特集/人と環境にやさしい花卉栽培とは~オーガニックフラワーが目指すものオーガニックフラワーの可能性

2024年05月16日グローバルネット2024年5月号

元 一般社団法人日本オーガニックフラワー協会 理事長、有機農家
橋本 力男(はしもと りきお)

 近年、自然環境や健康への配慮から、日本でもオーガニック(有機の)食品、衣料品、日用品の普及に向けた取り組みが進んでいます。しかし、従来の花卉栽培の現場では、多量の農薬や化学肥料が使われ、栽培者や鑑賞者の健康、水や土壌などの自然環境への悪影響が指摘されてきました。野菜と同様に土で育てるにもかかわらず、ほとんどが食用ではないことから、公的な基準や認証制度も国内では整備されていません。
 農薬や化学肥料を使わず、生態系の自然な機能を生かして栽培されたオーガニックフラワーには、どのようなメリットがあるのか。また、普及に向けて何が必要なのか。日本国内で栽培や販売に携わってきた関係者にご紹介いただきます。

 

喫茶店や会社でよく見かける「アートフラワー」はプラスチックなどでできた「造花」です。つまりそこには生命がなく、植物が本来有している生命の輝きや「病気や害虫」とは無縁です。一方「オーガニックフラワー」とは化学肥料や農薬、除草剤を使わないで栽培された草花、花木類のこと。もちろん遺伝子組み換えはなく、栽培された花卉全般を指します。

食べ物ではない花卉かきの栽培では、慣行(従来型の栽培による)野菜で使用される農薬の量の約2〜3倍は使われるといわれています。花卉は食べ物でないという理由でJAS認定もされていませんが、直接手に取り、匂いをかぎ、部屋に飾るのですから無意識に農薬の影響を受けてしまうのです。

これらの危険性に早く気が付いたのは農業国オランダでした。2004年からMPS(環境に配慮した花卉の生産と流通を認証する基準)を作り、販売を始めました。しかし日本でのオーガニックフラワーの取り組みは、東京や名古屋、京都の一部を除くと、まだまだ未開拓です。

オーガニックフラワーの栽培

ところでオーガニックフラワーは、どのように育てられているのでしょうか。それはまず畑の土を健康に、つまり病虫害が発生しない土壌を作ることから始まります。つまり地域の生態系に近づけるということです。

そのためには、化学肥料はもちろん、腐ったもの、生の雑草、米ぬか、油かす、牛ふんなどの有機肥料や、家畜のふん尿、未完熟の堆肥も使いません。できれば不耕起・無肥料で4年以上栽培する。すると虫病害が減少して、花瓶に入れた花の水が腐らなくなります。つまり病虫害に抵抗性を持つ土壌ができてくるのです。

肥料を入れて花を作ると硝酸態窒素が増えてアブラムシ、ダニ、ガ、夜盗虫、病気が増えてきます。そのため殺虫剤、殺菌剤などの農薬が必要となるわけです。生産量を上げたい場合は、完熟した堆肥を適量使用するか、また表層に敷き草などをします。

オーガニックフラワーの栽培レベルには

  1. A露地(無肥料・不耕起・無農薬・草生栽培)
  2. B露地(完熟堆肥・耕起・自然農薬・手または機械除草)    木酢液・酢・木灰・薬草抽出液など
  3. Cハウス(完熟堆肥・耕起・自然農薬・手または機械除草)
  4. Dハウス(完熟堆肥・耕起・自然農薬・手または機械除草・暖房)

の選択枝がありますが、私は2007年から①の方式により、三重県津市で面積20aで100種類余りの季節の花や花木類を育ててきました。

Aレベルの栽培方法は、単なる化学肥料や農薬を使わないということだけでなく、地域の生態系を生かした栽培を取り入れます。堆肥も入れず無肥料で、無農薬、不耕起の草生栽培です。雑草が花より大きくなれば、手刈り、草払い機、ハンマーナイフモアで刈り、そのまま放置して草マルチとして、微生物の餌として、養分の供給につながります。

