フォーラム随想どうなるか、八ヶ岳西麓の温暖化対策

2024年06月17日グローバルネット2024年6月号

千葉商科大学名誉教授、「八ヶ岳自給圏をつくる会」代表
鮎川 ゆりか(あゆかわ ゆりか)

 筆者が暮らす八ヶ岳西麓地域ではようやく本格的に温暖化対策への取り組みが始まった。茅野、富士見、原の3市町村が、「脱炭素ビジョン」や「地球温暖化対策実行計画区域施策編」などを策定している。
 当地域は再生可能エネルギーに恵まれている。原村の場合、需要の5倍も利用可能量があるというデータもある。しかしこれは太陽光発電で、主に土地系であり、この地域では難しい。

 

 長野県や山梨県では特に日射量が多く太陽光発電の適地となったため、東京などの大都市から事業者が次々と来て、土地を取得し、そこにある森林を伐採し、メガソーラー発電設備をあちこちに造った。これは2012年に施行された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」で太陽光発電による電力が最も高く売れることになったからだ。しかしその売電収益は地域に還元されるのではなく、東京などの事業者のもとに落ちる。
 一方地元では森林伐採により水源が縮小し、土石流災害に見舞われる事例が相次ぎ、さらに地域の「景観」が悪くなるなど負の側面を負わされることになった。結果、太陽光発電の適地とされた地域に多数のメガソーラー計画が乱立し、地元住民との争いが各地で起きた。
 特に諏訪地域で大きな問題となったのが、諏訪市の霧ヶ峰高原の森を伐採し、31万枚のパネルを敷き詰める92.3MWのメガソーラー計画であった。地域住民からは水資源への影響、河川や霧ヶ峰全体の生態系の破壊、景観、土砂災害の危険性から反対の声が上がり、長野県も環境アセスメントの対象第1号にして、技術委員会で何回も議論され、最終的には2020年夏に事業者が撤退した。

 

 しかしこの間、諏訪地域の住民たちには太陽光発電に対し、「パネルを見るのも嫌」という嫌悪感が醸成されてしまった。
 こうした住民の思いを受け、茅野、富士見、原の3市町村首長は、2021年12月に「八ヶ岳西麓の豊かな自然環境と共生する未来に向けた共同宣言」を発表し、「私たちは、八ヶ岳西麓において、緑豊かな自然環境や優れた景観等が阻害され、また、災害の発生が危惧されるなど、地域の理解が得られない野立て型太陽光発電設備の設置を望みません」と述べた。
 原村では同年11月に、「原村太陽光発電設備の適正な設置等に関する条例及び施行規則の一部改正」が行われ、太陽光発電の抑制地域が増やされ、富士見町も翌年2月、町内全域を野立て型太陽光発電の「抑制区域」とした。
 昨年2023年は全世界的に気温が高く、「地球沸騰時代の到来」と言われた。パリ協定で合意された「1.5℃目標」が難しくなりつつある。温暖化対策を早急に進める必要のあるこの時、対策を取れる地域の人たちを、これだけ「太陽光発電嫌い」にしてしまった、利益優先型で地域貢献のない太陽光発電を行ってきた都会の事業者の罪が、いかに重いかが改めて問われる。また事業者をそのように誘導させた法律も問題であったことは否めない。

 

 本年4月、筆者が代表を務める「八ヶ岳自給圏をつくる会」が開いた小林光氏(茅野市在住、東京大学先端科学技術研究センター研究顧問)による『エコハウス、そしてその先』講演会では、自宅の太陽光発電のメリットだけでなく、エコハウスの断熱性能や、雨水利用など、氏が取り組んでいるあらゆる省エネ、脱炭素行動についてデータを用いた説明の後、「創エネ・省エネは自分の『趣味』で気持ち良い」と述べられた。その会のアンケートで、参加者が最も「関心を持ったこと」が「太陽光発電の利用とメリット」であったことは象徴的である。「エコハウスが地球温暖化対策になることがわかった」も次に多く、生活者目線のお話をデータでもって裏付けることが、いかに説得力があるかが明らかになった。温暖化対策の具体的計画立案はこれからである。

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