特集/政府、企業、市民は、グリーンウォッシュにどう立ち向かうべきか~政府、企業、市民に求められる行動金融業界のグリーンウォッシュの問題と対処策

2024年01月18日グローバルネット2024年1月号

弁護士、クライアントアース
ハイネケン・ハナ

法律・政策リサーチャー、クライアントアース
奥山杏子(おくやま きょうこ)

 地球規模の環境問題の危機意識が高まる中、問題の解決をうたう企業の取り組みに対して、「グリーンウォッシュ」(実態が伴わない環境配慮)との声が上がるようになっています。EUでは環境訴求に特化した「グリーン・クレーム指令案」や金融セクターにおける「サステナブルファイナンス開示規則」など、グリーンウォッシュ規制の取り組みが進んでいます。一方日本では、消費者庁の景品表示法に基づく是正措置命令や、金融セクターにおける「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の改正・適用などが行われていますが、市民の認知度はまだ低く、環境訴求に特化した法律もまだ存在しません。
 本特集では、グリーンウォッシュ規制を巡る国内外の状況について紹介し、今後この問題にどう対処するべきか考えます。

 

気候変動の影響に対する意識の高まりにより、投資家にとって莫大なグリーン市場の機会が生まれていますが、それに並行して、市場におけるグリーンウォッシュのリスクが高まっています。

本記事では、金融機関がグリーンウォッシュのリスクを回避するために、ネットゼロ誓約を裏付ける科学的知見に基づいてなすべきことを記します。

金融業界におけるグリーンウォッシュの問題

グリーンウォッシュには定まった定義はありませんが、金融業界の文脈では金融商品、投資戦略、企業が環境や気候にプラスの影響を与える性質や程度について虚偽、欺瞞(ぎまん)的または誤認を招くような主張や表現を行うことを指します。世界中の企業の約4割の環境主張は誤認を招くものであるとする欧州委員会の調査がありますが、中でも以下の理由で最も懸念されるのが、金融市場におけるものです。

  • 資本配賦(はいふ)を誤り、それによってグリーン経済への移行とパリ協定の気温目標への世界的なコミットメントを危うくする。
  • 企業のネットゼロ誓約に対する進捗状況の追跡を困難にする。
  • グリーンウォッシュを行う企業と、純粋に「グリーン化」した企業の競争を不公平にする。
  • グリーン商品への投資家の信頼を損ない、消費者がグリーン商品を取り入れることを妨げる。

日本も含め、世界中の規制当局は、グリーンウォッシュの判断が難しいことを認めながら、金融市場にとって重大な問題であるという懸念を感じています。金融庁のチーフ・サステナブルファイナンス・オフィサーの池田賢志氏は、「グリーン性が投資判断において勘案されることは、そのグリーン性の真正性・信頼性の問題が、投資者保護や正しい情報に基づく資本市場の機能といった問題と密接に関連することとなり、金融当局の関心を呼ぶに至るわけです」と記しています(「グリーンウォッシュとその回避方法:アジア金融業界向け入門ガイド」の「はじめに」より)。

企業のネットゼロ誓約の信頼性を高めるには

ネットゼロ誓約の信頼性を高める重要な方法の一つは、明確で強制力のある基準を設定し、各組織に包括的な実施を促すことです。そのため、各国は企業がネットゼロ誓約の約束だけでなく実行する責任を負うよう、国際・地域・国内レベルで次々と新しい基準を導入しています。これらは主に5つのアプローチに分類できます。

それは、気候関連情報開示の基準、気候関連のタクソノミー、ネットゼロ誓約の基準、グリーン格付け要件の基準、商品・ファンドの表示基準です。

ここ数年、企業の気候変動関連の開示責任が世界中で注目され、気候変動関連の戦略、リスク、機会や財務影響等の開示が求められています。特に注目すべきことは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年に発表した広範な気候とサステナビリティに関する基準であり、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)はISSBの基準に相当する日本版の基準を2025年3月末までに発行すると発表しています。欧州ではサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)や企業サステナビリティ報告指令(CSRD)による開示義務がある一方、日本の規制当局も情報開示を促す重要な措置を取っています。特に、2023年に金融商品取引法に基づく企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)を改正し、有価証券報告書および有価証券届出書の記載事項の内容に、サステナビリティに関する企業の取り組みについて記載欄を新設しました。金商法上の法定開示書類であるということは、虚偽記載があった場合、金商法上の特別法定責任があり、任意開示書類の虚偽記載の場合の一般の損害賠償請求と比べて訴訟のハードルが非常に低いことを意味しています。

