特集/レジリエントな社会構築のための気候変動適応策を考える国の予算で、すべての学校の教室の断熱改修を

2023年11月15日グローバルネット2023年11月号

「全国のすべての教室の断熱を」実行委員会
梶本 寛子(かじもと ひろこ)、藤法 淑子(ふじのり よしこ)

 今年9月14日、NASA(アメリカ航空宇宙局)は今年夏(6~8月)の世界の気温について、1880年以降の記録で最も暑い夏だったという分析結果を発表しました。国連のグテーレス事務総長も7月の記者会見で「地球沸騰の時代が来た」と述べ、各国政府などに気候変動対策の加速を求めました。日本列島もかつて経験のない猛暑が続き、命に関わる異常気象を多くの人が実感することとなりました。
 地球上で気候変動による影響や被害が顕在化している状況、また、昨年から依然続いているエネルギー価格の高騰も踏まえ、日本でも気候変動への適応策を加速させる必要があります。本特集では、日本社会が今後レジリエントで持続可能な社会を構築するための国、自治体、市民の具体的な活動を紹介し、重要な柱となるべき気候変動適応策について考えます。

 

今年は教室も暑かった

今年の夏は暑かった。7月末に山形県で部活動帰りの女子中学生が熱中症とみられる症状で搬送されその後死亡、北海道では8月に小学2年の女子が体育の授業の後、やはり熱中症の疑いで死亡するという痛ましい事故があった。事故を受けて文部科学省は暑いときの活動中止などの対策を改めて周知したが、実は教室もまた、大変暑くなっていた。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の前真之准教授が7月19日から21日にかけて実施した調査によると、埼玉県の、ある小学校の最上階の教室で、外気温最高37℃時、エアコンの設定温度は17℃で、室内は17℃だったが、天井の温度は42℃に達していたという()。

断熱されていない日本の教室

その学校は天井も壁も断熱されておらず、太陽の熱で高温となった屋根の熱がそのまま天井に伝わっていた。しかしこれは特殊なケースではなく、日本のほとんどの学校が断熱されていない。例えば横浜市でも1990年以降に設計された学校を除き断熱されておらず、「ほとんど断熱されてないと考えてよい」(市教育委員会)とのことだった。しかも、1990年以降に設計された学校でも、断熱材が入っているのは天井部のみ。住宅も同様だが、学校の断熱は義務となっていない(新築住宅については2025年から断熱等級4というレベルが義務化。それでも欧米の基準と比べると大幅に劣るが……)。学校の管理下での熱中症は毎年約4,000件発生しているが、暑さによる体調不良、食欲不振などは記録されない。子どもたちの健康のために学校の環境改善は喫緊の課題だ。

全国に広がる学校断熱改修ワークショップ

無断熱の学校を、地元工務店などの協力を得て子どもたちと一緒に断熱改修をする「断熱改修ワークショップ」という取り組みがある。これまでに約20ヵ所で行われてきた。形態は、市民主導、行政主導が主だが、長野県白馬高校のケースのように生徒からの要望で実現した例もある。費用も、市民や財団などからの寄付、行政の予算などさまざまな方法で賄われている。

小学校の場合は大人が資金集めや準備をし、子どもたちは当日、大工さんなどの指導を受けながら、断熱改修を行う。長野県の、ある高校では生徒自身が実行委員会を作って企画をした。

今年は、後述する神奈川県藤沢市の小糸小学校や、千葉県流山市の流山北小学校、静岡県焼津市の小川小学校などで行われた。準備から実施までの期間は2、3ヵ月から半年以上と幅がある。実施当日はお昼を挟み5、6時間程度が標準のようだ。実施後には生徒から「暖かい空気が保たれる」「換気してもすぐあったかくなる」(学校断熱ネットワーク信州発行「教室断熱改修ワークショップマニュアル」より)、「前はモワっとしていたけど、工事をしたら「キーン!」と冷え」た、「授業に集中できるようにな」った(さいたま断熱改修会議報告書より)などの声が寄せられている。この秋以降にも兵庫県の小学校などで実施が予定されている。

学校断熱改修ワークショップは、その教室の空調の効きが良くなって、夏涼しく、冬暖かくなる、光熱費削減となる、温室効果ガス削減になるという効果以外に、子どもたち自らトンカチを握って建具を完成させたり、足場を上って天井裏に断熱材を詰めるという職業体験的要素や、断熱の効果を実体験できて断熱の重要性を学べるなどの効果もある。

藤沢市で行われた学校断熱改修

藤沢市に気候変動対策を求める中で、「公共施設の断熱基準の向上を求める陳情」を市民グループで実施、全会一致の趣旨了承となったことをきっかけに、市から相談があり、藤沢市立小糸小学校の最上階の一教室を子どもたちと一緒に断熱改修するワークショップを3月25日に行った(写真)。藤沢市と共催だが、壁や天井に断熱材を入れ、アルミサッシの窓の内側に木製建具とアクリルで作られる内窓を造るための費用は、クラウドファンディングにより一般市民から約118万円を集めた。8組の親子が参加し、作業開始時は肌寒かったが終了後にはエアコンをつけない状態でも暖かくなった。実際に断熱化した教室と、していない教室の窓表面の温度差は約7℃。暑かった今年の夏にも、教室の温度を測定した。断熱化していない教室と比較して、圧倒的に異なるのは天井の表面温度である。

地域の工務店の職人さんから内容の説明を受ける子どもたち

国の予算ですべての教室の断熱を

断熱化した方が快適で、光熱費の削減に効果的であることは明らかだが、すべての教室を同様に市民の寄付などで断熱改修を行うことは現実的に不可能だ。今回かかった費用は「材料費」であり、工務店のほとんどの作業は無償での協力で成り立っている。

ワークショップは断熱の重要性を市民や子どもたちに伝える啓発として適しているが、断熱改修は本来公費で全教室行うべきことだ。藤沢市は7月には暫定的に公共施設の断熱性能の基準を引き上げたが、公共施設の中で使用頻度の高い消防署などを建て替えの機会を捉えて進めると議会で述べていて、学校を断熱改修するとはしていない。夏に学校を訪問したとき、廊下を含めた蒸し暑さに汗が吹き出した。学校は子どもたちが長時間過ごす場所であり、自治体が予算の問題で手をつけられないのであれば、国が予算をつけてすべての教室を行うべきではないか。

国立環境研究所の江守正多博士によると今年の夏の暑さは「序の口」だという。今後はもっと暑くなる可能性があるというのだ。エアコンは、2018年に小学生が熱中症で死亡したことを受けて、現在では設置率が9.5割を超えている。前出の前真之准教授によれば、エアコンの更新時期が来る前に断熱を施せば、小型のエアコンに変更することが可能という。前准教授の試算では断熱改修は1教室あたり150万円程度であり、全国の小中学校で行っても8,000億円程度だ( change.org オンライン署名「学校の断熱改修を、早急に進めてください」)。

この夏、私たちはオンライン署名サイトchange.orgで「学校の断熱改修を、早急に進めてください」と文部科学大臣や都道府県知事に求める署名を開始、8月29日に集まった約2万7,000筆を永岡文部科学大臣に手渡した。大臣は、断熱の必要性には理解を示したものの、すべての教室の断熱改修については答えを頂けなかった。

大人は涼しいオフィスで働き、子どもたちは暑い教室で義務教育を受けている。ここまで地球温暖化を進めてしまったのは大人の責任。地球温暖化の緩和策、また適応策として、子どもたちが安全に学べる環境を確保するため、国の予算ですべての教室の断熱を実現することを引き続き求めていく。

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