環境条約シリーズ 391第46回世界遺産委員会武力紛争による危機

2024年10月17日グローバルネット2024年10月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

2024年7月21日から7月31日にかけてニューデリー(インド)において、世界遺産条約の第46回世界遺産委員会が開かれた。

そこでは、第一に、世界遺産一覧表への記載提案(27件)のうち、新規記載24件(文化遺産19件、自然遺産4件、複合遺産1件)と区域拡張2件が承認され、総数は1,223件(文化遺産952件、自然遺産231件、複合遺産40件)となった。新規記載には、トゥルグジウのブランクーシの彫刻作品群(ルーマニア)、現代人的行動の出現:更新世の居住群(南アフリカ)、アル・ファーウ考古地域の文化的景観(サウジアラビア)、モイダム:アホム王朝の墳丘墓・埋葬システム(インド)、プー・プラバート:ドヴァーラヴァティー時代のセーマ石(タイ)、佐渡島の金山(日本)、レンソイス・マラニャンセス国立公園(ブラジル)などが含まれている。

第二に、すべての危機遺産56件と、ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群(イギリス)、マラケシュ旧市街(モロッコ)、セレンゲティ国立公園(タンザニア)、仏陀の生誕地ルンビニ(ネパール)、グレートバリアリーフ(オーストラリア)、琉球王国のグスク及び関連資産群(日本)など世界遺産の一部67件について保全状況が審査された。そのうち琉球については、19年の火災による影響は最小限であることが確認され、また、教育的普及啓発の機会としての再建過程の利用を継続するとともに優良事例として記録することが奨励された。

第三に、危機遺産一覧表については、保全状況の改善によりニュー・コロコバ国立公園(セネガル)が外され、聖ヒラリオン修道院/テル・ウム・アメル(パレスチナ)が新規記載された。なお、後者は武力紛争による緊急案件として世界遺産一覧表と危機遺産一覧表の両方に記載された。武力紛争にさらされる遺産は近年増加しており、23年にもトリポリの見本市建築群(レバノン)、マリブ遺跡群(イエメン)、オデーサ歴史地区(ウクライナ)が両方に記載された。

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