フロント/話題と人ロジャー・スミスさん/スティールウォッチ アジアリード、国際環境NGOマイティ・アース 日本ディレクター
2024年08月20日グローバルネット2024年8月号
脱炭素の要・鉄鋼業
~活動家として変革を目指す
今年6月、国内最大手の鉄鋼メーカー・日本製鉄の株主総会で、温室効果ガスの排出削減目標の強化や気候変動に関するロビー活動の情報開示等を求める株主提案が国内外の機関投資家や非営利団体から提出された。気候変動に関する同社への提案としては初であり、注目を集めた。鉄鋼業界の変革を目指して昨年6月に設立された国際NGO スティールウォッチは、総会に先立ち、同社の気候変動対策を検証するレポートを発表。スミスさんはこの執筆を担当した。
鉄鋼業では石炭を使った鉄鉱石の還元過程で大量の温室効果ガスが排出され、世界の年間排出量の少なくとも7%を占める。日本製鉄は粗鋼生産量世界第4位。国の気候変動や脱炭素に関する政策にも大きな影響力を持ち、「同社の行動が日本の鉄鋼業界全体の変革につながり得る」とスミスさんは言う。レポートでは、同社のビジネスモデルと脱炭素計画が依然として石炭に依存し、1.5℃目標と整合していないことを示した。
スミスさんは2019 ~ 22 年には、マイティ・アースのスタッフとして、持続可能かつ責任ある鉄鋼生産の促進を目指す「レスポンシブル・スチール」認証基準の交渉に参加。還元剤としてのバイオマス利用による森林減少・劣化を防ぐための基準の導入につなげた。日本からこの認証に参加した企業はいまだ無く、スミスさんは「日本の鉄鋼メーカーがビジネスの移行を真剣に考えていない証拠だ」とみる。「より良い分析がより良い変革につながる」との考えで、今後は高炉の延命につながる「誤った対策」についての分析レポートなどの発表を予定している。
「世の中がどんなふうに成り立ち、どんな人が世の中を変えるのか」という問いから、米国の大学で歴史学を専攻したスミスさん。当時から活動家志向で、大学に環境学プログラムの設置を求める運動を展開したことも。日本史への関心から日本への交換留学も経験し、卒論では戦後日本の公害問題や熱帯林保全の市民運動について研究した。2011 年の東日本大震災後、震災復興と地域脱炭素の推進に関心を持ち再度来日。宮城県松島町産業観光課や仙台のプロモーション会社で約5年間、観光振興に携わったユニークな経歴を持つ。(克)