私は1975年から有機で野菜栽培を始めましたが、病虫害で大変困り、10年間の試行錯誤の後、「完熟堆肥による野菜栽培」で、病虫害から解放された経験をしてきました。しかし花の栽培は「おいしさ」の野菜出荷と異なり、「美しさやかわいさ・品性」を出荷する生産であることがわかり、すぐに生け花のレッスンを始めました。

花の種類

花卉の種類には、大きく分けるとアレンジに使われる洋花(ダリア、バラ、ハーブ類、トルコキキョウ、チューリップなど)と、生け花に使われる和花(サクラ、リンドウ、ヒュウガミズキ、ユキヤナギ、ユリなど)があります。そしてアレンジや生花、ディスプレイ、プレゼント、リース、スワッグなど、用途に応じて、栽培される花の種類は変わります。

花畑の作り方とオーガニックフラワー作りの目的

病虫害から解放されたオーガニックフラワーは、どこにどのような土壌で育てるかによって、その品質や種類が異なります。また、育てる目的も以下のようにいくつかあります。

  1. ガーデン…花を楽しむ庭。個人的な庭や公園などのガーデン。年中、花が咲き楽しむことができる。
  2. レイズドベッド(底上げ花壇)…個人や学校菜園などで、野菜・果樹・ハーブ・花など季節をデザインして楽しみ、収穫できるガーデン。
  3. 切り花栽培…切り花出荷を目的としたガーデン。年間を通して出荷が可能。また、現地でフラワーアレンジレッスンなどを楽しむことができる。

栽培の基本は、水はけ(排水、透水性)が良いことと、生物多様性に満ちていること。そして基本概念は、不耕起・無肥料・草生栽培することで、土壌表層で土壌微生物の多様化が進みます。

水田を花畑に

現在日本では水田は採算が合わず超高齢化とともに耕作放棄地が広がっています。水田を花畑に変えるにはどうすれば良いでしょう。

  1. 水田には水をためる硬盤層があるため、1〜2年間マメ科の緑肥を栽培して、これを壊し、透水性をよくすることです。そして暗渠排水や明渠排水を設けることです。
  2. 野菜畑はたくさんの肥料や石灰が投入されているため肥沃で、pH(水素イオン指数)が6〜7になっていることがあります。その改善策として、ライ麦やソルゴーをまき、育て、養分を吸収させ刈り取り、圃場外に出します。
  3. 耕作放棄地は年数にもよりますが、ススキや灌木が生えている場合があります。この場合、大きな木や野草を取り除き開墾整地するか、野草を刈り取り生育を抑えることも可能です。花の生育より雑草の生長が早い場合は除草するか、草生栽培にするか選択できます。

水田を花畑に変えることは、地方の農家の高齢化と耕作放棄地の対策として、それらの田畑に花木類を植え、草生栽培による草管理で生産した切り花を出荷する仕組みを作ること、仕事を提供することになります。

生物多様性を取り入れた雑草管理

野菜栽培同様、花などの作物では、どうしても競合する雑草の除去、刈り取りなど管理に労力が必要です。しかし生態系を生かした雑草管理ではできるだけ多くの異なった雑草が生育することで、花の病虫害リスクの低下、土壌微生物の多様性が豊かになってきます。

花畑の雑草の種類は土性、水はけ、養分量、日照時間などによって生育が決定されます。理想的な花園の生態的な多様性を創造するためには、多くの条件を与えることで雑草の種類は変わるのです。その結果、花の茎の生育や花びらの大きさ、香り、日持ちが左右されるのです。

オーガニックフラワーの可能性

オーガニックフラワーの生産と販売を増やすには、まず花の生産が、残留農薬の検査もなく、化学肥料、農薬、除草剤が使われている現状を知ることです。

そこで安全な花や花木を求め、部屋に飾る人が増えてくれば生産も高まります。花屋さんの店頭販売、オーガニックフラワーレッスンなどもその一歩です。

講演会で展示した、育てたオーガニックフラワーのサンプル

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