サステナブルファッションを考える~「適量生産・適量購入・循環利用」への移行を目指して~「適量生産・適量購入・循環利用」に向けた課題と取り組み~企業・生活者の視点から

2024年10月17日グローバルネット2024年10月号

一般社団法人unisteps共同代表理事
鎌田 安里紗(かまだ ありさ)

 ファッション産業は世界的に見ても環境への影響が非常に大きく、国連貿易開発会議(UNCTAD)では世界第2位の汚染産業とみなされています。また、ファッション産業が与える影響は、原材料から商品ライフサイクルの終了まで、バリューチェーン全体に及び、環境面にとどまらず、生産者の健康や安全、労働賃金、人権など社会面にも大きな影響を与えています。
 最新流行を取り入れ、低価格に抑えた衣料品を大量生産し、短いサイクルで売り、廃棄する、というファストファッションの業態を、いかに持続可能なスタイルに変えていくか。本特集では、日本の現状やEUにおける繊維政策や法規制、さらに日本国内の課題と取り組みを紹介いただきながら、真のサステナブルファッションについて考えます。

 

繊維の循環に向けた課題

国内の衣類の15%がリサイクルされているという環境省のデータがありますが、そのうち衣料に生まれ変わっているのは1%未満です。繊維から繊維への循環が実現できない背景としては、流通している服の多くが混紡品(複数の素材を混ぜたもの)で、その分離・リサイクル技術が商業規模で確立していないことがあります。

昨年、私も委員として参加した経済産業省の「繊維製品における資源循環システム検討会」でも、消費者が手放した衣服をどう回収するか、そして回収したものをどう分別するかが課題でした。現状、基本的には一着ずつ衣服に付いている洗濯表示の混率を見て手で分けられており、時間とコストがかかっています。この点を改善するため、自動選別など、分別に関する技術革新も進められています。

また、製造段階から資源循環を考えた設計(易リサイクル設計)の導入も必要です。そうした設計と環境負荷の低い素材の利用促進を目的に、今年3月、経済産業省から「繊維製品の環境配慮設計ガイドライン」が出され、事業者が取り組むべき環境配慮設計項目、評価基準・方法を設定しています。

ガイドラインには、環境負荷の少ない原材料の利用、温室効果ガス(GHG)の排出抑制、水資源への配慮、廃棄物・包装材・繊維くずの抑制、リペア・リユースの充実などの項目があります。日本では繊維製品へのEPR(拡大生産者責任)の導入や情報開示など法制化の議論は本格化していませんが、このガイドラインにより、繊維の資源循環が進むことが期待されます。

今後は、どのような環境配慮がなされたのか、消費者にわかりやすく伝える表示の仕組みの整備も必要です。加えて検討会では、環境配慮された衣服が選択される後押しとしてグリーン購入等での優遇といった方向性についても議論されました。多くの人にとって「環境配慮」という価値だけで衣服を選ぶことは難しく、環境に配慮された服が一般的な服より高い、という状況のままでは、抜本的な変化につなげることは難しいと感じています。環境負荷が高いものへの賦課や環境配慮型のものの優遇等、環境負荷と値段を一致させる仕組みがなければ多くの消費行動は変わらないかもしれません。

企業・行政の協働を促進する

unistepsでは、企業・行政、クリエイター、生活者、この三者との取り組みを活動の軸としています。

企業・行政との取り組みでは、2020年に立ち上げられたジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)の事務局として関わっています。2020年に環境省主催で繊維・ファッション関連の企業の勉強会がありましたが、特に繊維・ファッション産業がGHGの排出量が非常に多い産業であること、廃棄やさまざまな段階でごみが出てしまうこと(ファッションロス)が問題視されました。そこで、勉強会終了後にカーボンニュートラルとファッションロスゼロを目標として掲げて始まったのがJSFAです。現在66社が加盟しており、環境省、消費者庁、経済産業省、京都市がパブリックパートナーとして参画しています。毎月の定例会議では、正会員で主要テーマに関する議論を行い、その他個別テーマでさまざまな委員会やワーキンググループも活動しています。

