IPCCシンポジウム報告 「IPCC第7次評価報告書へ向けて~未来のために今私たちが行動しよう~」〈基調講演2〉都市と気候変動~ AR 6 からAR 7 へ
2023年12月28日グローバルネット2023年12月号
IPCC AR7 作業部会第2 作業部会(WGⅡ)共同議長、IPCC AR6 WGⅡ 主執筆者
ウィンストン・チョウさん
本特集では、10月23日に東京都内の会場で対面方式・オンライン方式併用で開催されたIPCCシンポジウム『IPCC第7次評価報告書へ向けて~未来のために今私たちが行動しよう~』(主催:環境省)における、AR7 の副議長、第2作業部会(WGII)共同議長、インベントリタスクフォース(TFI) 共同議長の基調講演と、AR6報告書の国内執筆者によるAR6の振り返りとAR7に向けた取り組みや展望についての発表の概要を編集部でまとめ、報告します。
なお、発表資料は、https://www.gef.or.jp/news/event/231023ipccsympo/をご覧ください。
AR6で注目が集まり始めた「都市」
「都市」について、第5次評価報告書(AR5)まで記述は少なく、AR5で言及されたのは第1作業部会(WGI)報告書で都市のアルベド(日射反射率)について1件とヒートアイランドについて2件だけ、第2作業部会(WGII)報告書では、「人間の居住、産業、インフラ」の分野における3つの章に「都市部」を取り上げた章が1つありました。第3作業部会(WGIII)報告書には、「人間の居住、インフラ、空間計画」の章があり、他にも非明示的ですが、都市部門を取り上げた章がいくつかある程度でした。
しかし第6次評価報告書(AR6)で大きく変わりました。WGI報告書では都市や人間の居住が地域規模の気候変動に与える影響についてフォーカスされ、第10章で「ヒートアイランドと気温の極端現象の影響」について言及されました。都市と地域の温暖化の比率を示した図では、都市とその周囲の間で見られる温暖化傾向の違いは部分的には都市化に起因している可能性があることがわかり、特に都市化が急速に進んでいる東アジアでは、都市部においてかなり温暖化が進んでいることがわかりました。
さらに「都市気候:プロセスと傾向」というボックスがあり(Box 10.3)、ヒートアイランドだけでなく、各プロセスを気候モジュールにおいてパラメータ化する方法、都市モニタリングネットワークの役割に関する情報を提示しています。
WGII報告書では、「都市」に関する章(第6章)と、地域別の章があります。また、クロスチャプターペーパーでは特に海面上昇の問題とリスクを軽減するための適応アプローチに関する論文が掲載されています。
複合的リスクとカスケードリスク
複合的リスクとカスケードリスクに関しても注目が集まりました。
洪水など急速に発現する事象があった場合、例えば変電所で洪水が起きると鉄砲水がエネルギー供給に損害を与えます。この直接の影響は、急速にカスケード状に伝播し、都市サービスの混乱、ITサービスの中断、交通管理の遮断を通じて社会インフラに複合的な影響を与えることになります。そしてこういった急速に発現した事象が慢性的な影響につながることがあることも示されています。また、コミュニティの中で、熱波や沿岸洪水、大気汚染などが慢性的に起きている場合、そこに住みたくないと人々が流出し、コミュニティがなくなり、知識やキャパシティが失われ、税収もなくなるということが示されました(図)。これは政策立案者の注目を集めました。
都市の適応オプションとして、気候にレジリエントな開発をしなければならない、ということになります。
さらにWGIII報告書では第8章で「都市システムとその他の居住地」を取り上げており、建物、輸送、産業の分野別チャプターにおいても、供給側の緩和策と需要側も、その評価において重要視されるようになってきているという記述があります。都市のグリーンインフラとブルーインフラがどのような形で洪水リスクを下げ、適応に資するのか、そしてSDGsとの連動が重要であるということが示されました。
統合的なアプローチこそがアクションにつながる
一方、統合報告書(SYR)では、政策決定者向け要約(SPM)において18回「都市」が取り上げられました。これは単にリスクが高まったというだけでなく、気候にレジリエントな開発を通じた気候対策の手段としての観点からも取り上げられています。適応と緩和、そして生物多様性の側面、さらにはSDGsも一緒に合わせていくことによって、説得力のある主張がなされています。このような統合的なアプローチこそが政策に関わるアクションにつながるものであり、1.5℃目標に合致した世界を担保することにつながるということが示されています。
AR6からAR7へ
2016年の第43回総会で、「気候変動と都市に関する特別報告書」の作成が決まりました。
各国政府や国連人間居住計画、世界大都市気候先導グループ(C40)参加都市、ICLEI(持続可能な都市と地域を目指す自治体協議会)などから強力な支持を得て、実務者や政策決定者、アドボカシー団体からは大きな関心を寄せられています。そして各WGが縦割りではなく、全てのWGが関わって貢献することにより、強力で統合的な要素を持つものになると考えます。
都市に関する特別報告書の今後のスケジュールとしては、来年早々スコーピング会合が開かれ、章立てと関連するトピックが設計されます。都市に関する専門知識を有する専門家に出席が依頼されますが、さまざまな地域やセクターの意見が反映されるよう配慮されます。
そして2024年後半に開かれるIPCC総会において特別報告書の概要が承認されたら、執筆者の呼びかけと選考プロセスに入ります。そして執筆者は2、3年かけて草稿を作り、政府や専門家等によるレビューを受け、2026年に総会において承認されることが期待されます。専門知識は重要ですが、包括的な評価には地域を代表できる存在であることが重要です。また、多様な視点をもたらしてもらうために、新しい人材も求められています。
都市は地球の表面に占める割合はわずか4%しかありません。しかし、都市からの温室効果ガス排出量は全世界の 70%を占め、都市は世界のGDPの80%を生み出しているということから、「1.5℃の世界」を作っていくという意味で重要な役割を果たすことができると考えます。