フォーラム随想遺品整理屋は見た

2023年10月13日グローバルネット2023年10月号

ジャーナリスト懇話会理事
森脇 逸男(もりわき いつお)

 妻がかなり以前に亡くなり、一人しかいない息子は勤め先の都合で他県に住んでいるので、小生はずっと一人暮らしです。まあ一人暮らしは気分的には楽で、部屋を片付けなくても文句を言う人はおらず、部屋は結局ごみがたまり放題。机の前から食卓に移動するにも、ごみをかき分けなければならない状態です。  そんな状態の中で、本屋に行ったところ『遺産整理屋は見た!』(吉田太一著、扶桑社)という本を見つけました。題名に興味を覚えて購入したところ、内容はかなりショッキングでした。  著者の吉田さんは、もともと日本料理の職人だったのですが、軽トラックを購入して運送業を始め、引っ越しの際に不用品が大量に出ることに着目して「ひっこしやさんのリサイクルショップ」を開業。やがて独居老人の増加に伴い、遺品の整理に困っている人が多いことに着目して、全国初の「遺品整理」専門会社「キーパーズ」を設立したとのことです。  遺品整理、言ってしまえば簡単ですが、中には本当にびっくりするようなケースもあるのですね。

 

 例えばこんなケース。親類には医師や会社経営者といった社会的地位のある人が多く、立派な家柄の方だったようですが、亡くなってからほぼ一年の間、誰にも発見されることがなく、自宅の一室で横たわったままの状態だったとのことです。  遺体を収容した葬儀社の方によると、遺体はほとんどミイラ化していて逆に扱いやすかったようですが、部屋の中はとんでもない状態で、床と言わず壁と言わず、部屋一面が黒光りしていたと言います。まるで黒いタイルを貼ったように、部屋全体がゴキブリに覆い尽くされ、ものすごい悪臭が立ち込めていたのです。  結局バルサンを大量に買ってきて、四時間ほど待機、再突入に成功したとのことですが、一人で暮らすには大き過ぎる家に住み、一見豊かそうな生活を送られてきた方ではあっても、亡くなられてから一年間も誰にも気付かれない人生、死後一年間もゴキブリと同居していた人生、そんな人生は本当に幸せだったのでしょうか。

 

 ほかのケースでは、例えば奈良の高級住宅街の一角の豪邸。足を一歩踏み入れた瞬間、強烈な悪臭が全身に襲いかかって来たとのこと。その悪臭は、死臭に加えて、犬猫のふんと腐ったごみの臭いのミックスだったそうです。  聞いてみると、八年前から一人暮らしをされていた八十歳の老女で、その八年間、一度もごみ出しをしたことがなかったそうです。そのため、ため込まれたごみの壁で、容易に中に進めず、結局、作業員15人が出直して作業。遺品の量はおよそ14トンに及び、亡くなったおばあさんの葬儀には肉親は一人も参列しなかったといいます。  世の中には本当にびっくりするような現実があります。自分がそうならないように気を付けたいです。

 

 わが家のごみのかなりの部分は、食品や薬をいろいろ送ってもらう関係で、ボール紙の空き箱をそのままマンションのごみ処理室に持って行くわけにもいかないので、今のところ空き部屋に積み込んでいます。もっとも空き部屋もかなり余裕がなくなり、先日小型の電動のこぎりを買いました。これで空き箱をどんどん処理してごみ処理室で処理してもらうつもりでしたが、生来の怠けぐせ、まだなかなか空き箱処理は進んでいません。  まあしかし、一応ごみ屋敷解消の道筋は何とかできました。あとは自分が反省して、ごみ処理に真剣に取り組むことになるのを待つばかり。いずれマンションは引き払って、老人ホーム入居も考えましょう。

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