特集/政府、企業、市民は、グリーンウォッシュにどう立ち向かうべきか~政府、企業、市民に求められる行動日本でグリーンウォッシュ広告にどう立ち向かうか

2024年01月18日グローバルネット2024年1月号

弁護士、一般社団法人JELF(日本環境法律家連盟)事務局長
小島 寛司(こじま ひろし)

 地球規模の環境問題の危機意識が高まる中、問題の解決をうたう企業の取り組みに対して、「グリーンウォッシュ」(実態が伴わない環境配慮)との声が上がるようになっています。EUでは環境訴求に特化した「グリーン・クレーム指令案」や金融セクターにおける「サステナブルファイナンス開示規則」など、グリーンウォッシュ規制の取り組みが進んでいます。一方日本では、消費者庁の景品表示法に基づく是正措置命令や、金融セクターにおける「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の改正・適用などが行われていますが、市民の認知度はまだ低く、環境訴求に特化した法律もまだ存在しません。
 本特集では、グリーンウォッシュ規制を巡る国内外の状況について紹介し、今後この問題にどう対処するべきか考えます。

 

日本の政策が「グリーンウォッシュ」と批判される

2023年12月3日、ドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)において、日本は4年連続となる「本日の化石賞」を受賞しました。化石賞を主催するClimate Action Network(CAN:気候行動ネットワーク)はプレスリリースで、日本政府の進めている石炭火力発電所でのアンモニア混焼等の取り組みについて、「国内およびアジア全体で石炭とガスの寿命を延ばそうとする彼らの試みが透けて見える」とし、これは「グリーンウォッシュにほかならない」と受賞の理由について説明しました。

国際的な環境NGOに日本政府自身が「グリーンウォッシュ」をしている、と批判されてしまったのです。

アメリカ・オイルメジャーの歴史

グリーンウォッシュの背景を理解するために、アメリカの「オイルメジャー」といわれる世界的な石油産業関連企業の歴史を少し振り返ってみたいと思います。

最近の研究で、オイルメジャーが、実は1970年代から気候変動の影響を内部で予測していたことがわかってきています。

アメリカの中心的な石油業界団体である米国石油協会も詳細な温暖化の予測を行いながら、それを一般に公開せず、むしろ気候変動については説が分かれているという書籍を出版するなどしました。

このようなオイルメジャーや石油協会の動きというのは、97年に京都議定書が採択された頃から、大きく変わります。この頃から、石油業界全体が、突然、気候変動の否定をやめ、むしろ石油業界も再生可能エネルギーへかじを切るんだ、というような広告を行うようになりました。

しかし、実態はどうかというと、そういったオイルメジャーも、最近でも再生可能エネルギー(再エネ)に大きな投資をしていません。例えば、2019年時点でオイルメジャーが再エネ等に投資している金額は全体のわずか0.8%程度に過ぎなかったという調査があります。

海外における「グリーンウォッシュ」規制

2007年、石油大手シェルは「排出された二酸化炭素を植林に用いている」という広告をしていましたが、実態と合っていないとわかったため、英国の広告業界団体である広告基準協議会(ASA)がその広告の使用を禁じました。

また、ASAは、2019年には、アイルランドの格安航空ライアンエアーに対しても「欧州で最も排出量が少ない航空会社」という広告を禁じています。

このように、イギリス等ヨーロッパでは、「グリーンウォッシュ」広告に対して業界団体等が強い問題意識を持って規制を行っています。

また、ヨーロッパでは、消費者保護団体等がグリーンウォッシュに対して提訴する動きもあります。最近ではKLMオランダ航空による「Fly Responsibly」という広告に関連する表現の修正等を求めて訴訟が提起されています。

また、訴訟大国アメリカではこういったグリーンウォッシュに対する訴訟が多数提起されており、世界の中でも圧倒的な数になっています。アメリカの訴訟はほとんどのものが州の司法長官が起こした訴訟です。

