです。
●バニラを食べないバニラ生産者
マダガスカルの一般的な食事では、実はバニラはほとんど使われません。もちろん高級レストランやカフェでは使われています。それこそたっぷりとバニラを使った、とびっきりのバニラアイスクリームやクリームブリュレを楽しめます。でもそれ以外のところではラム酒に漬けるとか、そのくらいでしか使われていません。シナモンなど他の香辛料も同様です。バニラをはじめとした香辛料は植民地時代に外から導入されたもので、それ以降もマダガスカルの文化には溶け込んでいないようです。
よそ者の大きなお世話かもしれませんが、そういう状況を寂しく感じます。丹精込めて作った最高のバニラを自分たちが楽しめないなんて…。そういった気持ちもあり、マダガスカルを訪問する際は、クッキーやブランデーなど彼らのバニラを使った商品を日本からお土産に持って行くようにしています。
ちなみに2023年7月に訪問した際は、新しく製品開発したバニラシロップを持って行きました。そして、会う人会う人に味見をしてもらいました。表現の仕方は人それぞれでしたが、そのおいしさに感動していることは伝わってきました。中には「どうやって作るんだ?」と聞いてくる人もいました。
こんな感じで現地の人たちが喜んでくれるのはとてもうれしいのですが、実はもの足らなさも感じます。もっと日頃からバニラを楽しんでほしいなと思うからです。そこでお土産を渡すところからさらに一歩進めて、現地でスイーツを作って振る舞うことに挑戦してみたのです。何を作ろうかなと考えたのですが、選んだのはプリン。材料も単純で簡単に作れるしおいしい。作り慣れているという安心感もありました。
●七輪でプリン!!
とはいえです。日本とはまるで勝手が違います。まずは材料探しからしなくてはいけません。滞在している街にはスーパーマーケットというものがありません。市場を歩いて牛乳、卵、砂糖を探さなくてはいけません(バニラは使いたい放題です)。卵と砂糖はすぐに見つかりましたが、牛乳がなかなか見つかりませんでした。現地には冷蔵庫が一部のレストランにしかありません。また一般的にはあまり飲まれるものではないのでどこにでも売っているわけではないのです。牛乳を手に入れるのに2、3日かかりました。見つけた牛乳は野菜の横で、リユースのペットボトルに入れて売られていました。
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プリンを作ってみた
様子はインスタグラム(@coen.mg)でも紹介しているので是非見てみてください
材料はそろいました。さて、どう調理しましょうか? 現地ではガスが通っていません。まきか木炭を使って料理します。ということで、七輪でプリンを作ることに!
まずは火を起こすところから始めます。鍋に牛乳を温めて、砂糖とバニラを投入します。バニラは思い切りぜいたくに使いました。バニラで香り付けしておいたラム酒も少々加えます。その液を、溶いた卵に少しずつ加えてプリン液を作ります。それをガラスのコップに入れて… あ、ふたがない。ラップなんてあるわけもなく、アルミホイルもない。考えた末に、紙をかぶせることにしました。でも紙だとうまくふたができません。そこで紙をぬらして柔らかくしてからふたをしました。それを輪ゴムで固定して、これでOK。あとは、湯煎で蒸して固まるのを待つだけです。七輪なので火加減を調整するが難しいのですが、この頃にはちょうどいい具合に弱火になってきました。
果たしてうまく固まってくれるのか? 様子を見ながらつまようじを刺して固まり具合を見ます。数回試した後、「立った!!」。良かった。ちゃんといい具合に固まってつまようじが立ちました。湯煎していた鍋からコップを取り出してテーブルに並べます。少し冷めるまで待つ間に、キャラメルを作ります。砂糖水を大きなスプーンで温めますが、残念ながら火が弱くてそこまで煮詰まらない… まあ、それはそれでよしとしましょう。
いよいよ試食です。まずはプレーンで。スプーンですくって口に運びます。「ん、うまい!」。固さも上々、味もよし。次にシロップをかけて、「うーん、うまい!!!」。これでみんなに振る舞える。
プリンを初めて食べるという人がほとんどで、みんな最初はおそるおそる食べていましたが、最後は取り合いになっていました(笑)。それにしても本当に良かった。初めて食べるプリンがまずかったら申し訳ないですからね。プリンは簡単に作れるので、現地ではやってほしいなと期待しています。そして少しずつでも、バニラの生産者がバニラを楽しめるようになるといいなと思います。
●現地の可能性を引き出すために
マダガスカルでは、バニラの他にもクローブ、コショウ、シナモンなどの香辛料や、カカオ、ライチ、マンゴー、パイナップル、アボカドといった果物もあり、素晴らしい素材が豊富に採れます。これらを単に素材として輸出するだけではなく、例えばチョコレートのように加工して製品として輸出できたなら、マダガスカルの人たちはより多くの経済的価値を生み出すことができると思います。
また一方で、マダガスカルには人々が古くから利用してきた植物もあります。それらはマダガスカル固有のもので他の地では見られません。薬草のようなものもありますし、素晴らしい香りがする葉っぱも多くあります。マダガスカルの外ではまだあまり知られていない有用植物がたくさんあるのです。このような素材もぜひ活用してほしい。マダガスカルにしか作れないものを作ってそれを世界に届けることができたらなんと素晴らしいことか。
植物をどのように利用するのかといった伝統知はマダガスカルの各地に残っていますがきちんと文書に記録されていないものも多いようです。これらの貴重な伝統知を掘り起こして活用することは、マダガスカルに経済的な価値をもたらすだけではなく、マダガスカルの人たちの自信や誇りにもつながるだろうと思います。さらには有用植物が生育する自然環境を保全することにも大きく貢献するはずです。アグロフォレストリーの形態をとってこのような植物を栽培することもできるでしょう。
プリンを食べたことがない人たちがいる一方で、私たちがまだ口にしたことがないものを食べている人たちがたくさんいる。そんなマダガスカルの未開な側面、言い換えるとグローバル経済に毒されていないピュアな側面にとても大きな可能性を感じています。
何はともあれ、今回、七輪でもおいしいプリンを作れることがわかりました。さてさて、次回マダガスカルに行ったときは何を作ろうかな。皆の喜ぶ顔を思い浮かべながら考えています。