生活者向けにファッション企業の透明性を評価する

生活者向けには、ファッション企業の透明性・情報開示度をランク付けするFashion Transparency Index(FTI、発行はFASHION REVOLUTION)の日本語訳をはじめ、国内外のファッションとサステナビリティについての情報発信を行っています。ファッション産業のサプライチェーンは非常に長く、トレーサビリティ確認は大変ですが、原料生産や製造過程での環境影響や労働環境を把握しなければ改善ができません。「透明性」は把握した情報を社会に開示することですが、それによって自社では把握しきれないリスクを外部にウォッチしてもらうこともできます。

FTIには「年間生産量の開示」という項目があります。本来なら廃棄量の開示も必要ですが、実際は自社で直接廃棄している企業は少なく、開示しても過小評価になる可能性があるため、年間生産量の開示を求めているということです。現状ほとんどのブランドが生産量を開示しておらず実態が把握できません。

FTIの評価では、日本やアジア圏の企業の特徴として「完璧になるのを待つ傾向がある」、つまり中途半端な開示をためらう傾向があると指摘されています。完璧でなくとも誠実に情報を開示することは、顧客との信頼関係の構築にも有効であるとも報告されています。

オーストラリアのエシカル評価機関Good On Youは、FTIを指標の一つに用いており、ファッションブランドがどのぐらい環境、人権、動物に配慮しているかを公開情報に基づき5段階で評価しています。

データをより広く活用してもらうために、例えばマイクロソフトやECサイト「Farfetch」とも連携して商品検索時に使えるようにしたりしています。日本版のサイト「Shift C」が昨年末にリリースされましたが、unistepsはアドバイザーとして関わっています。ゆくゆくは日本のEC運営会社等とも連携し、情報開示を基に消費者が適切な判断ができる環境をつくっていきたいと考えています。

ラナプラザ事故後の10年で変わったこと、変わっていないこと

2013年4月、バングラデシュで世界のファッションブランドの縫製工場が入るビルが崩壊し、多数の死傷者を出したラナプラザ事故の後の10年で改善されたのは企業の情報公開度です。FTIでは、衣服の生産過程を原材料の生産、生地を織ったり染めたりする工程、そして縫製など最終工程の大きく3段階に分けて、どこまで情報が追えているかを見ています。FTIが始まった2017年は、最初の原材料生産地の情報を開示している企業はゼロでしたが、2023年は12%まで増えました。まだ8割以上が未開示ですが、ゼロからの進歩は非常に大きいといえます。最終工程を開示した企業もようやく2023年に52%となり、初めて半数を超えました。

他にもリユース市場が伸びており、新品を買うだけでなく古着を買ったり回収に出したいと思う人が増えている傾向にあります。

ただ、ファッション産業による実質的な環境負荷はまだまだ減っておらず、繊維サプライチェーンのけがあるいは死亡事故も無くなっていません。例えば、バングラデシュでは、労災保険もなく、仕事中に事故に遭ったり亡くなったりしても何の保障もないような、非常に脆弱な環境で働いている人が今もこの産業を支えています。こうした現状は変わっておらず、今後改善が必要です。

生活者に求められること

私自身、もともとファッションが好きでしたが、工場に足を運ぶようになってから、普段何気なく着ていた服がどれだけの工程の積み重ねでできているかに驚きました。生活者には、やはり生産背景に興味を持ち、その面白さの一方で課題もあるということを知っていただきたいと思います。

unistepsでは、服作りの現場を訪ね、サステナブルファッションについて学び考えるスタディーツアーを定期的に開催しています。また、私個人で実施している「服のたね」という企画では、参加者にコットンの種を送り、育てて収穫し、糸を紡いで生地を織り、デザインを考えるまでの服作りのプロセスを体験してもらっています。種まきから完成までの1年半の手間を経ると、お店に並んでいる服が違って見えてくるものです。こうした啓発活動も、生活者の消費行動やマインドを変えるために重要だと思っています。

(2024年9月14日インタビューを基に編集部にて構成)

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