環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ気候危機~ジブンゴト化とメディアの連帯
2023年08月15日グローバルネット2023年8月号
東京新聞記者
押川 恵理子(おしかわ えりこ)
6月後半、小学2年生の長男が顔を真っ赤にして学校から帰宅し、ソファーに座るやいなや叫んだ。「お茶!」 熱中症の危険度を表す環境省の「暑さ指数」(ほぼ安全、注意、警戒、厳重警戒、危険)を調べると、都内は6月後半から「警戒」「厳重警戒」の日が増え、6月29日には最高の「危険」に。世界気象機関(WMO)などのまとめによると、6月の世界の平均気温はその月で観測史上、最も高くなった。
気候変動の記事は後回し
気候危機への対応は喫緊の課題だが、報道は伸び悩む。データベースサービスの「日経テレコン」を使い、全国紙と一般紙、専門紙を対象に、「気候変動」「温暖化」が含まれる記事数について過去20年の推移を調べた(図)。
記事数は2003年の500件台から徐々に増え始め、ポスト京都議定書を巡る動きがあった2007~09年は記事数が3,000~4,000件台に急増した。東日本大震災が起きた2011年と2012年は激減。2020年秋に当時の菅首相が「カーボンニュートラル宣言」を出し、気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開かれた2021年には再び4,000件台まで増えたが、2022年は2,000件台にとどまった。
筆者は東京新聞(中日新聞東京本社)経済部に異動し、東京新聞SDGs推進チームにも入った2022年春から脱炭素の報道に取り組み出した新参者。異動直前は北陸本社で石川県の新型コロナウイルス対策や知事選の取材に追われていた。中小企業や消費者に役立つ情報を報じると意気込んだが、そうした記事はニュース面に載りづらい。他のメディアも同様のようで、講談社の「FRaU web」が5月に開いた記者座談会でも「気候変動に関する記事は後回しになってしまう」との声が上がった。
市民から脱炭素化のうねりを
「書きたいけど、なかなか載らない」。筆者は自身の力不足は棚に上げ、社内会議でぼやいた。すると編集委員の大先輩から「じゃあ脱炭素の連載を月1回でやったら?」と提案され、今年1月から毎月第3土曜に「脱炭素社会へ」をテーマに連載している。企業の温室効果ガス排出量の見える化や使用済み太陽光パネルの大量廃棄に備えた対応などを取り上げてきた。
環境問題を「ジブンゴト化」するきっかけになればと、暮らしと脱炭素化を結び付ける企画を練り、5月はファッション、6月は交通を切り口にした。
日本は排出量取引や炭素税など温室効果ガスの排出に負担を求める「カーボンプライシング」(炭素価格)の政策が欧州などから大きく出遅れている。国レベルの排出量取引は今秋にも始まるが、発電事業者に排出枠を有償で割り当てるのは2033年度と遅い。当面は企業の自主性に委ねるかっこうだ。政策面のインセンティブが弱い中、商品購入など消費行動によって脱炭素化に積極的な企業を支えたい。
脱炭素化の動きは選挙における投票行動に通じると思う。「投票は微力であっても、無力でない」。政治の腐敗を追及した映画「はりぼて」などの監督で知られる石川テレビ放送の五百旗部幸男さんの言葉だ。
気候危機は「勝負の10年」に入っている。一人ひとりの行動の積み重ねは大きなうねりを生む。そう信じ、報道を続ける立場として心強いのがメディア間の連携だ。先日、実態の伴わない環境配慮「グリーンウォッシュ」の研修をハースト婦人画報社で体験させてもらった。日本環境ジャーナリストの会にも入った。共に学び、報道の質と量を充実させたい。気候変動によって子どもらを苦しめたくない。