INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第83回 李強首相初めての全人代政府活動報告
2024年04月16日グローバルネット2024年4月号
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
第14期第2回全国人民代表大会開催
去る3月5日から11日までの7日間、第14期全国人民代表大会(「全人代」、日本の国会に相当)第2回会議が北京の人民大会堂で開催された。会期は昨年よりもさらに2日間短縮され、わずか1週間の短い会期であった。閉会後に行われる内外の記者を集めた恒例の首相会見もなくなり、簡素化を通り越してちょっと「寂しい」大会という印象であった。大会初日、李強国務院総理(首相)から、2023年の活動の回顧、2024年の経済・社会発展の全般的要請と政策の方向性および2024年の政府活動の任務について報告された。李強首相は昨年の全人代会期末に首相に就任し、閉会後の首相記者会見から表舞台に登場したので、全人代で政府活動報告を行うのは今回が初めてであった。私も久しぶりに北京で、中国中央電視台(CCTV)の生放送で全人代の中継を見ていたが、こちらにも多少の緊張感が伝わってきた。
Ⅰ.2023 年の活動の回顧
今年の政府活動報告の中からグリーン・生態環境に関連する報告部分をピックアップして紹介するとともに、若干のコメントを加えてみることとしたい。
まず、2023 年の活動の回顧では「生態環境が着実に改善された」とした上で次のように述べている。
汚染対策堅塁攻略戦を踏み込んで展開し、主要汚染物質の排出量がさらに減少し、地表水と近海の水質が改善し続けた。「三北」プロジェクトの堅塁攻略戦が全面的にスタートした。再生可能エネルギー発電の設備容量が史上初めて火力発電を超え、年間導入容量が世界全体の半分を超えた。
また、「生態環境保全を強化し、発展のグリーン化を加速させた」とした上で具体的に次のように述べている。
「美しい中国」の建設を踏み込んで推進した。「青い空、澄んだ水、きれいな土を守る戦い」に持続的に取り組んだ。指定地域生態系保全・復元重要プロジェクトの実施を加速させた。土壌水食・砂漠化総合対策にしっかりと取り組んだ。生態環境保全監察を強化した。グリーン・低炭素産業促進政策を策定した。重点業種の超低濃度排出化に向けた改良を推進した。第1期の二酸化炭素排出量ピークアウト試行都市・産業パークの整備をスタートさせた。グローバル気候ガバナンスに積極的に参与し、それを後押しした。
なお、以上のように成果を肯定する一方、われわれは直面している困難と課題を冷静に認識していると断った上で、その一例として「生態環境保全対策は前途多難である」とも述べている。
Ⅱ.2024 年の経済・社会発展の全般的要請と政策の方向性
ここでは今年の主な所期目標について、世界中の耳目を集めた「GDPの伸び率は5%程度とする」を始めとして7つの目標を掲げているが、このうちグリーン・生態環境に関連する目標としては、「単位GDP当たりのエネルギー消費量を2.5%程度減少させて、生態環境を持続的に改善する」が挙げられている。
このグリーン・生態環境関連の所期目標について、過去5年間の書きぶりと比較してみた(表)。単位GDP当たりのエネルギー消費量については毎年数値目標があったりなかったりばらつきがあるが、今年は3年ぶりに数値目標が復活した。
Ⅲ.2024年の政府活動の任務
ここでは、10項目に分けて2024年の政府活動の任務を紹介しているが、そのうちの「(九)生態文明建設を強化し、グリーン・低炭素化を推進」の項で、以下のように詳しく紹介している。
緑の山河は金山・銀山にほかならないという理念をいっそう浸透させ、脱炭素・汚染対策・緑化・経済成長を一体的に推進し、人と自然が調和的に共生する美しい中国をつくる。
生態環境総合対策を推進する
大気質持続改善行動計画を踏み込んで実施し、水資源・水環境・水生態系の保全を体系的に推進し、土壌汚染源対策を強化し、固体廃棄物対策、新汚染物質対策、プラスチック汚染対策を強化する。山・川・林・田・湖・原・砂の一体化した保全と系統的な対策を堅持し、生態系のブロック割管理・規制を強化する。「三北」プロジェクトの三つの代表的な取り組みをしっかりと指揮監督し、国立公園の整備を推進する。重要河川・湖沼・ダム湖の生態系保全を強化する。長江の10年間禁漁を継続的に推進する。生物多様性保全重要プロジェクトを実施する。生態系サービス価値実現の仕組みを整え、生態系サービスへの支払い制度を整備し、各方面の生態環境保全・改善の積極性を十分に引き出す。
グリーン・低炭素経済を大いに発展させる
産業構造、エネルギー構造、交通運輸構造、都市・農村開発のグリーン化を推進する。全面的節約戦略を実施し、重点分野の省エネ化・節水化を加速させる。グリーン発展促進の財政、金融、投資、プライシング政策と関連の市場化メカニズムを拡充し、リサイクル産業の成長を後押しし、省エネ・低炭素関連の先端技術の開発・応用を促し、サプライチェーンのグリーン・低炭素化を急ぐ。「美しい中国」先行区を整備し、グリーン・低炭素事業の先進拠点をつくる。
二酸化炭素排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを積極的かつ穏当に推進する
「二酸化炭素排出量ピークアウト十大キャンペーン」を着実に展開する。炭素排出量の集計・算定・把握能力を高め、カーボンフットプリント管理体系を確立し、全国炭素市場の対象業種を増やす。エネルギー革命を踏み込んで推進し、化石燃料の消費を抑制し、新型エネルギー体系の整備を急ぐ。大規模風力発電・太陽光発電基地と送電網の整備を強化し、分散型エネルギー源の開発・利用を推進し、新型エネルギー貯蔵を発展させ、グリーン電力の活用と国際相互承認を促進し、調整エネルギー源としての石炭の役割と調整電源としての石炭火力発電の役割を発揮させ、経済・社会発展のエネルギー需要を確保する。
最後の下線は筆者が引いたものであるが、昨年(注:2023年)の政府活動報告の「Ⅰ.昨年(注:2022年)および過去5年間の活動の回顧」の中で、「石炭の主力エネルギー源としての役割を発揮させ、 生産性の高い採炭設備を増やし、熱電併給企業への支援を強化し、エネルギーの安定供給を保障した。」と記述されていることと比較すると、この1~2年の間に、ピークアウト・カーボンニュートラルに向けて石炭の位置付けが主力エネルギー源から調整エネルギー源に変わってきていることが読み取れる。