特集/セミナー報告 カナダの森の叡智を紐解く 気候と生態系を守る森を燃やすバイオマス発電は「再エネ」なのか?カナダの原生林と日本のバイオマス発電

2024年07月16日グローバルネット2024年7月号

(一財)地球・人間環境フォーラム
鈴嶋 克太 (すずしま かつひろ)

 カナダ・ブリティッシュコロンビア(BC)州には、膨大な炭素を蓄積し、生物多様性が豊かな原生林が広がっていますが、長年続いてきた大面積の皆伐や近年深刻化する山火事により、急速に劣化しています。日本では再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の支援の下、同州で生産された木質ペレットを輸入し、バイオマス発電の燃料として燃やしています。
 今年5月、当財団では、世界的ベストセラー『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』の著者で、菌根菌ネットワークの研究で知られるスザンヌ・シマード氏と、現地で森林保全・政策提言に関わるレイチェル・ホルト氏を招き、セミナーを開催。現地の森林の価値と直面する危機、日本のエネルギー政策との関係について考え、日本の市民や企業・政府に求められる行動を議論しました。本特集では、セミナーでの講演内容を報告します。

 

バイオマス発電は2012年以降、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)によって「再エネ」の一つとして支援されてきました。バイオマス発電は動植物(生物)由来の燃料を燃やす火力発電で、燃料には木材、農産物残さ、家畜排せつ物からのガス等があります。

FIT制度は、再エネによる電気を増やすために、電力会社が市場価格より高く購入する制度です。買い取り費用は、電気料金に上乗せして消費者から徴収される「再生可能エネルギー発電促進賦課金」により賄われています。消費者の負担で再エネ事業を支える制度であり、経済産業省の下で買い取り価格が決められ、「事業計画策定ガイドライン」では事業者が遵守すべき事項や努力義務、持続可能性に関する要件等を定めています。

FIT認定を受けたバイオマス発電所で使われている燃料を見てみると、全体の導入容量の約8割を占めるのが輸入木質バイオマスで、そのほとんどが木質ペレット(木材を粉砕して圧縮したもの)とパームヤシ殻(PKS、アブラヤシの種の殻)です。間伐材や林地残材等、国内の「未利用木質」は1割程度です。

FITで急増した輸入バイオマス

木質ペレットの輸入量はFIT制度が始まった2012年から23年までの間に約80倍に増えています。

バイオマス発電は他の再エネと異なり、火力発電のため燃料を必要とします。木質バイオマス発電の場合、発電コストの7割が燃料費で、木質バイオマスを発電のみに利用した場合のエネルギー効率は低く、約20~30%といわれています。このように原理的に高コストで非効率なものがFITの高い買い取り価格によって事業として成り立ち、大型かつ輸入燃料に依存する発電所が全国で次々に建設され運転を開始しています。

現在、木質ペレットの輸入元第2位の国がカナダで、ほとんどがブリティッシュコロンビア州から来ています。私たちが2022年に現地視察を行った際には、原生林を大規模に皆伐した跡が至る所に見られ、ペレット工場には周辺の森林から運ばれたとみられる多くの丸太が積まれていました。

バイオマス発電によるCO2排出

バイオマス発電は「カーボンニュートラル」であるといわれてきました。その理由として、「燃焼時に排出される二酸化炭素(CO2)は、森林が再成長する過程で吸収される」「過去に森林が吸収したものを燃やすのだから、大気中のCO2を増やすものではない」と主張されてきました。しかし実際には、樹木の燃焼により排出されたCO2が再び吸収されるには数十年から数百年が必要です。また、森林伐採後に地上の残材や土壌中の炭素が分解される過程で、さらに、ペレット工場での加工や陸上・海上輸送時にもCO2は排出されます。

燃焼時のCO2排出について見てみると、さまざまな研究等で、木材または木質バイオマス発電の燃焼によるCO2排出は石炭よりも多いことがわかっています。

FIT制度では、2023年度からライフサイクル温室効果ガス(LCA-GHG)排出量の削減に関する基準が設けられましたが、この基準では燃焼によるCO2排出はゼロと見なされています。一方、企業の炭素会計についての国際的スタンダードであるGHGプロトコルやSBT(科学的根拠に基づく目標)、また、企業のサステナビリティ評価を行う非営利団体CDPの「気候変動質問書」においても、バイオマスの燃焼によるCO2排出の算定・報告を求めています。

日本の金融機関の動き

今年の春、日本の三大メガバンクが改訂したサステナビリティ方針で、こうしたバイオマス燃料生産地の森林・生態系への悪影響やLCA-GHG排出の課題が、初めて認識されました。ただし、現状3社いずれの方針も、バイオマスの燃焼によるCO₂排出を含めるか明示していません。また、三井住友フィナンシャルグループの方針では、木質バイオマス発電事業への投融資に際して、「持続可能な燃焼材」(「未利用材・製材残渣含め原生林由来ではないこと」)の使用を求めています。これにより、カナダの原生林由来の木質ペレットは支援対象外となるはずですが、現状のFIT制度では燃料生産地までのトレーサビリティの確認が義務付けられていないため、どこまで実効性があるか不明確です。(セミナーでの発表を基に加筆)

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