フロント/話題と人パティマ・タンプチャヤクルさん(労働者保護ネットワークLPN共同創始者)
2024年04月16日グローバルネット2024年4月号
海の奴隷労働と違法な漁業問題に取り組む
東南アジアの漁船での衝撃的な奴隷労働の実態を捉えたドキュメンタリー映画『ゴースト・フリート』の主人公で、ノーベル平和賞にもノミネートされたパティマさんが2月、WWFジャパンの招きで来日した。
タイ、ミャンマー、カンボジアなどでだまされたり、拉致された男性たちが何年も漁船に閉じ込められ働かされている。ほぼ無給で暴力的に支配され、帰国の望みもむなしく絶望するしかなかった彼らを、パティマさんと仲間たちはこれまでに5,000人以上も救い出してきた。さらに、奴隷労働を使っていた漁業会社を訴えて被害者への不払い賃金の支払いや補償を求め、救出後の生活再建を支える取り組みも進めている。時に自らも脅され命の危険にさらされながら、長年困難な取り組みを続けるパティマさんだが、本人は意外に小柄で、とても優しい話し方をする。
奴隷労働を含む違法・無報告・無規制(IUU)漁業への規制を欧米が強める中、世界第4位の水産物輸入大国でありながら対策が不十分な日本では、輸入天然水産物の約3割がIUU漁業に由来する可能性があるという。ツナ缶やペットフードを通じて、私たちの日々の生活が奴隷労働に支えられている可能性もあるのだ。
パティマさんたちの活動によって漁業での奴隷労働が知られるようになり、タイでは関連法が改正され漁業監視が強まり、輸出入データの整備や船員登録などが進んだが、IUU漁船はより規制の緩い国へ船籍を移して操業を続けているという。日本を含む消費国側から魚の流通のトレーサビリティを確保し、奴隷労働が使われていないことを確認する取り組みが求められる。
パティマさんは2週間の滞在中、東京の豊洲市場や宮城県などの、持続可能な水産物の調達に取り組む漁業者や飲食店などを訪問、管理システムに基づき外国人技能実習生を適正な形で受け入れている漁業者とも交流した。また、宮城県石巻市では水産高校で高校生と交流した。「IUU漁業対策として漁業教育は重要。タイでも是非学校を設立し、教育による漁業者の育成を実現したい」と言う。そして日本政府に対し、「世界の持続可能な漁業やIUU漁業の撲滅に向けて、リーダーシップを発揮してほしい」と訴えた。(ぬ)