INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第85回 2023年中国環境白書から
2024年08月20日グローバルネット2024年8月号
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
毎年6月5日の環境の日前後に白書を発表
日本では環境基本法第12条に基づいて、毎年環境の日である6月5日前後に環境白書が公表されるが、中国でも同様に、日本の環境基本法に相当する中華人民共和国環境保護法第54条の規定に基づいて、毎年6月5日前後に中国生態環境状況公報と呼ばれる報告書(環境白書)が公表される。中国の環境保護法も日本の環境基本法と同じく6月5日を環境の日と定めている。今年の中国生態環境状況公報は5月24日に決定され、6月5日に中国生態環境部のウェブサイトで発表された。
日本の白書と若干異なる点は、日本の白書では環境の状況だけでなく、政府が環境の保全に関して講じた施策および環境の状況を考慮して講じようとする施策も報告しているのに対し、中国の白書では環境の状況に関する記述がほとんどで、環境の保全に関して講じた施策等の記述は少ない。昔の白書では講じた施策に係る総説の記述は今よりも充実していたが、最近は極端に簡略化されている。その代わりに、各所に施策を解説したコラムが掲載されている。
話はちょっと横道にそれるが、日本では去る5月21日に第6次環境基本計画が閣議決定された。環境基本計画は、環境基本法に基づき政府全体の環境保全施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、総合的かつ長期的な施策の大綱などを定めるもので、5年程度が経過した時点をめどに見直される。中国でこれと同様な計画を探すと、環境保護法第13条に登場する「国家環境保護計画」が該当するだろう。この国家環境保護計画は、国民経済と社会発展計画(注:いわゆる5ヵ年計画)に基づいて作成されるので(注:本連載2017年2月号「生態環境保護第13次5ヵ年計画」参照)、5ヵ年計画が改定されるのに合わせて、即ち5年ごとに見直されることになる。
それでは今年の白書から大気環境、水環境等を中心に概要を紹介することとしたい。白書の全76ページ中、大気環境(酸性雨を含む)の紹介は19ページ、水環境は24ページを占めている。
大気環境
第14次5ヵ年計画(2021-25年)期間中、全国の339都市に合計1,734ヵ所の国家都市環境大気質モニタリングポイント(注:日本の国設測定局に相当)を設置している。2023年の大気環境の具体的状況について全国339都市でのモニタリング結果を総括すると、主要汚染物質6項目(微小粒子状物質(PM2.5)、粒子状物質(PM10)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、オゾン(O3)、一酸化炭素(CO))の環境基準をすべて達成した都市の割合は59.9%(203都市)であった。40.1%(136都市)が基準未達成であったが、その内訳を見ると105都市(31.0%)がPM2.5未達成、79都市(23.3%)がO3未達成、58都市(17.1%)がPM10未達成、1都市(0.3%)がNO2未達成であった。COとSO2はすべての都市で達成していた。
全国339都市の優良天気の日数(環境基準達成日数)の割合は平均で85.5%(砂塵の舞う異常な日を除くと86.8%)であった。基準を達成できなかった14.5%の日の未達成の原因となった主要汚染物質はO3が40.1%、PM2.5が35.5%、PM10が24.3%、NO2が0.2%で、SO2とCOが主要汚染物質の日は出現しなかった。2016年から2023年までの全国都市環境大気中PM2.5年平均濃度の推移を見ると年々低下傾向にあり、2023年は2016年と比べて28.6%低下している。2020年から国家2級環境基準(年平均値35㎍/m3)を達成している。
酸性雨
