ホットレポート持続可能な環境と社会福祉を実現するために~NPO法人「フクロゥの夢」の新聞エコバッグ製作活動            

2024年07月16日グローバルネット2024年7月号

循環共生社会システム研究所 代表理事
NPO法人「フクロゥの夢」アドバイザー
内藤 正明(ないとう まさあき)

新聞販売店が「環境福祉」の取り組みに立ち上がる

2021年10月、神戸市内に拠点を持つ新聞販売店のメンバーがNPO法人「フクロゥの夢」を立ち上げました。その目指すところは、「社会的弱者(特に障害児)に働く場を与え、併せて環境問題を解決しよう」とするものです。「環境福祉」という言葉が示すようにこの二つの課題は、経済発展の陰で物言えぬ弱者が、その付けを集中的に引き受けることになったという、同じ根っこを持つ課題といえるでしょう。

国連が提唱した持続可能な開発目標(SDGs)は、これら弱者を救うには多くの問題群を全体として改めねばならないことを示しています。フクロゥの夢の取り組みはこの大問題に対して、小さな市民活動で足元から確実にできることから始めて、次第にその輪が広がることを目指しています。

新聞古紙などからエコバッグを製作

具体的な手段としては、このNPOの基地が新聞販売店であることから、回収する古紙や新聞梱包の敷き紙などを材料として「エコバッグ」を作ることです。当時はちょうどレジ袋の有料化でエコバッグへの社会的関心が高まった時期であり、また新聞販売店では売れ残り新聞の再利用が課題でもありました。

この作業を心身に障害のある子どもたちの仕事として提供し、同時にこのバッグによってプラスチック製のレジ袋が削減されることで、環境負荷の削減に寄与することを意図しました。

このエコバッグは製品として優れていることが評価され、「実用新案」も取得できました。その製作過程を簡単な手順書としたことも功を奏して、この活動に学生・生徒や市民などの参加が増え、また広く、神戸市、西宮市、芦屋市などの特別支援学校を中心に、兵庫県内各地の市民や企業にも拡大しつつあります。

LCA計算による環境負荷の比較とアピールポイント

新聞エコバッグの効果を定量的に知るため、当NPOのアドバイザーである筆者を含む専門家によるLCA(ライフサイクルアセスメント)を試みました。「エコバッグ」と「レジ袋」との環境負荷を比較してみると、CO2基準では、レジ袋は、標準的なサイズ(容量12L、重量7.22g/枚)で、廃棄、リサイクル過程で3.45kgCO2+製造過程1.66kgCO2=計5.01kgCO2となります。

一方、エコバッグについては通常のマイバッグとして計算すると24.3kgCO2となりますが、この値は、原料・使用・廃棄など通常の過程を経るとしたものです。フクロゥの夢のエコバッグは、新聞紙として使用後の「不要物」を活用して作られたものであるため、排出量はゼロと仮定しました(バッグとして活用しなければ、そのまま廃棄物となり、それに相当する負荷をもたらすが、途中でバッグにして元の流れに戻せば、バッグとしての負荷はゼロとみなせる)。

その他の環境負荷については、レジ袋は「マイクロプラスチック」として、海洋汚染問題で議論になっており、この定量評価は難しいですが、その負荷はある程度は減らせます。また、ビニール袋が海に流れ込むとウミガメなどが餌と間違って食べる危険がありますが、このような影響については子どもたちに伝える際のアピールポイントなり、活動の励みとなっています。

その後の活動の広がり

この活動が広がることによって、周辺市民の環境意識が高まり、さらなる環境保全の活動への契機となりました。その具体的な事例をいくつか紹介すると;

① 活動の拡大:
 新聞エコバッグ製作活動に、特別支援学校の生徒が参画したことで生産が大いに加速しました。それに触発されて「神戸市婦人団体協議会」を中心として、各地域でこの活動支援の輪が広がり、このような市民活動の広がりが企業の関心も引き、その参加を促すこととなりました。さらに、イベントを紹介した特集紙面を使って製作したバッグをそのイベント会場で販売したこともありました。

② プラスチックごみ問題を伝える:
 新聞エコバッグ製作の講習会では、今日深刻になっている海洋汚染の原因物質となるプラスチックごみが海の生態系を壊し、最後にはマイクロプラスチック問題として人の健康に影響を及ぼすということを学んでもらいます。それにより、参加者はこのエコバッグ利用により日常生活でのプラスチック製品の使用を抑えることができると気付きます。

③ 特別支援学校生と社会の交流が実現:
 2022年9月、国連障害者権利委員会から日本政府へ勧告(総括所見)が出され、特別支援学校生の状況が閉鎖的で、社会との交流が少ない現状を改善すべきと指摘されました。そこで、この勧告の関連イベントとして、2023年12月、神戸市の名谷図書館が新聞エコバッグ作りの講習会を開催しました。近隣住民が参加する中で、神戸市立青陽須磨支援学校高等部の生徒が講師として作り方を伝えました。初めて他者に教える役割を担って、緊張感にあふれていましたが、受講される方の理解と思いやりで無事に役目を終えることができ、大きな自信につながり、先生も共に笑顔があふれました。

④ 国際的な指標につながる活動:
 SDGsの17項目のうち、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」が、この活動と直接関係があると思われますが、活動の広がりと共に目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関連も見えてきました。このささやかな活動が国際的な指標にまで結び付くことを学んだことも、多くの人たちの参加意識を高めた要因となりました。エコバッグ作り講習会の会場で、多くの参加者から「“SDGs推進”と言われても、個人のレベルで何をすればいいのかわからなかったが、この活動に参加することが協力につながっていると知ってうれしかった」という声が上がりました。

夢への一歩

特別支援学校の先生たちから、「このエコバッグ作りは、障害者にとって難しすぎず簡単すぎず、またいろいろな道具を使い、仲間同士での会話も生まれるなど素晴らしい効果を生んでいる」との感想をいただきました。そして、生徒たちも社会とつながれる喜びを感じ、「卒業してからもこのエコバッグ作りができる場を作ってほしい」との希望が聞かれるようになったことから、特別支援学校卒業後の子どもたちの受け入れ先として、2023年12月1日に「就労継続支援B型事業所」の認可を得て、神戸市内に「就労継続支援B型カムイチカプ」を開設することができました。

ささやかなNPO活動として始めたこの「新聞エコバッグプロジェクト」は、小さなともしびから燎原の火のように各方面に広がり、次第に大きな社会運動になりつつあります。この活動をさらに広げ、持続可能な環境と社会福祉を実現するという夢に向かって一歩一歩進んでいければと考えています。

新聞エコバッグを製作する特別支援学校の生徒

完成した新聞エコバッグ

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