フロント/話題と人パヌート・ハディシスウォヨさん(オランウータンインフォメーションセンター(OIC)創設者・代表)
2023年09月15日グローバルネット2023年9月号
希望を失わず、オランウータンと共存できる社会を目指して
オランウータンインフォメーションセンター(OIC)は、2001年に創設されたインドネシア・スマトラ島のNGO。オランウータンの救出・保護、密猟防止のための森林パトロール等を行っている。今年7月、創設者のパヌートさんが日本のNGOや若い世代とのネットワーク強化を目的に来日。東京や大阪で講演や対談を行い、保全活動の現状と課題を伝えて回った。
スマトラ島のオランウータンは、複数の脅威に直面している。1990年代以降のアブラヤシ農園やその他農地の開発、紙パルプ用植林地の拡大、それに伴う入植・道路の建設等により生息地が分断・破壊され、森林から追い出され、農園で人と遭遇した際にあつれきの犠牲になったり、密猟の対象となってきた。少しでも生息地を回復するために、OICは地域の人との協働で、アブラヤシ農園を元の森林の状態に戻すための植林活動も行っている。
オランウータンは、天敵が多い地上を避けて、睡眠も含めて毎日約8割の時間を樹上で過ごす。オランウータンの行動範囲は広く、果物を採取し移動する過程で樹木の種を拡散し、森林の再生を助ける役割を担っている。パヌートさんいわく「森の農家」であるオランウータンの存在が森林を保全し、気候変動防止にもつながる。将来世代の人間にとってもオランウータンを守り、共存していくことが必要だと考えている。
残念ながら、生息地に対する圧力には歯止めがかかっておらず、残された森林を保全することがオランウータンの生存の鍵を握る。「保全活動は孤独な道のり。希望を失わず、少しでも解決に向けて動いていきたい」と語ったパヌートさん。1996年から1年間、国際交流プログラムで滞在したカナダ・ブリティッシュコロンビア州で、現地の自然保護団体の活動に参加。地域に根差したNGO活動について学ぶと同時に、母国の森林の現状をもっと知りたいと感じた。帰国後、人里離れた森深くの研究基地で助手として働いていたある日、メスのオランウータンに遭遇。長時間目を合わせ、「あなたの助けが必要」と言われた気がした。その優しく人間的なまなざしに取りつかれたことが、オランウータンに対する情熱の原点になっている。(克)