特集/COP28報告~成果と課題、日本への示唆COP28の評価~NGOの視点から
2024年02月20日グローバルネット2024年2月号
国際環境 NGO FoE Japan
髙橋 英恵(たかはし はなえ)
本特集では、会議に参加したNGO・研究者に、それぞれの視点でGSTやCOP決定文書の成果と残された課題を報告いただき、今後政府、企業、自治体、市民に求められることを考えます。
2023年11月30日から12月13日にかけ、第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦・ドバイにて開催された。2023年3月に公表されたIPCC第6次統合報告書によると世界の平均気温はすでに1.1℃上昇し、世界各地で気候災害が日常化している。また、紛争も至る所で起きており、COP28開催国近くのガザ地区では、市民への無差別攻撃が続いている。多くの人々の命が失われる中、COP28への参加については市民社会でも議論となり、会場でもその分断を感じずにはいられなかった。本稿は、そのような中で開催されたCOP28の結果、会場でのグローバルサウスの市民の声について取り上げたい。
グローバルストックテイク
COP28では、パリ協定下で気候変動対策の進捗の全体評価を行うグローバルストックテイク(以下、GST)に多くの注目が集まっていた。GSTは、緩和、適応、実施手段や支援、損失と被害、国際協力など多くの論点を含む。合意文書に「化石燃料の段階的廃止(Phase out of fossil fuel)」が盛り込まれるかが注目されていたが、結果的には「化石燃料からの脱却(Transition away from fossil fuels)」と弱められた文言が採択された。
また、緩和策として、CCUS(炭素回収利用と貯蔵)、水素、原子力、ジオエンジニアリングなど、化石燃料や既存のエネルギーインフラの延命を主目的とした技術が盛り込まれた点も問題である。そして、世界の再生可能エネルギー容量を3倍にすることも採択されたが、途上国で再生可能エネルギー拡大を実施するための先進国からの資金・技術支援や環境社会配慮に関する言及はない。
しかし、すべての化石燃料からの脱却に触れた初めてのCOP決定として、広く受け止められている。また、先進国が気候変動への責任を回避するべく、気候変動枠組条約やパリ協定の原則である「公平だが差異ある責任」への言及を避けようとする中、先進国の歴史的責任や公平性について合意文書で再確認されたことは途上国にとって重要な成果となった。
不十分な「化石燃料からの脱却」
COP28では「化石燃料からの脱却」は合意されたものの、合意文書では、途上国での化石燃料の段階的廃止のための実施手段や資金、技術提供、キャパシティ・ビルディング支援について触れられなかった。また、先進国が率先して自らの化石燃料の生産・使用を廃止することも約束されなかった。
長年交渉分析に携わるFoEマレーシア代表のMeena Raman氏は「気候変動への歴史的責任を鑑みるならば、化石燃料の段階的廃止は公平かつ公正な方法でなされるべきで、先進国はその取り組みを率先しなければならない。それにもかかわらず、先進国や温室効果ガスの多排出企業らは彼らの歴史的責任を認めようとしなかった」と批判した。
途上国は、気候危機に加え貧困問題や債務問題などを抱えており、人々のベーシックニーズを満たすための開発がまだ必要である。開発ニーズを満たしながら脱炭素化を行うには、先進国からの支援が必要だ。しかしいまだに多くの排出は先進国からのもので、途上国に残された排出許容量(カーボンバジェット)はわずかしかない。
また、CANインターナショナル代表Tasneem Essop氏は「ここ(COP28)は、先進国が率先して自らの化石燃料の生産・使用を廃止する約束をするための場所のはずだ」と述べた。脱化石燃料の文言の有無だけではなく、その文言が途上国へのさらなる負担とならないようになっているかが、真に注目されるべき論点であった。
「原発容量世界で3倍」にNO
12月2日、米国政府主導で2050年までに原発による発電容量を世界で3倍にするという宣言が発表され、日本を含む22ヵ国が賛同を示した。前述の通り、GSTに関する合意文書内でも「ゼロ排出・低排出技術」の一つとして原発が言及された。しかし、原発は不安定で危険な上に経済合理性にも欠ける電源であり、ウラン採掘から運転・廃炉・核燃料の処分に至るまで環境を汚染し、人権を侵害するものである。
また、期間中、会場での原発に対する注目は大きいものではなかった。COP28の議論の焦点となっていたのは、脱化石燃料と再生可能エネルギーの拡大であることを改めて強調しておきたい。
会場でのグローバルサウスの声
交渉の傍ら、会場内では連日、気候正義を求める市民の姿があった。議長国が定めたそれぞれの日のテーマや交渉の状況に合わせながら、化石燃料の段階的廃止や新規ガス開発の中止を求めるアクション、損失と被害に対する資金は不十分であること、国際炭素取引などの誤った気候変動対策が議論されることへの抗議などが行われた(写真①)。
また、平和や人権、民主主義のための連帯アクションも毎日のように行われた。ガザでの戦争に対し停戦を求める抗議が会場の至る所で見られ、あるアクションでは、アクション開催日までに判明している犠牲者の名前と年齢を読み上げた。そのアクションに参加する人々や見守る群衆の中には、目に涙を浮かべる人々もいた。
他にも、議長国が「人権の日」と定めた12月9日には、開催国アラブ首長国連邦における人権活動家の逮捕に抗議するアクションも小規模ながら開催された。そして、同日開催された会場内でのマーチ、翌日に開催されたほぼすべての市民社会が参加する大型集会では、「平和や人権の尊重なくして気候正義は実現できない」という声が何度も力強く強調された(写真②)。
終わりに
気候危機が顕在化している今、この10年間で排出量を早急に削減することが求められている。気候変動対策は、今回途上国が守り抜いた「公平だが差異ある責任」に基づくべきであり、日本は、石炭火力発電はもちろん、CCUS、バイオマス発電、原発など誤った気候変動対策を進めるべきではない。
また、世界各地では戦争や人権侵害に反対し声を上げる市民を沈黙させる圧力が広がっており、日本も例外ではない。この傾向に対し強い懸念もあるが、今回のCOPは、抑圧に屈せず、仲間と連帯して行動することの大切さを改めて感じる機会だった。
私たち日本の市民に何より求められているのは、平和と気候正義を求める世界の人々に連帯の意思を示すことのはずだ。FoE Japanは、世界の市民との連帯を日本の市民と共に続けていきたい。