ちなみに、アメリカではこういったグリーンウォッシュ訴訟も含めてこれまでに1,500近い気候変動関連訴訟が起こされています。

このように欧米では「グリーンウォッシュ」への問題意識が高まり、法的な問題と捉えられるようになってきているのです。これは、前述のような営利企業の本質のような部分を市民がよく理解して警戒しているものともいえると思います。

石炭火力発電所とグリーンウォッシュ

では、冒頭でご紹介したように国際的な環境NGOから政府の政策自体が「グリーンウォッシュ」だと批判されてしまった日本では、どうでしょうか。

膨大な二酸化炭素(CO2)を排出する石炭火力発電所は廃止していくべき、というのが世界的な潮流ですが、日本では今なお石炭火力発電所を新設しているような電力会社が多数あります。

しかし、これに対して日本国民が「怒り心頭」となったり、「恥ずかしい」という声が大きくなったりというのは、今のところあまりないように思います。

もしかすると、そういった電力会社の、再生可能エネルギーの導入を打ち出す広告・宣伝や、石炭火力発電所もそれほど悪いものではないという宣伝・広告が功を奏しているのかもしれません。

そのような広告の代表的なものが、株式会社JERA(以下「JERA」)による「CO2が出ない火をつくる」という広告(https://www.jera.co.jp/corporate/about/zeroemission)ではないかと私たちは考えています。 

JERAは、石炭火力発電所を維持しながら、燃料として燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを混ぜて燃やすことでCO2を減らそうという計画を立てています。しかし、このようなアンモニア混焼には複数の問題があります。

一つは、製造段階でCO2が発生することです。水素と窒素を反応させアンモニアを合成するために古くから用いられ、かつ今日も主流であるハーバー・ボッシュ法では、高エネルギーを使用します。そして、今日市場に流通しているほとんどのアンモニアを製造する際には、化石燃料が使われます。つまり、アンモニアは、その製造段階で多くのCO2を排出するのです。

「TransitionZero」(2022年2月発表のイギリスのシンクタンクの経済リポート)によれば、ブルーアンモニア(化石燃料を使用してアンモニアを製造するものの、発生したCO2を地下貯留するもの)・グリーンアンモニア(製造に再生可能エネルギーを使用するもの)による発電でない限り、石炭を変わらず使用し続ける場合と比べて、ほとんどCO2の削減効果はない(むしろ場合によっては多い)とされています。

また、アンモニア専焼が技術革新とアンモニア市場の確立により、計画通り2050年頃までにうまくいったとしても、パリ協定で定められた、気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えるという1.5℃目標達成には間に合わない可能性が高いと言わざるを得ません。1.5℃目標達成のための「カーボンバジェット」は限られており、2030年時点でCO2排出量を半減近くまで減らす必要があるからです。しかも、この石炭火力発電所でのアンモニア混焼技術はアジア等に輸出を進めることも検討されており、輸出後にこれがうまくいかず頓挫した場合、負の遺産が日本国内にとどまらず諸外国に残されることになりかねません。

こういった問題意識から、2023年10月5日、環境問題に取り組む弁護士約420名による任意団体であるJELF(日本環境法律家連盟) は、NPO法人気候ネットワークと共同で、JERAの広告はグリーンウォッシュであるとして、公益社団法人日本広告審査機構(JARO)に、このような広告を中止するよう勧告を求める申し立てをしました(https://www.jelf-justice.org/news/news-2214/

しかし、現時点(2023年12月)で、JAROからは私たちに何の連絡もありません。

JAROは苦情受け付けの窓口を設けていますが、審査基準や判断プロセス、過去の裁定結果も十分明確にはなっていませんし、企業からの独立性にも疑問があります。JAROには、イギリス・ASAのように公平・中立な立場からグリーンウォッシュを含む広告の問題について積極的に判断を行っていただくようになることを期待しますし、それが一般消費者の利益を守り、ひいては真に環境に配慮した経営を行っている企業を守ることになり、公正な競争と健全な経済発展につながっていくと考えます。

また、それだけでなく、私たち市民一人ひとりが、消費者として、耳障りの良い広告が実はグリーンウォッシュではないのか、頭を働かせ、目を光らせなければいけないと思います。

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