NSCニュース No. 145(2023年9月)定例勉強会報告「サステナビリティ情報開示の世界標準となる基準 ISSB の概要と要点解説」
2023年09月15日グローバルネット2023年9月号
NSC共同代表幹事、横浜国立大学名誉教授
八木 裕之(やぎ ひろゆき)
企業のサステナビリティ情報については、さまざまな組織が開示基準を作成し、標準化に取り組んできた。2023年6月にIFRS(International Financial Reporting)財団ISSB(International Sustainability Standards Board)が公表したサステナビリティ情報開示基準はその重要な指針として位置付けられており、日本の情報開示制度にも大きな影響を及ぼすことが予想される。
NSCでは、サステナビリティ情報に関連する一連の勉強会を開催してきたが、今回は日本公認会計士協会テクニカルディレクターでSSBJ(Sustainability Standards of Japan)委員である森洋一氏を招いた(2023年8月31日開催)。
サステナビリティ情報開示をめぐる動向~日本とEUを中心に~
勉強会の位置付けを明確にするために、八木NSC共同代表幹事から、サステナビリティ開示基準をめぐる国際的な動向について、さまざまな開示基準の関係性と国際的な動向について、ISSB、EU、日本を中心に解説があり、開示基準の今後の展開と共通化の方向性が提示された。
サステナビリティ開示~ISSB基準開発動向と開示をめぐる諸課題~
IFRS S1 S2
森氏から、まず、基準設定主体のIFRS・ISSBと規制当局(政府)との関係と、ISSBが開発するガイダンス(適用ガイダンス、例示ガイダンス、教育マニュアル)が示された。
次に、本年6月に公表されたガイダンス、ISSB開示基準・IFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関連する全般要求事項」について、開示要請、コア・コンテンツ(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標)、サステナビリティ関連リスク・機会、重要情報の決定、リスク機会・開示情報の決定要因、情報の記載などについて解説があった。
また、IFRS S2「気候変動開示」について、気候関連コア・コンテンツ(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標)、戦略・意思決定、気候レジリエンス、指標、金融排出、GHG排出量算定基準、目標、産業別ガイドラインなどの解説があった。
ISSBの今後の活動
ISSBは、S2で示された気候変動に続いて、生物多様性、生態系、生態系サービス、人的資本、人権などに関する開示基準の設定や報告書におけるサステナビリティ情報の統合を進めることを検討しており、産業別基準として、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)基準の国際化も進めている。
ISSBによるグローバル基準設定に伴う重要課題としては、国・地域の開示制度・基準との接合性、開示書類、財務諸表開示との結合性、報告ガバナンス&プロセス(データ収集、モニタリング、開示タイミング)、情報の信頼性確保(内部統制、第三者による保証)が示された。
たとえば、ISSB基準は、国際会計基準と同様に、さまざまな国や地域での適用が想定される。そこでは、多様な情報ニーズに応えるために、各国・地域の開示制度・基準との接合性を高めることが重要である。
日本では、「企業内容等の開示に関する内閣府令」などが改正され、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目が設定された。SSBJはその個別開示基準の開発を担っているが、ISSB基準の日本基準への適合性が重要な論点となっている。
勉強会では、SSBJの情報開示基準の検討状況、IFRS S2とTCFD提言の同異点、SSBJ基準とISSB基準の関係性、日本企業のISSB基準への対応時期、任意開示と制度開示の関係性、GHG排出量測定基準などについて活発な質疑応答が行われた。
サステナビリティ情報の開示は、グローバルな基準の標準化と共通化が急速に展開している。日本でも、サステナビリティ情報開示制度の基本的な仕組みが構築され、気候変動や人的資本、ダイバーシティなどを皮切りに、サステナビリティ情報開示基準の整備、情報開示、情報利用が進んでいくことが予想される。
NSCでは、国内外の最新動向を踏まえながら、皆さんと一緒に、企業のサステナビリティコミュニケーションの在り方を検討していく予定である。