環境条約シリーズ 379IPBES 侵略的外来種の評価

2023年10月13日グローバルネット2023年10月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

2023年8月28日から9月2日までドイツのボンにおいて、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)の第10回総会が開催され、その成果として「侵略的外来種(IAS)とその管理に関するテーマ別評価」の政策決定者向け要約(SPM)が承認・公表された。その背景には、生物多様性の消失の五大直接原因(土地・海洋利用の変化、野生生物の採捕、気候変動、汚染、IAS)のうちでIASの周知度合いが最も低いこと、また、その拡散を人間活動が助長していることがある。

SPMによると、世界で少なくとも3万7,000種の外来種(そのうちIASは3,500種以上)が人間によって移動され、定着しており、新たに移動する種も年に約200種に急増している。外来種は在来の生物種や生態系に対して競合圧を及ぼしており、世界の動植物の絶滅原因の60%はIASである。また、第一次産業や経済、水・食料、人間の健康・生活などに対しても大きな脅威を与えており、外来種に関する2019年の世界の費用負担は推定で4,230億米ドルを超えた。

この現状に対してSPMは、費用対効果が最も高い手法として、侵入予防と早期対応に基づいた統合的で適応型の政策管理を提言している。具体的には、主な侵入・拡散の経路の特定、駆除・封じ込め・制御、生態系の復元などであり、それは、協調・協働・共同、政策の一貫性、横断的統合、必要な資源・資金の支援、公開かつ多方向の情報・データの提供、多様な主体の参画、能力構築のような戦略的行動を通じて達成することができる。

SPMについては、政策決定者にわかるように科学を説明しているという点で高く評価されている一方で、データの格差や特定の地域(特にアフリカ)の情報不足も指摘されている。今後は政策決定者による実行が課題であり、最善の手法として生物多様性国家戦略への組み入れが期待されている。

以上のIPBES評価は、昆明・モントリオール生物多様性枠組(本誌23年4月)の目標6とも重なる。

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