水素イオン濃度(pH)が5.6未満の降雨を酸性雨に分類している。酸性雨は全国の504都市(一部の県レベルの市も含む)の約1,000ヵ所の降水モニタリングポイントで観測されている。2023年の全国の酸性雨地域の面積は約44.3万km2で、陸域国土面積の4.6%を占めた。2022年の割合よりも0.4ポイント下がった。このうち、pHが5.0未満の比較的深刻な酸性雨地域の面積は0.04%であり、pHが4.5未満の深刻な酸性雨の発生はなかった。酸性雨の主要な分布地域は長江の南から雲南省・貴州省高原より東側の地域であり、浙江省の大部分の地域、福建省の北部、江西省の中部、湖南省の中東部、広西自治区の東北部と南部、重慶・広東省・上海・江蘇省の一部地域を含んでいる。
上述の504都市でモニタリングした降雨のpH年平均値の範囲は4.81から8.29で、平均で5.74であった。2016年以降の年平均値を比較すると、2016年の5.45(最低値)から0.29ポイント上昇(酸性度が低下、即ち改善)している。また、全国の酸性雨発生頻度は平均で7.6%であったが、酸性雨発生頻度が25%以上、50%以上、75%以上の都市の割合はそれぞれ12.3%、5.8%、1.8%であった。
水環境
第14次5ヵ年計画期間中、全国の3,641ヵ所に国家地表水環境質評価等モニタリング断面(ポイント)を設置している。河川が3,293ヵ所、湖沼(ダム湖を含む。以下同じ)が348ヵ所である。このうち、2023年に実際に観測されたのは3,632ヵ所であった。地表水の優良(Ⅰ~Ⅲ類)水質(注:飲用水源一級または二級相当の水質)の割合は89.4%で、2022年と比べて1.5ポイント上昇した。劣Ⅴ類の水質(注:最も悪いランクの水質)の割合は0.7%で、2022年と同レベルであった。2016年以降で比較するとⅠ~Ⅲ類水質断面の割合は67.8%から89.4%まで、21.6ポイント上昇した。劣Ⅴ類の水質断面の割合は8.6%から0.7%まで、7.9ポイント下がった。
流域別にみると、長江流域や黄河流域はいずれも全体として「優」(注:飲用水源一級相当の水質)の水質で、長江主流では観測した82ヵ所すべてのポイントで4年連続Ⅰ~Ⅱ類の「優」の水質であった。黄河主流も観測した42ヵ所すべてのポイントでⅠ~Ⅱ類の「優」の水質であった。
湖沼についてみると、水質モニタリングが行われた209の重要湖沼のうち、Ⅰ~Ⅲ類水質の湖沼は74.6%で、劣Ⅴ類の湖沼は4.8%であった。かつて水質汚濁(富栄養化)が著しかった三大湖沼(太湖、巣湖、デン池)はいずれも軽度汚染の状況であった。
地下水については、第14次5ヵ年計画期間中、全国の1,912ヵ所に国家地下水環境質考課ポイントを設置している(注:2021年に生態環境部は「第14次5ヵ年計画国家地下水環境質考課ポイント設置方案」を制定して、これまでとは異なる地点でモニタリングを開始した。)。このうち、2023年に実際にモニタリングが行われたのは1,888ヵ所であり、Ⅰ~Ⅳ類水質の割合は77.8%、Ⅴ類(注:生活飲用水水源に適さない水質)が22.2%を占めた。
土地生態環境
土壌環境質については、全国の農用地安全利用率は91%に達し、農用地の土壌環境状況は全体として安定しているとしている。土地環境状況については、まず水土流失に関しては、2022年の水土流失動態モニタリングの成果を引用して、全国の水土流失面積は約265万km2、そのうち水力による浸食面積は約109万km2、風力による浸食面積は約156万km2としている。次に荒漠化および砂漠化に関しては、第6次全国荒漠化と砂漠化調査結果を引用して、全国の荒漠化した土地面積は約257万km2、砂漠化した土地面積は約169万km2としている。
自然生態
中国が独自に制定している生態質指数を用いて全国の自然生態を評価しているほか、生物多様性、絶滅危惧種、自然保護地域の状況について記述している。
白書ではその他に海洋生態環境、騒音、放射線、気候変化と自然災害、その他(排気、排水、固体廃棄物)の状況について記載されているが、紙幅の関係で概要の紹介は省略する。