機関投資家に関しても、ネットゼロ誓約の一環となる金融商品・ファンドの表示基準規制が厳しくなっています。金融庁は2023年3 月に「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」を改訂し、名称や投資戦略にESG 要素を含むファンドに対する新しいガイドラインを加え、誤解を招かぬように「ESG投信」に限り「ESG、SDGs、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブル」などの用語を使用できると定めました。米国の証券取引委員会(SEC)もESGラベル付きファンドにテーマに沿った80%の投資を義務付ける規則を制定しています。

その他に、欧州では、「持続可能な経済活動のためのタクソノミー」を導入し、シンガポールでは、グリーンまたはグリーンへの移行と見なされる活動を特定するためのタクソノミーを最近発表し、石炭火力発電所の段階的廃止に関する具体的な基準が含まれています。一方、日本ではグリーンまたはサステナビリティ・リンクのボンドやローンに期待されることを定めたガイドラインや、「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を定めています。

ネットゼロ誓約の基準はまだ規制に反映されていませんが、2022年に発行された国連事務総長主導の国連ネットゼロ報告書は非常に参考になるものです。

グリーンウォッシュに対する執行措置と訴訟リスクの上昇

ネットゼロ誓約の実現を妨げるグリーンウォッシュ問題に対処する上で、適切な執行手段が重要であり、今まで執行措置の対象となったグリーンウォッシュには、以下のようなものがあります。こうしたグリーンウォッシュとの主張には、既存の法律や規制に依拠した多くの法的根拠があります。

  • ⒜ブランドのグリーンウォッシュ:組織のプロフィール、活動、野心を全体的にグリーンウォッシュすること(例:2022年英国広告基準局によるHSBC銀行への広告規制)
  • ⒝ファンド・商品のグリーンウォッシュ:商品の不当表示や不当販売(例:2022年米国SECによるゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントへの罰金)
  • ⒞グリーンウォッシュ資産への投融資:グリーンウォッシュされた資産に「グリーン」ファイナンスを提供すること(例:2023年、フランスの注意義務法によるBNPパリバへの訴訟)
  • ⒟財務報告のグリーンウォッシュ:金融機関が環境関連の開示に関して虚偽または誤認を招くような記述をすること等(例:2019年、米国のエクソン社に対する株主代表訴訟)。

現在日本政府が推進しているGX政策の一つの施策として存在するトランジション・ファイナンスは、炭素集約型企業とその取り組みの漸進的な脱炭素化を支援することに重点を置いています。実証されていない「低排出」技術の開発、または排出量削減戦略や移行計画が乏しい場合への投融資はトランジション・ウォッシュのリスクが高いため、投資家は、国際エネルギー機関(IEA)の「Net Zero by 2050」ロードマップ等の国際的に認められた移行経路を利用して、資金調達者のトランジション戦略の信頼性を短期・中期・長期に評価する必要があります。

グリーンウォッシュ回避策について

上記を含むグリーンウォッシュのリスクを軽減するため、金融機関は以下に留意すべきです。

  1. 「自社のグリーンを精査する」:曖昧な表現は避け、十分な裏付けを有した記載にし、環境主張が客観的で正確であり、商品の目的に関して十分な具体性があること。
  2. 「誠実かつグリーンに」:金融商品にグリーン目標の組み込まれ方や金融上の目的について透明性を持って説明すること。
  3. 「グリーンの有言実行」:企業やファンドのグリーンイメージが、機関内部での行動や第三者との関係における行動と整合していることを確認すること。
  4. 「変化するグリーンの色合いを観察する」:期待や規制が急速に変化する中で、すべての関連法域での動向を監視すること。
  5. 「グリーンの義務に注意を払う」:投資家・ステークホルダーへの法的義務および受託者責任を知ること。

本記事はクライアントアースと気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC)の「グリーンウォッシュとその回避方法:アジア金融業界向け入門ガイド」報告書および、2023年10月4日に責任投資原則(PRI)年次総会で開催されたイベントでの発言をまとめたものです。

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